115 お披露目の装い
今日はいい天気だ。そして、眠れないかも、なんて心配は杞憂に終わった。王宮の豪華な天蓋付きのフカフカでスベスベのベッドに入ったら、あっという間に夢の中だった。…流石高級フカフカベッド、恐るべし。
そうして、オブシディアン王国の壮大な王宮に、偉大なる王の即位お披露目パーティーが開催されるとあって、大勢の貴族達がやって来ている。
私リリアンヌは、王宮の奥で出番待ちなのだ。朝早くから女官の皆さんにあれやこれやと磨き上げ飾り付けられ、それは人形のように素晴らしい出来上がりとなっている。日本人感覚だけど。
早めに来てくださった高位貴族の御夫人方も満足げでいらっしゃるようだわ。
「リリアンヌ! 素晴らしいわ! とても美しくてよ。ああ、とうとうこのお披露目の日がやってきたのね……!」
我が事のように喜んでくださるマーガレット様。
「本当にとても素敵ですわ。陛下とのダンスも楽しみですわね」
ダンスの名手であられるフォートナム公爵夫人。若かりし頃、夫人の華麗なダンスを公爵は見染められたとか……。
「本当ですわね! 叔母さま、お母様! リリアンヌ様の可憐さがよく表現出来ていますわ。このお姿を見れば、他の女共は余計な事は言えませんわ!」
エドワルド様のお妃でフォートナム公爵令嬢だったルイーゼ様は、やはりマーガレット様にも似てらっしゃるわね……。
「まあ、リリアンヌ様。私の刺した刺繍の入ったハンカチを持ってくださっているのですね。うふふ。カタリーナとお揃いですの。あの娘も喜びますわ」
シュバリエ公爵夫人はお身体が丈夫でなかったけれど、お屋敷内でされていた刺繍は職人級に素晴らしいのだ。
「本当に、華のようにお美しくあられて……。今日のお肌も髪も艶々ですわ。やはりあの美容液は効果がありますでしょう?」
こう仰るのはソドムス侯爵夫人。娘のラウラ様を流行病と毒で亡くされた事から、元々興味がおありだった薬草などを研究され始めたそうだ。そこからお肌や髪に良いものを見つけ、娘を失った悲しみをその研究に没頭される事で乗り切られた。その夫人の作った美容液の効果は抜群で……。この度『後見』となっていただいた事で、私はその恩恵を受けているのだ!
勿論、他のご夫人方が興味を持たないはずがない。
「もうこんなに効果が出ているのですね……! ソドムス侯爵夫人! 素晴らしいですわ! 今度是非私にも分けてくださいまし……!」
と、てんやわんやだった。
「皆様! とても興味はございますけれど、今日この日はリリアンヌ様のお披露目会ですのよ! 今日はそちらに集中しなければ! 何事も最初が肝心ですからね!」
と、マーガレット様が皆様を諌めてくださった。…でも、今日は私のお披露目会ではなくて、陛下の即位のお披露目パーティーなのですけれどね。
「――皆様、楽しそうなところ申し訳ございませんが、そろそろお時間でございます。もうすぐ陛下もお越しになられますので、皆様も会場の方へお運びくださいませ」
女官長の声掛けが入り、皆様がこちらへ笑顔で「いつも通りで大丈夫ですわよ」と仰ってくださり出ていかれた。
「リリアンヌ様。宜しければお茶などお持ちいたしましょうか。先程食事を召し上がられたばかりですが……。スイーツはパーティーが終われば特別な物をご用意いたしますので、会場のモノには目もくれないでくださいましね」
側で控えていたナタリーが私に『お菓子注意報』をだす。
イエそんな、いくら何でもこちらが注目されるハズのこんな日に、スイーツ食べたーいって寄っていかないわよ? 多分……。うん、王宮のスイーツね……、ゴクリ。
はっ! ダメダメ!
「ナタリー、流石に今日は大丈夫よ? そして特別なスイーツは皆に出して味わってもらう方がいいわ。私は普通に出ているスイーツを取り分けて置いて貰えれば充分よ。でも気にかけてくれてありがとう」
ふふと笑うと、ナタリーも微笑み返してくれた。
「…では、リリアンヌ様がお好きそうなものを色々取り揃えておきますわ。パーティーが終わったら楽しみにしておいてくださいませね」
うふふ。ナタリーは本当に私をその気にさせるのが上手いわね。さて、そのご褒美に釣られて頑張りますか!
「楽しそうだね。リリアンヌ。…ッ!! …美しいよ、とても……。こんなに美しい君が横にいたら、周りなど見えなくなってしまいそうだね……」
陛下が入って来られて、私を見て少し顔を赤くされる。そういう陛下も、黒ベースに金の刺繍の入った上品で格式高い服でとても素敵だわ……。
「…アルフレッド様も、とても素敵ですわ。私も、貴方しか見えなくなりそうです……」
「…そう願いたいね。他の者など見ずに私だけを見ていて欲しい」
陛下はそう言い、私の目の前まで来て見つめ合う。
「アルフレッド様……」
陛下はそのまま私を抱き寄せ――。
「はい、そこまででございます! 陛下、リリアンヌ様から離れてくださいね。せっかくのリリアンヌ様の装いが崩れてしまいます! ナタリー、お前もしっかりリリアンヌ様をお守りせぬか!」
絶妙なタイミングでウォード伯爵が入って来られた。思わず顔が赤くなる。イヤだわ、人前で私ったら!
「少し触れた位で装いが崩れる訳がないだろう。後でダンスも踊るのだぞ?」
「『少し触れる位』で済みますか? 化粧など崩れては恥をかくのはリリアンヌ様なのですよ!」
「む……。それはいかんな……。リリアンヌ、済まない。後でゆっくり見せてもらうこととしよう」
…はい、今回もウォード伯爵の勝ちですね。私もナタリーも黙って成り行きを見守り、勝負がついたのを見て2人で目を合わせてクスリと笑った。
「それではそろそろ開会ですので、移動致しましょう」
そして私達は大広間の王が立つ部屋に行く途中の、関係者しか入れないのだろう手前の小部屋に入る。ここに来るまでもあちこちに衛兵が配置され、この通って来た廊下でさえ関係者しか入れないのだと分かる。
「…リリアンヌ。君はこの部屋で待っていて欲しい。この部屋からは大広間の様子が一目でわかる。向こうからは見えないがね。声もある程度聞こえるよ。
あの卒業パーティーの時は、兄王とここからルーカス達の様子を見ていたんだ」
案内された小部屋は広くはないけれど、品の良い調度品の揃えられた落ち着いた部屋だった。そしてウォード伯爵が奥のカーテンを開けると……、そこにはガラス越しに大広間が一望出来るようになっていたのだった。
私は一瞬こちらも丸見えなのかと驚いたけれど、大広間の中の人々がこちらに気付く様子もない。もしかしてコレは……。
「…マジックミラー、でございますか?」
私が聞くと、ウォード伯爵は驚いた。
「…ご存知で。これは最近密かに開発されたもので、知っている者はそういないと思っていたのですが……」
あらしまったわ。コレもまだこの世界では普及していないものだったのね。
「ふふ……。君なら知っているんじゃないかと思っていたよ。恐らく、ワーグナー侯爵夫人もご存知なのではないかな?」
楽しそうに仰る陛下。ウォード伯爵は、「ああワーグナー侯爵夫人から教わったのですね」と納得されていたけれど。
「…アルフレッド様。私達ってもっと色々お話ししなければならない事があるみたいですね?」
私がそう言うと、陛下は嬉しそうに仰った。
「そうだね。私達はもっとお互いを知り理解し合わなければならない。…愛しているよ、リリアンヌ」
そして、私の手を取り手の甲にキスをされた。
「…! ア、アルフレッド様……!?」
私はまた顔を真っ赤にし、ウォード伯爵も慌てて陛下に離れるように言うのだった……。
お読みいただき、ありがとうございます!
今日も頑張るウォード伯爵でした。




