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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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14 侯爵家の人々

 ダニエル ワーグナー。

 ワーグナー侯爵家二男。18歳。少し癖のある金髪に緑の瞳。幼い頃から軍で鍛えていた為、少し細身の兄マティアスより軍人らしい筋骨隆々とした身体つきだ。


 ダニエルは現在王立学園の3年生、でありながら早くから軍に通い身体を鍛えるのは勿論ワーグナー侯爵家が代々軍人をよく輩出する家であり、跡継ぎでない自分の将来を見据え早く騎士となり手柄をたて爵位も得たい、という事であるのだが……。


「はい。…ダニエルは幼馴染の子爵令嬢との結婚を子爵に認めてもらう為、日々将来爵位を得る為に精進しております」


 小さな頃は大人しく、高位貴族のお茶会では上手く立ち回れなかったダニエルだが、侯爵領近くの子爵家の令嬢と仲良くなり結婚したいと言い出した。


 有力な侯爵家ともなれば二男であっても縁を繋げたいと思う貴族もあり、是非とも婿にとの話も多々あるのだが…。


「相変わらず、か……。ダニエルは思い込んだら一直線な所があるからな。1人の女性を一途に思う事は素晴らしい事だが……彼女の方はどうも違う様子。

彼の真っ直ぐな性格は好ましく頑張り屋でもあるのだが、周りが見えていない所が心配ではあるな」


 ノーマン公爵は溜息混じりに言うとマティアスも大きく頷く。


「その通りです。ダニエルは愚か者ではないのですが、当主となるには心配な所です。今回の件、父には話をしているのですが、同じ意見です。

そして後継は三男ノエルと考えているようです。侯爵家として領民に責任がありますから」


「ワーグナー侯爵も苦渋の決断であったであろう」


 マティアスは頷き、少し口調が重くなった。


「…そしてダニエルが跡継ぎの可能性が出てくれば子爵家が出張ってくる可能性があります。両親は二男とはいえ由緒ある侯爵家との結婚を認めなかった子爵家を快くは思っておりません。

今の状況はダニエルが子爵に認めてもらう為と頑張る姿を見て、それを邪魔するのも憚られての事。決して子爵令嬢との結婚を見据えての事ではありません。

彼が侯爵位を継ぐのなら結婚を認める、と言って来られても絶対に認めないと申しておりました」


 ノーマン公爵も頷く。


「そうであろうな……。

そしておそらくリリアンヌ嬢も、また他に好きな者のいるダニエルとの縁談にうんとは言うまい」


「はい。そして三男ノエルはまだ11歳。誠に惜しいですが我が家との縁は難しいかと考えます」


「リリアンヌ嬢の縁を我らが考えるのも筋違いかも知れないが、出来れば良い縁があればと思うのだ。

王家の不始末から招いた不幸に巻き込まれた被害者という事もあるが、彼女はなかなか見どころのある女性だからね」


 マティアスはそこで少し気になっていた事を聞く事にした。


「アルフレッド様。誠に不躾な質問ですが……、最初からリリアンヌ嬢に肩入れされていたのは、この不幸の連鎖の被害者というだけですか?」


 マティアスは真面目に聞いたのだが、ノーマン公爵は少し驚いた様子を見せてから笑った。


「ふふ……、私がリリアンヌ嬢に懸想しているとでも?」


「いえ、そこまでは言っておりませんが……」


 違うのだろうか? この冤罪話をする前、初めて夜会で婚約者として紹介した時からノーマン公爵はリリアンヌに興味を持ったように見えた。

 勿論、カタリーナを想うマティアスの婚約者となったリリアンヌに、同情か憐憫の思いを抱いただけかもしれないが。


「…実は、私は会ったことはなかったが彼女の事を知っていたんだよ。

マティアス、4年前の流行病があった時、地域によって被害に結構な差があった事は知っているだろう?」


 疫病の流行。この度の騒ぎのある意味元凶となった災い。


「勿論覚えております。…僭越ながら我がワーグナー侯爵家が1番被害が少なかったかと。我が母の侯爵夫人の采配で疫病の被害が他所に比べて大幅に抑えられたと聞いております」


 マーガレット ワーグナー侯爵夫人。フォートナム公爵令嬢だった母は、潔癖症かと思うほどの衛生環境に厳しい人だった。

 ワーグナー侯爵領は水道環境から下水、医療、ゴミ環境に至るまで母が嫁いてきてから劇的に改善してきた。


 疫病騒ぎになる前は実は皆辟易していたのだ。『潔癖症の奥様』と陰で言われる事もあり子供心に嫌な思いもした。


 それが国中が疫病に侵された時、ワーグナー領だけが明らかに患者が少ない。

 そして侯爵領のシステムに感化されて同じ様な事をしていた他の地域も少なく、反対に侯爵領ながら地元の反発でシステムが出来なかった地域には疫病が流行ってしまっていた事から、侯爵夫人の勧めたシステムが要因とほぼ確定された。


 疫病の流行が収まった後、少しずつそのシステムは他の地域でも採用されている。

 そしてワーグナー侯爵家と夫人の名声は国中に広がり、国での立場は磐石となった。


「そう。ワーグナー侯爵家が素晴らしい功績を挙げた。

…だが調べると侯爵領程ではないものの、明らかに他の地域よりも疫病の流行を抑える事が出来た地域があったのだ」


 マティアスはハッとして顔をあげ、ノーマン公爵を見た。


「まさかそれが……」


 ノーマン公爵が頷く。


「そう。カールトン伯爵領。当時13歳だったリリアンヌ嬢の活躍だと地元では評判となっていたのだ」


お読みいただきありがとうございます。


三男ノエルは観察力のある、ちゃっかり者の少年です。

マティアスが子供の頃カタリーナに出会い妹が欲しい、と親に話をしてから生まれた子です。

…弟でしたが、マティアスはとても可愛がっています。

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