110 返事
そうして、村の皆に見送られ、私達は馬車に乗り込んだ。
陛下と、馬車の中で2人きり……!
そういえばさっきもサミュエル王子と2人きりだったけれど、その緊張感とは全く別物だわね……!
(しかも王子の時は半分『敵かも⁉︎』と思っていたものね……)
陛下は私の真正面に座られた。私達は一瞬目が合い、すぐに照れてお互い視線を逸らす。そして視線を扉の方にやると、ウォード伯爵がまた生温かい目でそのやり取りを見ていた。
「陛下。…くれぐれも、『暴走』なさらないでくださいね」
暴走?
私が「?」という顔をしているとウォード伯爵は、
「…何でもございません。陛下と私の話でございます。ですが、もしリリアンヌ様が何か不安に思われる事がございましたら、馬車の小窓を何回か叩いていただきましたら、馬車を止めて対処いたしますのでご安心ください」
と、やはりなんだかよく分からない事を言われた。
そして扉が閉められ、馬車と騎士団の一行は出発した。
私が陛下の顔を見ると、陛下は少し顔を赤らめて横を向いておられた。お2人の中では何か分かるお話だったみたいだわ。
「陛下。…大丈夫でございますか?」
少し心配になって問いかける。
すると、顔をまだ少し赤らめたまま、
「…大丈夫だ。彼の言っていた事は気にしなくていい。…それより、貴女は身体は大丈夫かい? 長時間あのような緊張状態で馬車に乗っていたのだから休みたければ休んでいいのだよ。…馬ならば、小一時間で王宮まで着くのだが」
あら。まだ先程のウォード伯爵との馬か馬車かの話を思われているのですね。…私はどちらでも良かったのですが、やはり馬の2人乗り…は、以前のお姫様抱っこを思い出すので恥ずかしいですね。特に先程の村の人々や騎士団の方々の見送りの前では……。うん、やはり馬車が正解です!
そう思いながらもう一度陛下のお顔を見ると、彼はじっと私の顔を見られていた。
えっ……。そんな真正面から見られたら恥ずかしいです……。
そう思い、私が目を逸らそうとすると、陛下は私の手を取られた。私は驚いてまた陛下に視線を移す。
2人の金と紫の視線が絡み合った。そして、暫く見つめ合う。
「リリアンヌ嬢。…貴女が今日、私に会いたいと言ってくれたのは……。この間の、私のプロポーズの返事だと、…そう思っていいのかい?」
ボンッ!
私はまた顔が熱くなるのを感じた。…そうでした。本日のメインイベントはここからだったのだわ……!
今日はここ最近の話を陛下にご相談する為……、と見せかけて? 陛下に、私の気持ちとお話をお受けすると伝える重大なミッションだったはずが、大分遠回りになってしまったわ……。
昨日あれだけ自分の中で気持ちをしっかり決めたつもりなのに、なんだかまたドキドキして勇気が出ない……。
昨夜、カールトン伯爵家の家族の前で自分の気持ちを伝えて、これからこの家に大きな影響が出るだろう話もした。お父様とお母様は覚悟を決めてらっしゃったし、弟ニコラスも立派過ぎる義兄が出来る事を喜んでいた。
…そして、マーガレット様も、サリアもナタリーも応援してくれている。
あとは、私の勇気だけ……!!
「陛下。私は……」
そう言いかけた時、陛下は私の手を大事そうに持ったまま、片膝をつかれた。
「リリアンヌ嬢。…もう一度、言わせてくれないか。
…戦争や政争……。今まで色んな事があったが、今回こんなに自分の心が引きちぎられそうになったのは初めてだった。私は、君を失ってはもう生きてはいけないだろう。私と、これからの人生を共に生きて欲しい。…2人でお互いを幸せにしていきたい。…君を、愛している」
陛下は、その美しい金の瞳で私を真っ直ぐに見つめながら仰った。
私は……、私の瞳から、涙が溢れでた。
「私も……。…私も、陛下を愛しております。陛下のお側で、共に生きていきたい……。…私は何も持たぬ娘ですが、貴方を、幸せにして差し上げたい……!」
「リリアンヌ……!!」
陛下は、私の背に手を回し強く、それは強く抱き締めた。
「…ッ。陛下、少し、苦しいです……!」
余りに強くて少し助けを求める。
陛下はハッとそれに気付き、それを緩めたあと右手を私の頬に軽く当てた。
「…済まない。余りに嬉しくて加減を間違えた」
少し照れ臭そうに、済まなさそうに言う陛下。普段ご立派な陛下のそんな顔……、可愛すぎます……!
私がそんな陛下の顔を見てクスリと笑うと、陛下もまた少年のような笑顔になられた。
私はそんな陛下が嬉しくて愛しくて、微笑みながらじっと見つめる。…また2人は見つめ合う。
そして静かに陛下の顔が近づいて……。
私達は、初めての口付けをしたのだった。
その後、私は陛下に今回の事件の一部始終をお話しした。そして、今回最初に私を連れ去ったエルマ嬢は最後には誘拐をやめる様に言っていた事、主導していたのは執事だった事を申し上げた。
それでも彼女の罪は消えないだろうし、私は処罰の事には口出しは出来ないけれど……。それでも彼女が更生出来る道に進んでくれたら、と思うわ。
陛下と私は馬車の座席に並んで座り、陛下は左手で私の肩を抱き右手で私の手を握っていた。そして私は少し彼の胸に顔を寄せていた。疲れているだろうからもたれていてと言われたのだ。ドキドキするけれど……安心する。
陛下は私の話にただ黙って頷かれた。
…そしてこれからの事を告げられる。
「…今回、私はまた暫くは忙しくなるかと思う。そして君にはもっと護衛を付けたり、様々なことが増えて今までの生活とは変わっていくことになるだろう。まだ学生である君に負担をかけてしまう事になるが許して欲しい」
陛下が申し訳なさそうに言う。
「それは、陛下と共に歩む道を選ぶ以上覚悟しております。ただ、他の学生の皆さんに迷惑をかける事が心苦しいですが……」
「それは、この国の王妃を守る為に皆には協力してもらうしかない。…代々の王子妃候補や王子のいる代にはいつもある事でもある。卒業後王族と同級生であった事を誇りに思ったり、その後の縁になる事を望む者も居るしね」
そうなのね、確かにそういうものかもしれないわね……。
私が頷くと、陛下も頷いて仰った。
「そして、あと3週間程でこの間話した国内の貴族向けの即位の報告パーティーがある。…ここで、君との婚約を発表する事になる。2人の事は今はまだ君の家族と友人、そして君を後見する貴族達しか知らない。あと、私の周りと学園長だね」
学園長先生……。あと、きっと周りの先生方もご存知な気がするわ。
「学園で私の警護が増えれば、パーティーまでに自ずと周りの貴族の子弟たちも私達の婚約の事を気付いてしまうのではないでしょうか?」
そこで陛下は少し申し訳なさそうな顔をされた。
「最初は今回色々な騒ぎがあった事に関しての学園の配慮、という事でいけると思うが、その後は……、済まないがパーティーまでは準備などで恐らく学園には行けない日が多くなるかと思う。
…実は、君の後見貴族の御夫人方が非常に張り切っていてね……。君の気持ちが決まり話がまとまればすぐにでも『王妃教育』を始めると言われて居るんだよ」
…えっ!?
…マーガレット様……!! 謀りましたね……! もう他の方々とそこまでお話が出来ていたのですね――!
いえ、確かに他の後見の夫人方に頼まれて……とか仰っておられたけれど、準備万端過ぎじゃないですか――!?
そうして、私達はパーティーまで怒涛の日々が続く事になるのだった……。
お読みいただき、ありがとうございます!
やっと、想いが通じ合った2人です……!




