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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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13 2人の思うこと

「ノーマン公爵、こちらが昨日の軍会議の資料でございます」


「あぁ。確認させてもらうよ。…座って待っていてくれ。キリバス、お茶を出したら人払いを」


「はい。旦那様」


 ノーマン公爵邸の執務室。軍の政務官であるマティアスが訪れ、公爵家の侍従のキリバスが対応する。いつもの光景。


「…ところで、例の件はどうなっている?」


 完全に人の気配がなくなってから書類を置き、チラリとマティアスを見て問うノーマン公爵。


「…はい。学園では第2王子の恋人マリー嬢が冤罪をかける為の工作を色々仕掛け始めたようです」


「…工作?」


 不穏な言葉にノーマン公爵は顔を顰めた。


「はい。…例を挙げますと、自分の持ち物、例えば教科書や筆記用具等を自ら破損させ『誰か』にされた、いじめを受けている、と第2王子や周りの令息達に訴えているようです」


「バカな。自分で破損しておいて、他人にされたと訴えていると? まさかそれをルーカス達も信じてはいまい」


 困惑気味に言いながらも、自分の甥を信じたいノーマン公爵であったが……。


「残念ですが……。第2王子始め4人の高位令息達はすっかりマリー嬢に夢中な様で……。彼女が言う事はほぼなんでも信じてしまっている様です」


「なんと……。嘆かわしいことだな……」


 ため息混じりに呟いた。


 マティアスも若干眉間に皺を作りながら話し続ける。


「以前から他の令嬢達にも嫌がらせをされていると訴えているようですが、これはマリー嬢が婚約者のいる令息に馴れ馴れしくした事による正当な抗議の事かと思われます。

 コレらは全て第2王子やマリー嬢に付いている『影』により証明出来るかと思われます。

 そして王家よりお借りした『影』がカタリーナ嬢にも付いておりますので、他の事項につきましても彼女の無実が証明出来るかと」


 マティアスは学園での様子はリリアンヌから聞いている。第2王子やマリー嬢は結構大胆に行動しているらしく、気を付けて見ていれば学年の違うリリアンヌでも分かる程らしい。


 それでも学園の一般生徒に王家の人間に対するその証明をさせるのは難しい。

 それで王家より『第2王子と将来の王子妃の身を守る為』との名目で『影』をまた新たに借りている。


 『影』とは王家の始まりより仕える者。警護が中心だが王家の為の諜報活動等の影の部分も主要な仕事。その為身分を明かす事はないが、それなりの身分の者としてそこかしこに潜り込んでいる。

 その諜報活動の内容は裁判等できちんとした証拠とされる。


「そうか。油断は禁物だがカタリーナ嬢の無実の証明は問題なく出来そうだな。

そして、リリアンヌ嬢が言っていた『公爵家の乗っ取り』の件だが……。マティアス、君はどう思う?」


 執務室が重々しい空気に包まれる。

 事は貴族の根幹に関わる事だけに、マティアスには簡単には答えられなかった。


「済まない、答えにくい質問であったな。

…もしもそれが罷り通るならば誰も王族にはついては来ないだろう。それだけの罪だ。

しかし、本当にルーカスがシュバリエ公爵家との婚約を破棄しようとしているのなら、その後の事をどう考えているのか。まさかマリー嬢の子爵家に婿入りなどと考えてはいないだろう」


「…そうなると、やはり答えは1つの様な気がいたします。だからこその、カタリーナに冤罪を被せての婚約破棄、なのでありましょう」


 マティアスの答えを聞いて深く、溜息を吐くノーマン公爵。


「…カタリーナ嬢に無実の罪を被せ廃嫡とさせ、婚約破棄し無関係となるにも関わらず自分がその公爵の地位を継げる、と……。本気でその様な愚かな事を考えているのだろうか……」


 暫し、部屋に沈黙が訪れる。


「マティアス、甘い事と言われるかも知れぬがこの『乗っ取り』の件だけは、私に預からせてはくれまいか。

勿論、必ず2人の婚約は破棄させる」


『必ず、2人は婚約の破棄を―』


 マティアスは、じっと目を閉じた。

 あの日あの時、どんなに手を伸ばしても届かなくなった愛しい存在。

 その彼女にもう一度、いやこれからはずっと――。


「…私は、2人の婚約が破棄され彼女の無実が証明されれば。…彼女が晴れて自由になれるのなら、何も申す事はございません」


 しっかりと、ノーマン公爵の目を見て言った。


「ありがとう、マティアス。

…時に、マティアス。君は今回何もかも上手くいったとして……。その後どうするつもりだい?」


 途中から、ノーマン公爵の目が少し厳しくマティアスを見る。


「私は……。リリアンヌ嬢の許しを得たなら、カタリーナと……カタリーナ嬢と共に人生を歩む道を選びます」


 少し苦しそうにそう告げるマティアス。


「リリアンヌ嬢次第だと言うのは、不誠実では? 彼女が許さないと言えばそれで諦めると? 彼女を傷つけて更に『許す』と言わせるのは、彼女を更に苦しめる事になりはしないかい?」


「アルフレッド様……。おっしゃる通りです。ですが……。今私はここまで無私に動いてくれるリリアンヌ嬢の許しを得ずには進めません。

…ですが、何度も誠実に彼女に許しを乞います。そして今度は絶対にカタリーナを離しはしません!」


 厳しく問うノーマン公爵に、それでもリリアンヌの許しを得なければならないと告げるマティアス。


「…リリアンヌ嬢は、許すと言うだろうね。

けれどそこから君たちは彼女に本当の許しを得る為に、努力し続けなければならないよ」


「承知しております。許しを得る事が出来たなら、それから私とカタリーナはずっと彼女を……、リリアンヌ嬢を守り続けると誓います」


 頷くノーマン公爵に固く誓うマティアス。

 あの日、リリアンヌがカタリーナに関する協力を申し出てくれたあの日から、彼女には感謝するしかない。

 カタリーナを守る術が無く、彼女が不幸になるのを見ているしかなかった無力な自分に、リリアンヌは助けるチャンスをくれた。


 リリアンヌはカタリーナとは別の意味でかけがえのない存在だと思っている。


「マティアス、君の決心を聞いて安心したよ。リリアンヌ嬢は今は君達の為に一生懸命だから大丈夫だろうが、その後落ち着いたら辛い思いをする事になるだろう。

さてその時だが……。マティアスがシュバリエ公爵の1人娘と結婚となれば、ワーグナー侯爵家は二男のダニエルが継ぐ事となるだろう。ダニエルはリリアンヌより一つ上の18歳。通常この状況ならこの婚約は歳も近いダニエルと結び直す、という事になるかと思うが……。

マティアス、ダニエルはまだ……、例の、子爵令嬢の事を?」


 それを聞いたマティアスは、本当に、何とも申し訳ない気持ちになった。



お読みいただきありがとうございます!


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