117 入場
不意にそれまで演奏していた楽団が音楽を止める。人々は自然と話を止めた。そして、侍従の声が響く。
「国王陛下の御成である! 皆の者、頭を下げられよ!」
声がかかり、大広間の先程までの騒めきが嘘のように収まり皆が頭を下げる。
ファンファーレが鳴り、侍従の先導の元、アルフレッド新国王陛下が入場された。王家専用の上座の入口から広間より数段上に王家の方々が座られる場所がある。その中央の王の椅子の前に陛下は立たれた。
アルフレッド様……!
とても堂々とされていて、なんて素敵なの……!
私は陛下に惚れ惚れしていたのだけれど、それは会場内にいる御令嬢達も同じようだった。
『陛下、とても素敵だわ……!』
『国王陛下になられて益々素敵になられたわ』
うん、皆様気持ちはすごく分かりますわ……。でも頭を下げながら様子を窺えるなんてすごいですわね。
「皆の者、頭をあげよ」
皆一斉に頭をあげ、新国王陛下を敬意の念を持って見上げる。
「此度、オブシディアン王国の国王となることになった、アルフレッド ノーマンこと、アルフレッド オブシディアンである」
陛下の低く心地よい声が、王宮の大広間に響く。
「私が国王を任される経緯については、皆もよく知っていることと思う。王家が皆に不安を与えてしまったこと、誠に遺憾であり、皆に謝罪する」
皆が陛下のお言葉に聞き入っている。
「そして皆の推挙、そして前国王陛下とエドワルド王太子の推挙を受け、この度前王の弟である私が国王となることになった。
そして私は国王となった以上は、この国をより住みよき国、皆から信頼される国にすると誓おう。そして、その為には皆の力が必要なのだ。
国とは、1人の力で作るものではない。皆で作り上げるべきものだ。私はその為の国の礎となり皆の声を聞きより良い方向へ進めていこう!」
わっ!!
会場の貴族達が盛り上がる。
『アルフレッド国王陛下!!』
『我らが王! アルフレッド国王陛下、万歳!!』
皆口々に声をあげて、アルフレッド様が国王になった事を喜んでいる。なんだか私も誇らしい気分だわ。
そこで国王陛下はスッと手を挙げると、会場も静かになった。
「皆、本当にありがとう。…あと幾つか報告をしなければならない。1つはジェダイト王国の事だ。14年前より何かと問題があった国だが、この度彼の国は国王陛下が交代された。その新しき国王とは今はお互い友好国となる事を目指して話し合いを進めている。更に良い報告が出来るように期待していて欲しい」
おおー!!
会場が驚きと喜びに湧く。長い間、何かと揉め事が多かったジェダイト王国と、そこまでの話に持っていけるのはアルフレッド様だからだわね。
「…そして、もう一つ大切な報告がある。これは私の妃、将来の王妃の話だ。…私には今、心惹かれる女性がいる」
キャー!!
ざわざわ……。
な、なんなのでしょう? 今の悲鳴は……。
アイドルのコンサートで、アイドルが何か言う度に『キャー』となる、アレなのかしら?
そして、アルフレッド様……。心惹かれる女性……。
…私も、心惹かれております。貴方だけ……。
「私はその女性に結婚を申込み、この度承諾を得る事が出来た。私はその愛する者と力を合わせ、この国をより良い方向に導いていく!」
おおぉーっ!!
イヤーッ!
今度のざわつきはかなりバラバラだったわね。女性もだけれど、男性の方でもお身内の方を王妃としたかった、ということかしらね?
「お待ちください!!」
ザワッ!
そこに出てきたのは1人の壮年の男性。あのお方は……。
「国王陛下、ご即位おめでとうございます。そしてジェダイト王国の問題解決も誠におめでたい事でございます。…しかし、お妃に関してはいかがなものでしょうか」
ザワザワ……。会場がざわめいている。
「…あの方が、ベルガー伯爵、先程の令嬢セイラ嬢のお父上でございます」
解説してくれたナタリーと、思わず顔を見合わせる。
ええと……。ベルガー伯爵は空気の読めない……、いえ、常識を知らない方なのかしら? 今、陛下がお話をされている。許可無しで話し出すのはルール違反……、王に対する不敬だわよね。
そう思って見ていると、まだ伯爵は話し続けた。
「この国では代々高位の令嬢が王妃になっております。と、なれば今相応しいのはマルクス侯爵令嬢でございますが……」
そこでいきなり名指しされたマルクス前侯爵は、とても迷惑そうなお顔をされた。
「…我が娘は最近婚約者が出来た。王妃候補からは外れておる」
まるで巻き込まないでくれと言わんばかりに渋々答えられた。
すると、ベルガー伯爵は大袈裟に驚いてみせた。
「…なんと! 唯一の高位貴族の婚約者のいなかった令嬢がいなくなりましたぞ! …となれば、次は侯爵家の令嬢を母に持つ、我がベルガー伯爵家のセイラとなりますな」
と、いかにも嬉しくてニヤケそうなのを堪えている、と言った風に仰った。
うーん、これもどうなのかな……。身分で決めるなんて初めから仰っていないし、王妃は身分順に決まる訳でもないわよね? でもベルガー伯爵の中では婚約者の居ない身分の上の令嬢から決められると決め付けているみたいよね……。
それと何より、周りの方々の空気を読めないというのも問題よね。私は少し離れた周りをよく見渡せる位置から見ているからよくわかるのだけれど、皆様引いてるというか呆れてるというか……。
そして、陛下に対して無礼だとお怒りになってらっしゃるご様子なのが、あの上位貴族のいらっしゃる方向……。お怒りの空気をビシバシと感じるのだけれど……! うん、余り分かりたくないけれども、私のよく存じ上げる『後見』の貴族の方々のような気がするわ……!
「控えられよ! ベルガー伯爵」
ウォードに諌められ、一旦黙るベルガー伯爵。
ウォード伯爵も冷静に見えるけれども、アレは結構イラついているわね。最近何となく分かるようになってきたわ。
「…私は最初から身分で妃を決めるとは一言も言っておらぬし、この国でそう決められている訳でもない。私は今まで見つけられなかった自分の半身を見つけたのだ。…この件に関しては異論は許さぬ」
陛下の静かな宣言が響いた。…そして大広間にいる者はそれに反射的に頭を下げる。陛下の本気の言葉には逆らえないのよね。……普通の方なら。
「いやしかし! 昔からそうだったという事はそれが正しかったからという事でございます! そして、我が家は財力もありシーボルト侯爵家と縁戚でもありますし、きっと陛下のお役に立ちますぞ!」
うん……。普通の方なら、よね。普通より強欲だったり空気の読めない方だったりすると、陛下のお言葉さえも届かないのね……。
「…先程から黙って聞いておれば、陛下に向かってなんたる不敬な……!!」
とうとう黙っていられなくなったのか、出て来られたのは私の後見をしてくださっている高位の4貴族の方々とエドワルド王太子だった。
お読みいただき、ありがとうございます。




