111 責任
アルフレッド国王とリリアンヌを乗せた馬車は無事に王宮に到着した。
ウォード伯爵は2人はさぞお疲れだろうと心配し、急ぎ馬車の扉を開けた。するとそこにはぴったりと肩を寄せ合い、楽しそうに語らう陛下とリリアンヌ嬢の姿が……。
もう陛下の恋が上手くいったかなんていう心配はせずともいいと、一目でわかる光景だった。
だが、もうとっくに到着して扉も開いているというのに、まだ2人はヒソヒソと楽しそうに話している。…よく見ると、陛下の手はリリアンヌ嬢の肩を抱きもう片方の手は彼女の手をしっかりと握っている。
『陛下……! 暴走はしないで下さいと、あれ程申し上げたではないですか――!』
心の中で叫ぶウォード伯爵であったが、流石に王宮の入口で皆が居並ぶ前でそんなことは言えない。
一応、馬車の中の2人の様子はウォード伯爵の位置からしか見えていないはずなのだ。
グッと堪えながらも、こちらに構わずイチャつく2人に努めて冷静に声をかける。
「陛下。リリアンヌ様。…皆が待ち侘びております。どうぞお姿をお見せください」
そこでやっと周りの状況に気付いたのか、リリアンヌ嬢が顔を赤くする。
しかし陛下はこちらを見て少しむっとした表情をされ……、なんと! リリアンヌ嬢を横抱きにして馬車を降りてきたではないか!!
「…彼女は怪我をしているのでね。医師に診せねばならぬのだ。このまま部屋まで運ぶ事にする」
イヤイヤ、リリアンヌ嬢はあの村で普通に歩いておられたではないですか! それに森の中を走った時の擦り傷程度と聞いております! 何より、リリアンヌ様は顔を赤くされ『大丈夫ですので降ろしてください』と主張されているではないですか!
恋が上手くいったと思ったらコレか……! また新たな悩み事が出来たフィリップ ウォード伯爵だった。
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陛下と想いが通じ合って、2人で色んな話をしていた。
余りに嬉しくて2人でいる事が自然で楽しくて、話に夢中になっていたら……。馬車が王宮に到着していた事にも気付かずにいた。
ウォード伯爵から声がかかり、初めてそれに気付き赤面する。
ウソッ! いつの間に到着していたの!? …というかウォード伯爵のあの生温かい目! ッ! 私、陛下にガッチリ抱き込まれたような状態になってる……! きっとイチャイチャしたカップルに見えてるわ、絶対!! だってあんな目をして見られているんだもの!
慌てて立とうとするも、あれ? と思っている内に、いつの間にやら陛下に『お姫様抱っこ』! されていたのだ! ええ――ッ!? 何ですかそのスマートな抱っこまでの流れ!
ま、まさか! この状態で王宮を歩かれるのですか!? 陛下!!
そして陛下はやはり『このまま部屋まで運ぶ』と宣言! 『大丈夫です』と言うも、全くスルーだわ! あれ? この流れ、まだノーマン公爵だった陛下と街で偶然お会いした時とほぼ同じじゃない! イヤーッ! 後でナタリー達に冷やかされるわ!
その時、馬車の前で居並ぶ人達の中から声が上がった。
「…リリアンヌ様……! よくぞ……、よくぞご無事でいらっしゃいました……!」
声のする方を見ると、ナタリーがこちらを見て涙を流していた。
ふと周りを見ると、そこにはナタリーの他に学園の影見習いの皆さん、ブレットさん、そして、本物の『影』の皆様かしら……。その横に騎士団の方々。
皆、泣きださんばかりに……、いえ、騎士団以外の殆どの方が泣いておられるわね、こちらに駆け寄ってくれていた。
「…この度は私共の警備の不備……! 誠に、…誠に! 申し訳ございませんでした……!
ナタリーが私の前で声を絞り出すように泣きながら言った。
「リリアンヌ様、申し訳ございません! どうして、あの者を王宮からの使者と思ってしまったのか……! 申し開きもできません……!」
「ナタリー様と引き継ぎと言われていたにも関わらず、お役目を全う出来なかったこと、本当に申し訳ございませんでした!」
あの時の学園の影見習いの方も、もうずっと泣いておられたのだろう、声も掠れ目も腫れている。
私は――。
私は、今までの気楽な立場ではないのだ。
私に何かあれば、私の護衛の方の責任問題となる。
私の行動は、私1人のことで済まない事にもなる。
これからの私は、皆に責任を持つ立場になった、ということなのね……。
一瞬、呆然としてしまったけれど、私のせいで泣き崩れる皆を放って自分の考えに浸るのはいけないわ。
「皆さん……。こちらこそ、たくさん迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。私はこの通り、大丈夫ですわ。
…そしてこれからは、きちんと自分の身も周りも守っていけるようもっと努力します」
私がそう彼らに宣言すると、陛下は仰った。
「…皆の協力のお陰もあり、この通り彼女は少しの怪我はしたが無事であった。…そして本人もこう言っている。
しかし、本来警備とは周りが万全の体制でもって、警備対象の者がたとえどんな行動をしてもそれを諌め護るべきである。…今回は一人一人の隙を突かれたともいえるが、場合によっては最悪の事態もあり得たという事を皆の心によく刻んでおかねばならない。
…2度は、許さぬ故」
皆が一斉に頭を下げた。
最後は、何故か私まで背筋が凍るようなお言葉だった。
「フィリップ。今回の件の関係者を『謁見の間』で待たせよ。手当が済み次第そちらへ向かう」
そして、陛下は『お姫様抱っこ』をしたまま歩き出したのだった。
…後ろからのウォード伯爵の生温かい視線をものともせずに。
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は、恥ずかしかった……!
陛下ったら、王宮の皆の前でこの医務室に入るまで『お姫様抱っこ』をし続けるなんて!
そして部屋に着いてからも、お医者様の治療……もうマリー嬢に一度は手当てをしてもらってあったのだけれど、もう一度傷などの確認をしていただいているのを、陛下はじっと見ておられるの! あ……脚とか! 靴下を脱いでいる状態の、生足を! 見ておられるの! 陛下は邪な気持ちでない事は分かっているのだけれど、は……恥ずかしいのですけれど!!
「…陛下。ご心配されるお気持ちは分かりますが、女性の足などをそのようにジロジロと見られるものではありません」
見かねたお医者様が言ってくださった。
「む……。済まない、そのようなつもりでは……。…ただ、そのような細い脚で良くあのような森の中を走っていけたものだと感心して……。そして、せっかくの美しい脚に傷をつけさせてしまって申し訳ないと……」
!?
私はまた更に顔が赤くなる。
「……陛下。手当が済めばお声をかけますので、そちらでおかけになってお待ちください」
そして陛下は呆れたお医者様に診察のパーテーションの向こう側に追いやられたのだった。
手当が済み、私は一応大事をとってすぐ伯爵家に帰りゆっくり身体を休めることになった。そして私は今度こそ陛下の『お姫様抱っこ』を断固として拒否した。(だけどお医者様が必要ないと言って私の援護射撃をしてくださらなければ、きっとまたされていたわね……)
そして2人で王宮の入り口の馬車乗り場に移動しているのだけれど……。陛下がまだ心配そうにチラチラと見ておられる。
「…陛下。本当に擦り傷だけですのよ? お医者様も大丈夫だと仰ってらしたでしょう?」
「いや、でもあのような足元の悪い森の中をその細足で走っていたのだぞ? ……そしてリリアンヌ? 『陛下』ではないだろう?」
…そうでした。先程馬車の中で、『これからは2人の時は『アルフレッド』と呼んでくれ』と言われたのでした……。確かガーネット王国第3王子のサミュエル様にもそう言われたのだったわね。でもあの時は『失礼ではないですか?』とは思いつつも、サラッと言えたんだけれど…。
流石に陛下に対しては、とても言いにくいわ……。いえ、でもいずれ夫婦になるのなら……って、イヤーッ、照れるわ……!
私が赤くなりつつモジモジしていると、陛下にジッと見つめられ催促される。
「…アルフ、レッド……さま」
なんだか初めて言葉を話した子供のような言い方だったわ……。余計に恥ずかしくてショボンとしていると、陛下は私の頬を撫でた。
「…大丈夫だよ。リリアンヌ。これからだんだんと慣れていってくれればいい」
陛下はそう仰って、そしてまた私達は見つめ合う。
「ゴホンッ!」
ハッとして後ろを見ると、ウォード伯爵がジト目で控えていらした。
「…陛下。もう既に皆『謁見の間』に集まっております。それに今日はもう遅いですので、早くリリアンヌ様を伯爵家にお帰してお休みになっていただかなければ……」
そうでした!
私達は2人苦笑いをした。
そして私は名残惜しみながらも陛下に見送られ、厳重な警備の中伯爵家に帰ったのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
暴走気味な陛下に、照れるリリアンヌでした。




