120 それぞれの行動
ドナルド マルクス前侯爵から大筋の話は聞いていたが、これは思ったより酷いな……。
アルフレッドが新国王として即位の挨拶をしている最中、貴族としてのルール違反を犯してきた「ベルガー伯爵」。彼と彼の妻の実家であるシーボルト侯爵は、前王の時代から姑息に動き回る一族ではあった。
この度自分が独身の国王として即位するにあたり、熱心に自分の娘の縁談を勧めてきた貴族の一つでもあった。
このパーティーで即位の挨拶をした後、愛するリリアンヌの紹介をしようとしていたので、流れを止められたことに多少の苛立ちはある。しかしいい機会ではあるので彼女を巻き込む前に彼らを処分してしまおうと考え、そのまま言わせるだけ言わせていたが……。
これは酷い。
王家も貴族のなんたるかを分かっていなかったが、この両家はもっとだ。しかも、身分に拘る割に自分達は身分制度を守っていない。平気で私や公爵や侯爵の上位の者に無礼を働いている。
これは、兄王も随分ご苦労されていたのやもしれないな……。
とにかく、リリアンヌを広間に呼ぶ前に事を済ませてしまえそうで良かった……。そう思っていた時。
周囲の貴族から遠巻きにされていたベルガー伯爵達の近くに、1人の令嬢が近付いた。
うん? あの令嬢は……、まさか。
その美しい所作立居振る舞い、華のようなその姿。この3週間程で上位の貴族夫人達にしっかりと仕込まれた、それ以上の出来栄えで彼女リリアンヌは現れた。
彼女が入って歩いて来ただろう場所は、きっと彼女の気品に気圧されて避けたのであろう人垣の通路が出来ていた。
そしてリリアンヌの後ろでナタリーがなんとも言えない表情でついてきている。きっと彼女に押し切られたのだろう。
そして皆が離れ孤立状態にあるベルガー伯爵の令嬢に何やら話しかけた。初め、相手の令嬢は非常に驚き怯えているように見えたが。
そのまま令嬢の説得を行い、満足のいく答えを引き出せたのだろう。にっこりと笑ってからこちらに向き直し真っ直ぐに私を見た。
……その目は、私を挑戦的に捉え、また私の心を鷲掴みにしたのだった……。
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……前から思っていたのだけれど、セイラ嬢は根は悪い子ではないのに身分制度に拘り過ぎているきらいがあるのよね。
学園でセイラ嬢は自分より下位の者と見ればよく難癖を付けている様子だったのだけれど、私が少し挨拶などをして声をかけるとスッと逃げるように去っていく。捕まっていた方に話を聞くと、まあ言っている事は大筋間違っている訳でもない。ちょっと偏り過ぎというか、若干お高く止まり過ぎている感はあるけれど。あー、そんな事まで言わなくていいのに……みたいな。
だけど彼女は、1人になってしまっていた生徒に声をかけていたり、学園の係で花壇をきちんと管理していたり、いい所があるのを見て知っていたのよね。
だから私としては彼女の事はキライではなかった。身分に拘り過ぎて欲しくなくて、いつか分かってもらえたらいいなと敢えて何度も声をかけていた。
でも今日の彼女は残念ながら、悪い所が前面に出てしまっていた。
そして彼女の家族を見ると、成る程、やはり身分に凝り固まった方達で、だから彼女もそういう考えになってしまっていたのねと納得した。
――まだ、陛下のお呼び出しはないけれど――。
私はスッと立ち上がった。
ナタリーがどうしたのかと私を見た。
「ナタリー。私、ちょっと行って来るわね」
「お花を摘みに、でございますか?」
「……いいえ。ちょっと、大広間に、ね」
ナタリーは目を見開いて驚く。
「大広間、でございますか? リリアンヌ様? まだ陛下のお呼び出しはございません。もう少し、こちらでお待ちくださいませ」
私はナタリーにうふふ、と微笑みかける。……ナタリーは嫌な予感がしたのか複雑そうな表情をした。
「あのね、ナタリー。私はあのセイラ嬢と学園でちょっとした知り合いなの。彼女は今とても困っている様子だし、頑張れーって喝を入れて来るわ」
「……お待ちください。リリアンヌ様がセイラ嬢と学園でお知り合いなのは存じあげております。下位の者を虐めるセイラ嬢にリリアンヌ様がお声掛けをされていることを。とてもじゃないですが、リリアンヌ様がお助けするようなご関係ではありませんわ」
「ふふ。そうでもないのよ。……私は彼女の良いところも見て知っているの。そして彼女の本質は『善』だと私は思っている。それを確かめにね、行こうと思っているの。私の見る目が正しいかどうか。それに……苦しい時、誰も助けてくれないのは辛いものよ」
ナタリーは納得していない顔をしていたが、私はもう行くと決めている。……誰でも、あんな四面楚歌の場面では苦しいものだわ。周りから見て逃げ道があったとしてもその時の本人には分からない場合もある。私はそんな彼女にほんの少しだけ、手助けをしたいだけなのだ。その手を取るかどうかは本人次第だけれど。
「……迷惑をかけるけれど、付いてきてくれると嬉しいわ。ナタリー」
そして、私は1人で突っ走るような勝手な行動は許されない立場だから、ナタリーに無理をお願いした。
ナタリーは大分思案してから、無理矢理自分を納得させたようだった。
「……無茶はなさらないとお約束してくださいませ。そして彼女がおかしな行動をとればすぐさま処理いたします」
ナタリーさん? 処理って……。
私は苦笑しながらも、コレはセイラ嬢の身の安全の為にも頑張らなくてはね、と思ったのだった……。
そして、大広間の一般招待客用の入口に行く。
新国王の即位のお披露目パーティーだけあって大勢の貴族の方々がいらした。その皆が、ある貴族を遠巻きに囲むようにしている。
私が大広間に入ると、入口周辺にいらした貴族の方々が気付かれこちらを見た。
私は失礼にならないように軽く礼をし微笑みかける。すると皆様はっとしたように軽く礼を返しながら道を開けてくださった。それは連鎖反応のように起こり、まるでモーセの『十戒』の海割りのように、ベルガー伯爵達の元まで道が開けた。
あら……? 行き易くなって良かったけれど、皆様どうなさったのかしら……。
そう思いつつセイラ嬢の後方まで歩いて行く。ほぼ真後ろにまで来ても、青い顔をして俯くセイラ嬢は私に気付いていなかった。
そして私は彼女に声を掛け、盛大に怯えられながらも彼女から反省している旨の答えを出す事に成功し、陛下にお声を掛けた。
この、一般の広間から見上げる陛下のお姿も、またご立派で素敵だった。私が顔を陛下に向けた時には彼はもう私を見てくださっていた。2人の視線が絡み合う。そして私は目で陛下に『お願いを聞いてくださいね』と語りかけた。が、陛下に伝わっただろうか……。
だけど陛下はセイラ嬢の謝罪の後、私の元に来てくださり、
「貴女の願いならば叶えない訳にはいかない。……全く貴女からは目が離せないね、無茶をする」
……そう仰って、私の手を取ってくださり微笑んでくださった。私は陛下と目で気持ちが通じたのね、と嬉しくなったのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ベルガー伯爵達の『ルール違反』は、この世界の貴族のルールです。
そして、リリアンヌはアルフレッドと目で通じ合えた! と思っていますが、実は微妙にズレています…。




