109 迎えと約束
「ッ…! 陛下……! 」
私は目の前に陛下がいる事が信じられず、彼の金の瞳をじっと見つめる。
すると彼は右手を私の頬に寄せ私達は暫く見つめ合った。
「リリアンヌ嬢、よくぞ無事で……! 君が拉致されたと聞いて私は生きた心地がしなかった……!」
陛下は余程急いで来てくださったのだろう、この村に来る道はきっときちんと整備されていない。あちこちの木の枝や草に引っかかった形跡が服装に見受けられた。
「私が迂闊で……。申し訳ございません。国境の封鎖などしてくださったと王子より伺いました……。ッ! 王子は! サミュエル様はご無事ですか!?」
陛下は笑顔で頷きながら、
「…大丈夫だ。彼が私に知らせをくれたのでこの場所を知る事が出来たのだよ。そして私が駆け付けた時には2人の間者を戦闘不能にしていた。…取調べに必要だからと生かして捕縛するのに手間取ったらしい。その途中に手に怪我をした1人が逃げてしまったと言っていたが……」
あ、それはさっきジョルジュさんが捕まえてくれた人ね。
「その1人は私を追って来ていて……」
「!! なんだと! 大丈夫だったのかい!? その男はどうしたんだい!?」
陛下はとても驚き、私に怪我がないか全身を確認される。そして私の手足につく擦り傷に気付き、痛ましそうな顔をした。
「この傷は森の中を走った時についたもので、今手当をしていただいたので大丈夫ですわ。そしてジェダイト王国の追手に追われて危ないところを、ここにいるマリーさんが助けてくださり手当もしてくださったのです」
陛下はマリー嬢に気付き、彼女も深く礼をした。
「そしてジョルジュさんというこの屋敷の方が追手を捕まえてくださり、その後この村の自警団の方と一緒に王子がいる場所まで助けに行ってくださっているのです」
「そうであったのか。…マリー嬢。…君はルーカスの……」
マリー嬢は俯き、
「…そうでございます。あの節は、大変ご迷惑をおかけいたしました。王族の権威を傷つける行いをした事、誠に申し訳なく思っております」
陛下はマリー嬢をじっと見つめ、そして頷いた。
「…君のその後の報告は受けているよ。何もかも失くした後、両親と数人の使用人だけで残った屋敷に移り慎ましく暮らしていると。…あの事件は残念だったが、君達が堅実に暮らしていると聞いて安心したよ。そして、今回はリリアンヌ嬢を助けてくれてありがとう」
陛下はそう言い、頭を下げられた。
これには私も驚いたけれど、マリー嬢はもっと驚いたようだった。
「私に頭などお下げにならないでくださいッ、陛下! …私はとても愚かでした。そのお返しが少しでも出来たなら、光栄でございます……! そして、温情でこのお屋敷を残していただいたことも、きちんと理解しております。私達は、…私はこの御恩に報いる為にも、これから誠実に生きていく所存でございます……!」
陛下はそんなマリー嬢の様子を見てにこやかに頷いた。
その時、また馬がやって来る音が聞こえた。今度はたくさんの人達が来たようだわ。
そして次々に屋敷の前までやって来て、人々が慌てて降りてこちらにやって来た。ウォード伯爵や騎士団の方達だった。
「…陛下!! お1人で突っ走られるのはおやめください! こちらの心臓が持ちません!
…ッ! リリアンヌ様!! よくぞご無事で……! この度は警備の不備、誠に申し訳ございませんでした……!
ウォード伯爵が入ってくるなり陛下に苦言を言ったかと思ったら、突然私に謝って頭を下げてこられた。
「ウォード伯爵様!? 頭をお上げください…! 私が迂闊だったのがいけないのです! 皆様にご迷惑をおかけしてしまって、私こそ申し訳ございませんでした……!」
私も自分が迂闊で周りに大変な迷惑をかけた事を詫びる。
「リリアンヌ様……! …寛大な御心、感謝いたします……! …ですが、上に立たれるお方がそのように簡単に頭を下げられてはいけません…!」
私はつい陛下を見、そして陛下も私を見られた。
そして、2人で笑い出す。
ウォード伯爵は呆れながらも2人を生温かい顔で見守り、そしてマリー嬢は泣き笑いをしていたのだった。
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その後、一部の騎士達を取り調べの為村に残し、私達は村を後にする事になった。
その際、私がどうやって帰るかで揉めに揉めた。
陛下は自分の馬で2人で乗って帰ると主張し、ウォード伯爵は疲れているだろう私を馬車に乗せてあげるべきと主張した。
そしてその折衷案として、陛下と私が馬車に乗って帰るという事になった。
外では暗い中、マリー嬢や元ジョーンズ子爵夫妻と執事、そしてジョルジュさんや村の人達が見送りに来てくれていた。
「この度は夜分に騒がせて大変申し訳なかったと、そしてこの度の礼を後日取らせられるとの陛下のお言葉でございます」
ウォード伯爵が陛下のお言葉を村の皆に伝える。
その時、少し考え込んでいたマリー嬢が声をあげた。
「陛下。発言をお許しください。…実はこの土地は昔から隣国への抜け道として盗賊やよからぬ者達の通り道となり治安が悪くなっているのです。普段は自警団で何とか対処しているのですが、時に田畑や村がならず者達に荒らされる事もあり……。小規模でいいので騎士団の駐在する場所などのご検討をお願いいたしたく……!」
ウォード伯爵はマリー嬢に何か言おうとしたけれど、陛下がそれを遮った。
「…検討しよう。まずは今回残る騎士団の者と話をするが良い」
陛下のその言葉に、村中の者が歓喜した。
「分かりました! 騎士団の方々とお話を詰めさせていただきます! 必ずや、国の為にもならず者達の通り道とならぬ様な治安の整った村に致します!」
そう、彼らは陛下と約束した。
そして私も先程マリー嬢と約束をしていた。いつか、転生した者達で集まる事を…。
彼女はその時こうも言った。「貴女と陛下はとてもお似合いだわ。…私も心から信頼し愛し合う、そんな方を今度こそみつけたいわ」と……。
その後、陛下との約束通りこの村は騎士団の常駐場所となり周辺の治安が劇的によくなった。そしてマリー嬢は前世の知恵を活かして村おこしをし、この村は飛躍的に繁栄し立派な街となっていった。
その褒美に呼ばれたマリー嬢と王宮にて再会する事になるのはまだ先の話……。
お読みいただきありがとうございます!
サミュエル王子からの知らせを見て、陛下は愛馬で恐ろしい勢いで駆けつけました。一応戦争時にあちこち馬で夜にも駆け回り、この辺りも隣国に向かう道でもあり地理に明るかったようです。
ウォード伯爵始め騎士団の精鋭で、後を追うのが精一杯でした。




