21 学園にて
「はぁ……」
はッ! いけない、またため息が出てしまった……。
これでは幸せが逃げてしまうわ。…はぁ……。
先週末、ノーマン公爵より第2王子とカタリーナ様の婚約破棄が現実味を帯びてきたお話を伺ってから、私の心は雨模様……。絶賛混乱中だわ。
勿論、カタリーナ様が解放され、想い想われているマティアス様と上手くいきそうなのは嬉しい。…嬉しいのよ。本当に。
でも、人の心はやはりそう単純には出来ていないらしい。
「リリアンヌ? 何してるの?」
あっと……。幼馴染のサリアが係の仕事で先生の所に行っている間、ずっと物思いに耽ってしまったわ……。
いけない、またサリアに心配をかけてしまうわね。
「ええと……。これ、この『オブシディアン国史』を読んでたのよ……。次テストでしょう? やっぱりこの初代国王の所は絶対に出るわよね〜!」
本当に次は小テストなのよね。しまった、全然勉強してないわ。
「そうね……。でも我が国の歴史だし、まあ分かるわよね」
サリアはいとも簡単に言う。
「えぇ……? でも初代国王様の出身地から側近のお名前とかその当時の小国の名前とか国王様が攻めた順番とか戦いの名前とか、色々出るじゃない!
…あれ? 初代国王様って、ノーマン公爵様にそっくりね」
みんな似てるとは言ってたけど、髪と瞳の色の事だけかと思ってたわ。この初代国王様のお顔のアップの挿絵って初めて見るけど、本当にお顔立ちがそっくり……。
私が驚いて見ていると、サリアは、
「あぁ、リリアンヌは週末ご本人に挨拶に行って来たのだったわね。…と言うか、『それ』は人前では言ってはダメよ?」
人差し指一本たてて、私にメッてしながらサリアは言った。
「『それ』を言うと王様の怒りを買うって、昔から大人に言われなかった?」
は? ノーマン公爵様が初代国王に似てるって言うと王様の怒りを買う??
「…何ソレ。もしかして『初代国王の呪い』みたいな?」
「ちがーう! 今の、現在の、王様のお怒りを買う! のよ!」
と、コソコソ声ながらも怒鳴り気味のサリア。
「今の? …でもノーマン公爵様は初代国王の子孫なんだから、隔世遺伝で色が似てもおかしくはないわよね? ていうかお顔立ち自体は前王ともソックリなのだし」
「カクセイイデン? 何それ。…まあ、子孫なのだし黒髪金の瞳が似てもおかしくはないのだろうけど、何せ二世以降全く誰にも出ていない色だったでしょう? そしてとても優秀な方だった。…だから、王は恐れたのね」
ため息混じりにサリアが言う事に、私は成る程と納得した。
とても優秀で、初代国王とそっくりな、しかも国の危機を救い英雄となった弟。
…確かに、比べられるお兄ちゃんはある意味複雑かもしれない。
「…うん、わかった。気を付けるわ」
誰にでも触れて欲しくない事はある。そして、今の王は国政的にはご立派なお方だ。するべき事はされている。
…お身内には色々あるようだけれど。
「皆、席に着いて! 授業の時間ですー!」
教室に先生が入られて、休み時間が終わった。
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「ねえ、サリア! 卒業パーティー後の長期休み! 領地に帰るんでしょう? 私も遊びに行ってもいいかしら?」
授業後、帰り際サリアを捕まえて聞く。
「? いいけど……。貴女、マティアス様と会わないの?」
確かに普通は婚約者と過ごすわよね……。
「まあ……ね、いやね、そんなずっと一緒に居ないわよー! お仕事とか色々……、あるだろうし」
まさかその頃には婚約破棄してるから暇なの、とはとてもじゃ無いけれど言えない。
「ふーん? まあそういうものなのかしらね?」
「そうよー! 男なんてシャボン玉、なんだから!」
そう、人の心なんてそんなもの……。そうは思いつつも、マティアス様とカタリーナ様にはいつまでもお互いを思い合っていて欲しいと願っている。
「男の人がシャボン玉って何ソレ……。あ、でも、またシャボン玉で遊びたいわね! 石けん水に蜜を入れて、輪っかでたくさん作るの! 小さい頃貴女から教えて貰って、本当にキレイで楽しかったもの!
ふふ、子供みたいかしら?」
「そんな事ないわよ〜! 私も好きよ、シャボン玉……。シャボン玉……?」
何か、心をよぎった。
「…ね、サリア。シャボン玉ってあの時が初めてだった?」
「? そりゃそうよー! リリアンヌって昔から面白い意外な発想力があったわよね!
発想というか、ほら、流行病の時の『手洗いうがいマスク消毒換気』…なんてのもあったわよね。我が伯爵領もあれを教えて貰ってから大分流行を抑えられたのよね」
『手洗いうがいマスク消毒換気』、なんて完全に前世の知識じゃない? …私って『前世』として完全に思い出したのはひと月程前だけど、漠然とした何かは前世を覚えていたって事?
その時は、何か普通に閃いたというか、思い付いたかの様な感じで深くは考えていなかったけれど……。
それに、あれは……。
私はもう一つの事実に気付く。
きっと、『あの方』も前世の記憶をお持ちなのだわ!
今の私の様に完全に『前世』として思い出していらっしゃるかは分からないけれど……。
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シャボン玉は日本では江戸時代頃流行ったらしいです。
この世界では石鹸がまだ貴重な事もあり、まだ器具を使ってまでのシャボン玉遊びははなかった、という事で…。
「〜なんてシャボン玉」は小さい頃から聞いていた言葉です。




