125 大聖堂
大聖堂の中はそれは大騒ぎとなった。
それはそうだろう。新国王の戴冠式の最中、しかも大聖堂の中での国王暗殺未遂事件だったのだ。
私はあの時咄嗟に動いたものの、後で思うとただただ恐ろしくて体中が震えていた。そう、恐ろしかった。暗殺者も恐ろしかったけれど、何よりもアルフレッド様がもしどうにかなっていたらと思ったら――。それが何より怖かった。
そして、そんな震える私をアルフレッド様は抱きしめてくれていた。
「リリアンヌ。ありがとう。流石にあのタイミングは私も危なかった。貴女のお陰で助かった。…リリアンヌ? もう大丈夫だ。怖がらなくていい」
そう言いながら、軽く背中をトントンと優しく叩いた。
「〜〜〜ッ! 私…もし……、もし、アルフレッド様がどうにかなっていたらどうしようかと……」
そう言っていたら、涙が溢れてきた。
と、その時周りの人達の顔が見えた。
! …ダメだわ。ここは各国の色んな方々がいらっしゃる場所。我が国の王の婚約者が弱くては、他国に侮られるわ!
私はなんとか頑張って涙を止めた。溢れた分は手でキュッと拭く。
「…陛下。私は大丈夫ですわ。さあ、早く儀式の続きを! 儀式をお受けになり皆に正当なる国王の誕生をお見せくださいませ!」
アルフレッド様は初め少し驚かれた顔をされたけれど、すぐに私の意図を分かってくれたのか小さく頷き、少し強く私を抱きしめてからフォートナム公爵に預けた。
「…皆の者!! 私を暗殺しようとする痴れ者が現れたが、我が婚約者リリアンヌの機転で危機は脱した! これより改めて戴冠式を執り行う! さあ、大司教殿、儀式の続きを!」
アルフレッド様は威厳ある声でそう仰り、儀式は再開された。そしてアルフレッド様は今度こそ大司教様より王冠を戴き、無事戴冠式は終わり名実ともに正式なオブシディアン王国国王となられたのだった。
私はその間、フォートナム公爵夫妻の間で座らせていただいた。そして実はずっと手足が震えていた私の手を夫人はずっと優しく握っていてくださった。…後で思うととても恥ずかしいのだけれど、この時ばかりは本当に震えは止まらなかったのだ。
戴冠式の儀式が終わり王冠を戴いたアルフレッド様がこちらに近付いてきた。
あら? この後は陛下は馬車でパレードしつつ王宮まで戻りその後ベランダから国民への挨拶、でしたわよね? 私はそのバルコニーから参加する事になっていたのですれけど……。
アルフレッド様は私の手を取りそのまま私を連れ、一緒に大聖堂の真ん中の通路を歩き出した。
え? ここは予定ではアルフレッド様お1人で歩いて行くところですわよね!? フォートナム公爵夫妻を見るとお2人は頷かれた。え? このまま一緒に行ってよし、ってことですか?
私はワタワタしていてはいけないので、とりあえず堂々とアルフレッド様の隣で歩き出した。彼は私の手を彼の腕に絡ませた。うん、本当に結婚式のようですね。
大聖堂の席に座る方々も拍手をして新国王を祝福してくれている。
「アルフレッド国王陛下! おめでとうございます!」
「新しい時代の幕開けだ!」
「途中あのような事があったが、未来の王妃が止められた……。本当に良かった! 素晴らしいことだ!」
私達は大聖堂の出口まで行き、そこで後ろに向き直り礼をする。中にいる貴族達から割れんばかりの拍手や歓声が起こる。
そして扉が開かれ外に出ると、そこでも大きな歓声につつまれた。大勢の民衆が集まっていたのだ。
「新国王陛下!!」
「アルフレッド国王陛下、万歳!!」
「アルフレッド国王――!」
人々の歓声が次々に聞こえた。
アルフレッド様が皆に向けて手を挙げる。
ワッ!!
まるで振動が響くように皆が盛り上がった。
「さあ、リリアンヌも」
え? 私ですか!? …まだ、ただの婚約者なのですけれど。
でも盛り上がる雰囲気を壊すのもダメよね……。アルフレッド様をちらと見ると彼は私の顔を見ていて、さあと促した。
私も思い切って手を振る。
ワッ!!
あら、私でも皆様盛り上がってくれましたよ。ちょっとホッとしつつ、皆をグルっと一回り見てからまたアルフレッド様を見た。目が合い、2人で微笑み合う。
そしてそれを見た観衆がまた盛り上がったところで、私達は馬車に乗り込み更に盛り上がった沿道に手を振りながら通り抜け、王宮へ向かった。
民衆が詰め寄る沿道を抜けて王宮の敷地内に入ると、この時を待ちかねていたかのようにアルフレッド様は私を強く抱きしめた。
「リリアンヌ! 恐ろしい思いをさせて済まない。…そして、ありがとう。貴女のお陰で私は今、こうしていられるのだ。…私は今まで自分は死ぬのは怖くないと、ずっと思っていた。だが、今は死んで貴女と離れるのは絶対に嫌だ。愛する貴女と、ずっと共に居たい……」
アルフレッド様は、更に強くそして確かめるように私を肩や腕を撫でながらそう言われたのだった。
そして馬車は王宮の入口に到着した。
馬車の扉が開かれると、そこにウォード伯爵が待っていた。
「陛下! …よくぞご無事で……!」
ウォード伯爵は陛下のお顔を見て泣き出さんばかりに言いながらも、さあこちらへ、と次の予定へと私達を進める。
「…先程の『司教』の他にあの後すぐにあの場から離れようとしていた怪しげな者たち数人を捕らえてございます。ただ今取調べをしておりますのでまたすぐに報告があるかと。…さあ、少し休憩を入れましたら、その後はバルコニーから民衆に手を振りお声を掛けていただきます」
「分かった」
陛下が侍従に身なりを整えてもらっている時、ウォード伯爵がこちらに来られた。
「…リリアンヌ様。此度は、誠に…誠に、ありがとうございました……! 我らアルフレッド様に忠誠をお誓いする者は、貴女様に心より御礼申し上げます……!」
ウォード伯爵は、…本当に涙ぐみながら仰った。
今まで、といってもそれほど付き合いは長くはないけれど、それでもこんな彼は初めて見た。本当にアルフレッド様を好いてくださっているのね。
「いいえ。私も咄嗟で……。ウォード伯爵が儀式の説明を詳しく教えてくれていたお陰ですわ。あの『宝剣』を見てそんな予定があったかしらと不審に思ったのです。そしてあの『司教』があんな服でよかったですわ。私は後ろの裾を引っ張っただけなのです」
私はあの時を思い出しながら、また少し身体が震えた。
そうして私達は少しの休憩を取り、国の重鎮たる後見の公爵様方や大臣方も集まり、次々とお礼を言われてしまった。
アルフレッド様が挨拶をしにバルコニーに行かれようとした時、
「リリアンヌ。…貴女も共に」
あれ? コレも予定と違いますよね? 私は後で紹介される形でバルコニーに出るのではありませんでしたっけ?
そう思い、周りの方々を見ると、またしても皆に頷かれた。ええと……、行って良し、という事ですかね?
そう思いながらアルフレッド様の手を取り、そのままバルコニーに出る。すると……。
ゥワァッ!!
外から唸るような歓声が鳴り響いた。まるで大地から響いているようだった。よく見ると、ベランダの向こうはずっと人々がひしめき合っていて、人々は笑顔で声をあげていた。
「アルフレッド新国王陛下ー!!」
「ご即位おめでとうございます!!」
「我らが王、アルフレッド国王様ーッ!!」
それを見たアルフレッド様が手を振られる。またしても大きく歓声が響く。
アルフレッド様は一通りの方向に手を振った後、スッと手を留めるジェスチャーをした。観衆達もスッと一気に鎮まった。
「皆、ありがとう。たった今戴冠式を済ませ正式に即位した、オブシディアン王国国王、アルフレッド オブシディアンである。皆にこのように祝福され、この国の王となる事が出来、誠に嬉しく思う。私はこの国を平和で人々が安心して暮らせる豊かな国にしていく事を誓おう!!」
ゥワァッ!!
またしても観衆が唸るような喜びの声をあげる。そして、また手を挙げ皆が鎮まる。
「そして、皆に知らせる事がある。先程の戴冠式の最中に私の暗殺未遂があった」
ザワッ!!
「…見ての通り、私は無事だ。犯人は捕えられ取調べ中である。…そしてその犯人が司教に扮し私の側で急に剣を取り出したその時、私を救ってくれたのは、リリアンヌ カールトン伯爵令嬢。…私の婚約者である彼女が、凶行に及んだ暗殺者の服を咄嗟に掴みバランスを崩し、私はその隙が出来たお陰で暗殺者を倒す事が出来たのだ」
オオォ……!
「彼女は私の命の恩人であり、…私の命である。彼女リリアンヌ カールトン伯爵令嬢は、学園卒業後、私の妃に、この国の王妃となる。きっと良き妻良き王妃となり、この国を更なる繁栄へ導くであろう!!」
ゥワァッ!!……
一際強い歓声が巻き起こる中、彼は私の目を見ながら手を取りそのまま私の手の甲に口付けをした。そしてその場は更なる盛り上がりとなるのだった。
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