124 戴冠式
「皆様方。そろそろ儀式のお時間でございます。リリアンヌ様、陛下の所へご案内いたします」
女官長がやって来て、私は後見の皆様に見送られ陛下の元へ向かう。
「陛下。失礼いたします。リリアンヌ様をお連れいたしました」
「入れ」
陛下のいらっしゃる控え室に入ると――。
そこには、黒を基調にした軍服を華麗にアレンジしたような装いのアルフレッド国王陛下が居らっしゃった。
「リリアンヌ」
うわぁ、そして私を呼ぶその声! 見つめてくださるその瞳……! 素敵過ぎて、萌えます……。
「…リリアンヌ。今日もとても美しいよ。…? どうしたんだい?」
私が固まって(萌えているんですけど)動かないので、陛下は心配してくださった。
「…いえ! …陛下が余りに素敵過ぎて……。つい、見惚れてしまっておりました……」
私は、最近自分の気持ちを正直に話すようにしている。その方がアルフレッド様は喜んで下さるし、私もただの不審者? にならないですしね!
「! …そうか……。貴女がそう思ってくれて嬉しいよ。しかし、リリアンヌの方が余りに美し過ぎて、私も貴女から目が離せないのだが……」
陛下はそう言って少し照れながら私の前まで来て、また2人見つめ合う。――そしてどちらからともなく手を伸ばし2人の手が触れた瞬間――。
ゴホンッ!!
大きな咳払いが。あ、しまったわ。コレはまたウォード伯爵が――? あれ? 伯爵は横にいらっしゃるけれどさっきは確か後ろから聞こえたわよね?
「国王陛下、リリアンヌ様。お部屋の中に入ってからなさってくださいませ。入口でされては扉が閉められません」
まさかの、女官長でした!
私達がそろりと中に入ると扉を閉め、「ではお続きをどうぞ」、と言われた。いえ、出来ませんって!!
私達2人はちろりと目を合わせ、お互い苦笑いをした。
「さあ、お2人共今はそんな時間はございませんよ! さて、今日は特に市中で変わった動きもなく、この後は手順通りに――」
ウォード伯爵にこれからの予定を説明され、儀式へと進むのだった――。
オブシディアン王国の戴冠式――。
それは、この国の最も格式高い大聖堂で行われる。ちなみに、結婚式も当然ここで行われるのだ。
今回私は婚約者という立場で、陛下より早く聖堂の中に入り席に座って儀式が始まるのを待っている。でも当然結婚式ではお父様と一緒に途中まで歩いて、そのあと陛下と――。
…ダメだわ。なまじ同じ場所でする予定だからその事ばかり考えてしまうわ。
私はその考えを振り払うように、とりあえず周りの様子を見ようとちろりとキョロキョロしない程度に見渡す。
正面には、この国の大司教様が待機されている。白いゴッソリ被るタイプの正装、そして襟元には美しい刺繍。…そう当然結婚式でもこのお方が――。イヤイヤ、今は考えない!
今度は少し斜め前を見る。大司教様のサポートをする司教様達が準備をされているわ。結構何人もいらっしゃるのね。そして司教様も白いゴッソリ被る正装なのだわ。その襟元に入っている刺繍の色合いでその地位が分かるのかしらね。
そして儀式で使うのかしら。結構色んな物が用意されているわ。…アレはアルフレッド様が冠られる王冠ね!! うわぁ、あの王冠を戴いたアルフレッド様……。きっと素敵よねぇ。楽しみだわ! あの、王笏や宝剣もその時に渡されるのかしら。
そして横をチラッと見る。たくさんの衛兵の方がいらっしゃるわね。それはそうよね。こんな所で何かあっては大変だもの。上を見ると、見事な細工の天井が広がっている。…素敵ねぇ……。
見惚れていると、横からトントンと合図される。
「リリアンヌ様。落ち着かないのは分かりますが、余りキョロキョロされるのはいけませんぞ」
フォートナム公爵が注意してくださる。私の席は畏れ多くも1番前の通路側、隣は公爵というとんでもない席なのだ!婚約者特権のようなのだけれど、緊張するので本当はもう少し後ろが良かったですわ……。
「はい……。申し訳ございません。何かしていないと落ち着かなくて……」
「まあ、分かりますわ。私も未だにこのような上位の席は落ち着きませんもの」
フォートナム公爵夫人がそうフォローしてくださった。
私が笑顔で返そうとすると、
「陛下のご入場です!!」
入口から声が掛かった。
たちまち聖堂内はしんと静まり、厳かな雰囲気に包まれた。
そして扉が開かれ、陛下が入場される。
陛下は聖堂の通路を丁寧に慎重に進まれた。私の隣を通る時、ちらとこちらを見られる。目が合い笑顔を交わした。
大司教様の前に到着され、儀式は厳かに始まった。
私は陛下の斜め後ろから、彼の姿をじっと見ていた。マント越しでも分かるシャンと伸ばされた背筋、よく鍛えられているのがよく分かるわ。国王となられてお忙しいはずなのに、毎日の鍛練は続けられているのね。この国を背負っていかれることになった陛下。私は、少しでもその彼の力になれるのかしら……?
そんな事を思って見ていると、斜め横の司教の方が宝剣を捧げるように持って陛下に渡す為に私の前を通る。
あら? でも打ち合わせに宝剣を受け取る、なんてあったかしら……? 私はなんだかモヤモヤしてその司教の方を凝視した。
一瞬、大司教様も『?』というお顔をされた。その時!
「アルフレッド!! 覚悟!!」
そう叫び、宝剣を抜き陛下に襲い掛かったのだ!
!! …イヤだ!!
私は立ち上がり、必死でその司教の服の後ろを掴み引っ張った。
被るタイプの服なので、司教は首が閉まる形となりバランスを崩して後ろにひっくり返りかけた。
…そこからの陛下の動きは凄かった。司教の持っていた宝剣を持つ手首を掴みつつ足で腹を蹴り、掴んだ手首を捻り上げナイフを落とし、その後司教を掴み後ろ手を捻って動けない状態にした。
そしてその後は衛兵に取り押さえられ、司教……の、フリをした暗殺者は連れて行かれた。
私は呆然と、その様子を震える両手を握りしめながら見ていた。横にはフォートナム公爵や夫人が私を守るようにいてくださった。
そして……。
「リリアンヌ!!」
陛下が戻って私を強く抱きしめたのだった……。
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