122 最強の後見
ベルガー伯爵達は、ただただ驚いていた。ベルガー伯爵夫人の口を押さえていた手が外れ、ただ呆然としていた。手が外れても夫人も呆然としていたので何も言わなかった。
「あ……義兄上……。義兄上は、知っておられたのですか……?」
ベルガー伯爵は呆然としながら口を開く。
「知っていた……。…知ってはいた、が……! まさか、信じられるはずがあるまい!? パーティーで可哀想な令嬢にその場限りで言った慰めだと、普通は思うではないか!」
その情報や噂を耳にしていても、事の真偽を確かめもせず馬鹿馬鹿しいと流してしまっていた。
シーボルト侯爵は自分の失態に苛立ち伯爵に当たった。
「伯爵に当たっても今更仕方あるまい。……貴公は国の重鎮の1人でありながら、重要な情報の精査も出来ない、陛下に無礼を働くなど、五大侯爵家の一角が聞いて呆れるわ」
普段温厚だと言われるシュバリエ公爵は、今日は随分と辛辣だった。
そこで、先程まで呆然としていたベルガー伯爵夫人はハッと我に返り叫んだ。
「……私は……私は知らなかったのです! そ、それに……、私は社交界の実力者でしてよ? 女性の世界では私が貴女の味方にならなければ、この社交界ではやっていけなくてよ!」
ベルガー伯爵夫人は言い訳しようとしたが、途中でそうだ社交界では自分が上、いくら『後見』がついていようと、女の社会ではこの私に勝てはしない! とばかりに息巻いた。
「……ご心配なく。リリアンヌ様には私達5家の夫人がついておりますの」
ワーグナー侯爵夫人であるマーガレット様がその気品ある姿で現れほほほと笑いながら、私の側に立つ。
大広間の人々はその姿と言葉に驚き固まった。
「……私達は家の主人だけの『後見』ではなく、家全体での『後見』なのですわ。5家全ての夫人はリリアンヌ様にベタ惚れですのよ。けれど貴女のところの派閥は皆おべっかばかりの日和見主義者。すぐにこちらに尻尾を振ってきそうですわね」
そう言ったマーガレット様のその横にはフォートナム公爵夫人、シュバリエ公爵夫人、ソドムス侯爵夫人、そして現在王太子妃のルイーゼ様が続いた。
うーん、コレは壮観ですわよね! 国王陛下の周りには5家の公爵や侯爵に王太子とウォード伯爵。私の周りにはその奥様方。カメラがあったら記念撮影しておきたい位だわ……!
「まさか……! 後見に夫人方も関与しているなど……!」
ベルガー伯爵夫人はがっくりと膝をついた。
周りの方々が騒ぎ出す。
「ワーグナー侯爵夫人が、リリアンヌ様のお味方とな……! それは我が国の社交界を握ったも同然ではないか!」
あら、やっぱりマーガレット様が一番の実力者なんですのね。私がマーガレット様をチラと見ると、ニッコリと笑い返された。うん、コワイ。
「それに、公爵家の夫人お2人もか……! そして侯爵家の夫人お2人に王太子妃……。社交界でも向かう所敵なし、ではないか?」
「夫人方までもがここまで味方するなど、聞いた事がないぞ?」
そこで陛下は真剣な顔になって仰った。
「恐らく、この国で1番王妃に相応しいのは、リリアンヌ カールトン伯爵令嬢、彼女だ。彼女の人柄、今までの功績、高位の貴族5家の後見、その夫人達のサポート、……それに何より私が心より愛する女性だからだ。私の横に並び立ち、共に生きていくのはリリアンヌ カールトン伯爵令嬢だけである! 異議のある者は今ここで申し出よ!!」
その威厳のある陛下のお声に大広間にいる者達は皆頭を下げた。
「「ございませぬ!!」」
広間中の人々がそう答えた。
陛下は大広間中を見渡し、皆が頭を下げているのを確認すると頷いた。
「皆の者、感謝する! 私アルフレッド オブシディアンはリリアンヌ カールトン伯爵令嬢を正式に婚約者とし、これから2人で良き国に導いていく事を誓おう!
そして今日は私が国王となって初めてのパーティーとなる。是非、皆楽しんでいってほしい!」
アルフレッド様がそう笑顔になって仰ると会場が盛り上がった。
「そして、シーボルト侯爵、ベルガー伯爵一家の者。本日は楽しんでいくが良い。沙汰は後日言い渡すので、心しておくように」
アルフレッド様……。それでは今日はちっとも楽しめないですわよ? そうは思ったのだけれど、自分達が起こした事だから仕方がないのかもしれない。
そう考えていると、陛下から手を差し出された。
「……踊ろう。私達のファーストダンスだ。……婚約者殿?」
婚約者!!
そうでした、王家と伯爵家との婚約の取り交わしはもう済んでいて、あとは正式に発表するだけの段階だったのだわ。……今から陛下と私は皆も認める正式な『婚約者』となる。
うわぁ、なんだか気恥ずかしい!! 婚約はそれこそ2回目なんだけれど、気持ちが全然違うわ……。マティアス様の事も『好き』だと思っていたけれど、憧れのようなものだったのかしらね……。
そんな風に現実逃避な考え事をしていたら、もう陛下にダンスホールに連れて行かれていた。
え? 私のダンスの腕? 今までは普通……位だったけれど、なんせダンスの名手であるフォートナム公爵夫人にみっちりしごかれましたからね! まあまあ踊れるようになったと思いますわよ! ……多分。
そして音楽が流れ、私達は踊り出した。陛下のダンスのリードはとても踊りやすくて、私は今までで1番素敵に踊れたと思う。そして、夢見るようにとても楽しい!! 私は皆が注目しているのもいつしか忘れ、ダンスを楽しんだ。
「リリアンヌ。……とても、美しいよ。ダンスも素晴らしい」
陛下が褒めてくださった。私はうふふと笑う。
「フォートナム公爵夫人に教わったのです。夫人はダンスの名手ですもの。こんなに楽しく踊れるなんて初めてですわ! ……そして……。あの、アルフレッド様も、とてもダンスがお上手で、素敵です……」
最後は少し照れて俯いてしまった。ほんのり赤くなった私の顔を陛下は嬉しそうに見つめられた。私が陛下のお顔を見るとバチッと目が合う。私達はお互いしか居ないかのように、見つめ合いながら……いつの間にか音楽は終わった。ダンスってこんなに短かったかしら……。
そして、盛大な拍手が贈られた。
私達は礼をしながら、最後は2人の世界に入っていた事にお互い少し笑い合った。
それから色んな方々に陛下と2人で挨拶をした後は、後見の夫人方と一緒にパーティーを大いに楽しんだ。時々陛下や後見の男性陣も混じって、それは楽しい時間だった。
そのままパーティーは盛況に終わり、私達2人のお披露目は大成功で終わったのだった。
その後、また私が王宮に泊まるかどうかでアルフレッド様とウォード伯爵は派手に揉めた。けれど、
「両親が来てるので一緒に帰りますね」
私がアッサリそう言うと、ウォード伯爵は笑顔で頷きアルフレッド様は捨てられた子犬のような顔をされた。可愛い……。
そして私はカールトン伯爵家に両親と一緒に、色んな出来事を話しながら帰ったのだった。
……そしてナタリーは王宮のスイーツをご褒美に持って帰ってくれていた。
――後日――
シーボルト侯爵とベルガー伯爵は蟄居を命じられ、それを恥じ両家は息子に家督を譲られた。ベルガー伯爵夫人は暫く社交界に出入り禁止になり、セイラ嬢は2週間程停学となった。
恐らく伯爵夫人はもう社交界復帰は難しいだろう。元伯爵と一緒に領地で暮らすのではと言われている。
セイラ嬢は……。学園に復帰したら、また声を掛けようと思う。最初は居づらいと思うけれど、こういう事はきちんと学園に来て誠実に過ごしていたら、皆いつしか少しずつ忘れていくものだわ。いつか笑い話になるくらいにしていければいいなと思っている。
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