108 彼女の道
どうして、マリー嬢がここに?
乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達ー』のヒロインだった、マリー ジョーンズ元子爵令嬢。
確かあの卒業パーティー後、悪意を持ってカタリーナ様を貶めようと、嘘の証拠をでっち上げた罪で子爵家ごとお取り潰しになったはず。そしてそのあと、どうなったのかしら……? 王子や他の子弟の方々は温情判決で彼らの更生に期待するようだったけれど、貴族で無くなった彼女はそのまま釈放された、という事なのかしら?
「…ッだからッ、人を探しているんだ! 金髪の小娘だ! ここに来ただろう!?」
ジェダイト王国の間者が怒鳴りながらマリー嬢に必死に説明している。…このままではマリー嬢が危ないのではないかしら!?
私がヒヤヒヤしながら見ていると、そこに大きなクマのような男性があらわれた。
「なんだお前は……!? うちのお嬢様に何をしている!?」
このお屋敷の使用人かしら。良かった、マリー嬢は大丈夫ね。
そして間者はその大男にかなり驚き、勢いをなくしながらも主張する。
「いや、俺は……! …人を、探しているだけなんだ! 王立学園の制服を着た、金髪の少女がこの辺りに来たはずなんだ!」
その言葉を聞いた途端、その大男の雰囲気が凶悪になる。
「…『王立学園』、だと……!?」
「ッヒィ…ッ!」
間者は大男のその様子に、恐怖に慄いたようだ。
そして、間者の言葉に怒りを覚えたのは大男だけではなかったらしい。
「ちょっとアナタ! 『王立学園』の生徒ですって? まさか学生を拉致監禁誘拐してきたんじゃ!? 10代の女の子に手を出そうなんて、この変態!! 近くの騎士団に突き出してやるわ!! ジョルジュ、コイツを捕まえて!」
「はい、お嬢様!」
ええぇっ!?
私が驚いている間に、ジョルジュと呼ばれた大男はジェダイト王国の間者を捕まえて縄で縛ってしまった。そして怪我にも気付いて簡単に手当をしてあげていた。…いい人なのね。
「…そして、そこにいるのでしょう? 『王立学園』の生徒さん?」
マリー嬢がこちらに向かって言う。
私は、覚悟を決めて納屋の陰から出た、
「ッ!! 貴女は……!」
今度はマリー嬢が驚く番だった。
~~~~~
「それじゃ、本当に拉致されてここに来たのね」
先程のお屋敷の中。ここはやはりマリー嬢が今住むお屋敷らしい。
あのパーティーの後、マリー嬢を始めジョーンズ子爵家の人々は子爵位を失い、色んなたくさんのものを失った。
それでも、マリー嬢の両親は彼女を守りそして唯一残ったこの古い屋敷に、残ってくれた執事とジョルジュという庭師の大男と共にやってきたそうなのだ。
「…そうなのです。本当に助かりましたわ。ありがとうございます。マリーさん」
そうお礼を言うと、マリー嬢は少し照れてはにかんだ。
「いいのよ。私も学園の皆様にはとてもご迷惑をおかけしたし……」
「そして、ジョルジュさん達に王子を助けに行っていただいて、本当に良かったのでしょうか? あの場所にはまだ隣国の間者が2人いて……」
「彼等はここの地理に明るいし自警団を組んでいる人達だから大丈夫よ。それに暗くなって来ているから貴女が行くのは危険よ。というか、薄暗くなる中よくここまで辿り着けたわ。聞いた場所からは結構な距離があるわよ」
「あの時は必死だったから……。とにかく早く人のいそうな場所へと思っていて……」
「だから手足が擦り傷だらけなのね」
そう言ってマリー嬢は私の手当をしてくれている。
私はここに来てから彼女の印象がガラリと変わった。
学園では、王子の気を引く為にあざとい事をしていたりゲームの筋書き通りに話を進める事に必死になっていて、とても自己中心的な人達に見えたのに……。
今の彼女は、すごく善良な女性だわ。
「マリーさん。お聞きしてもいいですか?」
「…なにかしら」
マリー嬢の雰囲気がピリッとする。多分今までたくさん色々な下世話な事を聞かれて来たのでしょうね……。
「マリーさんは、『日本』の方の、生まれ変わりですか? …そして、乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』をされていたのですよね?」
マリー嬢は目を丸くして驚かれた。多分……いえ絶対、この質問はされた事はなかったのでしょうね。
「……ッ。…貴女……。…貴女も、なの……?」
「…そうです。もっと早くにお話出来ていたらと思いますわ」
マリー嬢は頷きかけるも、…目を閉じ首を振られた。
「…いいえ。きっと、あの時の私には誰が何を言っても聞き入れることは出来なかったわ……。優しい両親も心ある人達も、私を思って忠告してくれていたというのに……。私はパーティーのあの時まで、あのゲームの筋書き通りに話を進める事に何故か拘ってしまっていた。私こそがヒロインで、こうあるべきなんだって……」
そうだったんだ……。やはりそれも『ゲームの強制力』だったのかしら……?
「そう、だったのですね……。私はゲームのストーリーに関わりのない立ち位置でしたのでこんなものかという感じでしたが……。もしも『ヒロイン』として生まれていたら。確かに自分がどう動いたのかは自信がありませんわ……」
私がそう言うと、またマリー嬢は首を振った。
「…いいえ。貴女がもし『ヒロイン』だったなら……。ゲームのあの『ヒロイン』じゃない、貴女自身の行動をする『ヒロイン』になっていたと思うわ。もしかしたら王子の事もすぐに振ってしまっていたかもしれない」
私が「え?」と聞き直すと、マリー嬢は静かに私の目を見て言った。
「…あのパーティーで貴女が会場を出て行った後、王妃様が『自分を愛さない婚約者など苦しませれば良い』『どうしてあんな行動をするのか理解出来ない』。…そう仰ったの」
…そうなのね。人の考えはそれぞれだからそれは仕方ないのでしょう。
私は少し悲しくて、はにかむように微笑んだ。
「するとノーマン公爵……、今は『国王陛下』なのね。陛下が仰ったの。『彼女は、自分に与えられた場所や条件で輝ける女性だ。そしてそれを周りにも分け与える事が出来る』、と。…私はゲームではこうなるはずだからと、その時の自分に満足出来ずいつも不満だった。いつも思い通りになっている気がせずイライラしていたわ。…私は貴女のその考えや生き方に、とても衝撃を受けたわ」
陛下が……、陛下はそんな風に私を見てくださっていたのね。私は改めてそう思ってくださる陛下に恥ずかしくない自分でありたい、と願う。
「…そしてそれは王妃様も同じだったようよ。多分何か感じられる事があったのね。涙を流されそこからは従順になって連れて行かれたわ。…私も。私もそこからなんだか悪い夢から覚めたように、周りを見られるようになった。そこから周りの私に対する蔑みや辛い現実を見る事にもなったのだけれど……。
…あんな状況にあって私をそれでも愛し守ってくれた両親や執事やジョルジュには、本当に感謝しているわ。…私はこれから今自分にあるもの、大切な人達を愛し守り誠実に生きていこうと、そう決めたの」
強く決意した瞳で私を見つめて宣言するマリー嬢。元々愛らしく美しい方だったけれど、今の彼女は内からも美しさが溢れているように感じた。
「とても素敵な事ですわ。マリーさん」
私も嬉しくなって彼女に微笑んだ。
そこでマリー嬢は少し言いにくそうに聞いてきた。
「ありがとう。…それであの……。一つ聞いてみたいのだけれど……。あのパーティーで陛下は先程のような貴女を思ったお言葉を発言されたり、一番最初に貴女の保護……『後見』を言い出されたりしていたのだけれど、その……もしかして……?」
そうマリー嬢が言い終わるより早く、屋敷の向こうからとんでもない勢いで馬が駆けて来る音が聞こえてきた。え? 早馬? いえ、もしかすると先程のジェダイト王国の間者がやって来たの!?
私達は顔を見合わせて、窓の方に駆け寄った。外はもう既に暗くなっていた。
するとその暗闇の中で、立派な黒馬が騎士を乗せて到着した。騎士は納屋の近くに馬をつなぎ、建物に颯爽と駆け寄り扉を叩いた。
「誰か! 誰かあるか!」
あれは、あの声は……!
私は高鳴る胸の動悸を抑えながら玄関に駆けて行き、扉を開けた。
そこには……。
「リリアンヌ嬢……! 無事であったか……!」
アルフレッド オブシディアン国王陛下が立っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
ゲームのヒロインとして転生していたマリー嬢。断罪パーティー後、辛い現実に直面しながらも残ってくれた大切な人たちを大事にしながら誠実に生きていきます。
そして、リリアンヌに『陛下と恋人なの?』と聞こうとしたのですが……。その後の2人を見て、理解する事になりました。




