106 王子の真実
「母はジェダイト王国の王女として、初めはその『役割』を果たそうとしていた。…でも想定外の事が起こった。母は、ガーネット王国の国王である父を愛してしまったんだ。そして、父も母の愛に応え2人は良き夫婦となり、2人の兄王子達もだんだんと新しい母に馴染んでいったそうだ。そしてその後産まれた僕は姿形は父上そっくりだったけれど、青い髪に青い瞳、その色合いはジェダイト王国の王家の色そのものだった。
初めは良かったんだそうだ。…でも、14年前に全ては変わってしまった」
「ジェダイト王国の宣戦布告無しのオブシディアン王国への『奇襲』ですわね……?」
サミュエル様は薄く笑って頷いた。
「その時から母と僕は周囲から敵視され、父王は僕達を守る為に離宮に移した。…だけどそこにいるのもガーネット王国の者。それなりに嫌がらせもあったそうだし、何より父と離れる事が母には辛かったらしい。かなり思い詰められてね、外見の色がジェダイト王国の色そのものだった僕を辛そうに見られるようになり、そして、あの日……」
少し目を伏せられ、そして思い切ったように言われた。
「…あの日、母は僕を離宮の側にある冷たい池に落としたんだ。あの時の母の顔は忘れられない。その時鬼のような顔をした母だったけど僕が池に落ちる瞬間我にかえり、次の瞬間には自分が池に飛び入り僕を助けた。…その後2人とも高熱を出した。特にまだ子供だった僕は生死を彷徨った。その時僕は、前世を思い出したんだ」
お母様に……。そして、そのショックで前世を思い出されたのね……。
「それは……、とてもお辛いことでした。サミュエル様も、…お母様も」
すると、サミュエル様は少し驚かれ、そして少し嬉しそうに言った。
「ふふ。この話は前世の事を抜いて身近な者は知ってるんだけれど、ここで母を責めなかったのは、父と兄達、…そして陛下と貴女だけだよ」
そこで少し辛そうに視線を横にやりながら話を続けられた。当時の気持ちを思い出されているのだろう。
「確かに思い詰めていたとはいえしてはいけない事をした母なんだけれど……。だけど、僕達の事を分かっていない者に僕の大切な母を責められたくはない」
そう、真剣な顔で言うサミュエル様。彼の視線の先の小窓のカーテンは馬車の動きで単調に揺れていた。
辛い時期を共に乗り越えてこられたお2人母子は、きっと他の方には分からない深い絆がおありになるのですね……。
「…僕は、前世では日本の大学生。辛い受験が終わりやっと大学生活にも慣れて、今思えば充実した毎日だったよ。それなのに、事故でアッサリ……ね。
そして前世を思い出した時の僕の現実が母とほぼ2人きりの、余りにも敵視され疎外された環境。アレ? 一応僕王子なんだよね? こんな扱い? って思ったけど、あれだけの扱いを長期間受け続けるとその辛い現実の意識の方が勝っちゃうんだよね、まだ子供で何も出来なかったし。すっかり日本の大人だった意識もなりを潜めていた頃に、母の母国であるジェダイト王国から僕に密使が来たんだ。『このお辛い環境から助けて貴方を王にしてあげましょう』ってね。正直王位はどうでも良かったけれど、この状況から抜け出したい一心でその申し出に飛びついてしまった」
ジェダイト王国が……。その状況を作り出したのは、そのジェダイト王国なのに。
「6年前僕は、本当は陛下を騙し討ちにしようとしたんだよ。…ジェダイト王国からの密使はこうも言った。『僕をガーネット王国の王とする為に動いている。そしてまずは邪魔なオブシディアン王国のノーマン公爵をなんとかしなければならない』とね。…そう言われて僕はノーマン公爵に手紙を出したんだ。『僕の尊敬する『黒の英雄』様。どうか僕の国を助けてください』ってね」
それは…、マーガレット様が言われていたと同じ内容の手紙だけれど、その意味合いは全く違っていたのね。
「後から思えばそれは、『ガーネット王国の者がオブシディアン王国の黒の英雄を傷付けようとした』という名目を付けて、僕を利用しガーネット王国から崩していくつもりだったんだろうね。僕が陛下を傷つける事が出来ればラッキーくらいなものだったんだろう。
それなのに僕は愚かにも、待ち合わせた場所で陛下を騙し討ちにしようとした。僕は前世で少し格闘技もしていたから、子供の顔で近付いて技をかければ意外に簡単にいけると思っていたんだ。…だけどそんな子供の技なんかより、陛下は一枚も二枚も上手だった。あっという間に押さえ込まれたよ」
「格闘技、されていたんですか……」
王子は「少しだけだけどね」と笑った。
「そこで陛下は僕にどうしてこんな事をしたのかと理由を尋ねられた。…僕は、もう何もかもお終いだと思ったから、本当に何もかも洗いざらい、僕の事情を話したんだよ。そうしたら、陛下はお怒りになった。『今まで君が辛い目にあった原因ともいえる者達の言いなりになって、君が本当に大切な人達を傷付けるのか』と……。僕は、僕の周りの人達も僕を忌み嫌っているから、と言った。すると陛下は、『1人でも君を大切に思ってくれている人がいるのなら、その人を守る為に心を尽くさなければ。君が自暴自棄になっても君を忌み嫌う者は痛くも痒くもない。苦しむのは君を本当に大切に思ってくれている人だけだ』とね」
陛下……!
私はサミュエル王子に頷いた。
「そして僕は陛下に言われた通り、国へ帰り父王にジェダイト王国の陰謀をお話した。それからオブシディアン王国へ手紙を出した事にした。そのあと、陛下は恐るべき速さでジェダイト王国を鎮圧し我が国に来られた。まだ国の周囲の者が僕に疑いや蔑みの目を向ける中、陛下は言われた。
『ガーネット王国のこの勇気ある少年のお陰で貴国も我が国も救われた。ガーネット王国は素晴らしい勇気ある王子をお持ちだ』とね。そこから、周りの僕を見る目は180度変わったよ。…そして、そこから僕はアルフレッド陛下に忠誠をお誓いしている」
「! では……、サミュエル様は陛下の事、我が国の事を……」
王子は澄んだ目をして笑顔で答えられた。
「陛下は僕がこの世で1番尊敬申し上げるお方だよ。前世も含めてね」
私は、嬉しくて笑顔になると共に少し涙が出てしまった。
「良かった……! 私…陛下が信頼されている方が陛下を裏切られたりしていたらどうしようかと……! 本当に、良かった……!!」
そんな私を見て、彼はまた少し笑った。
「ふふ。貴女は陛下を基準にものを考えるんだね。陛下は貴女に想いを寄せておられるようだけれど、その想いは通じたと思っていいのかな?」
ええっ!
どうしてサミュエル様までその事を知っておられるのですか!?
私はきっとまた赤い顔をして、動揺した顔でサミュエル様を見た。
その表情で考えていた事が分かったのだろう、サミュエル様は言われた。
「ああ、僕は自分で希望して『影』としても働いているからね。貴女を警護するにあたり、その辺りのことはだいたい伺っているよ」
「えっ!? 『影』のお方なのですか? 王子が?」
驚く私に笑いながら答えられる。
「そうだよ。でも僕は他の『影』のメンバーと一線を画しているからね。ほぼ関わりを持っていない。『影』でも全てのメンバーを把握している者はそういないと思うよ。貴女のところの侍女とも関わりはないから知らないと思うな。僕は『影』の国際部ってところかな? …今はこの国に巣食う『膿』を出し切る為に動いているんだ」
「ああ、それで……」
まあ確かに『影』の方が全員を把握していたら、1人が裏切れば全員の素性がバレてしまいますものね……。
お読みいただき、ありがとうございます!
第3王子は6年前の騒動の後、こちらの国にゲームと同じ名前がたくさんある事に気付きました。
陛下に忠誠を誓う思いとゲームがどうなるか見届けたい気持ちから、オプシディアン王国をメインに生きていくと決めたようです。




