101 王子の過去
あの決意の夜遅く、ナタリーがサミュエル王子の事を調べて帰って来た。
「お帰りなさい、ナタリー。遅かったから心配していたのよ。余り無理はしないでね」
「申し訳ございません、リリアンヌ様。調査後陛下にも呼ばれておりまして……。全て順調でございますのでご安心を」
ナタリーはそう言うけれど……。ここのところ遅くまであちこちへ行ったりして無理させているのよね……。
「それよりもリリアンヌ様。ガーネット王国の第3王子殿下でございますが……。
ガーネット王国の2人の兄王子の母君はガーネット王国の貴族出身の王妃でしたが、第3王子の母君はその王妃の死後嫁がれたあのジェダイト王国出身の王妃であられました。…その事から14年前よりお2人は難しいお立場におられたようでございます」
14年前……?
「それは、ジェダイト王国と我が国と戦争した時期よね? その頃、第3王子のお立場が……?」
「…そうです。当時我が国とガーネット王国はまだ友好国という関係でしたが、その国を宣戦布告も無くいきなり攻めたジェダイト王国は、ガーネット王国内や周辺の国々からも大変非難されたそうです。その中にあってジェダイト王国出身の王妃とそのジェダイト王国の特徴が色濃く出た第3王子はガーネット王国で非常に肩身の狭い思いをされたとか……」
!
「そう……、そうよね……。確かに、母国がそんな事をしたら王妃とサミュエル様のお2人は王宮内で針のむしろになってしまうわね……。
ましてや、オブシディアン王国と友好国であるガーネット王国にとっては、その戦争の結果如何では次は自分の国が標的になるかもしれない、そんな状況ですもの……。ガーネット王国の人々をも責められないわよね……」
ナタリーはなんとも言えない顔をして頷いた。
「一時お2人は離宮に幽閉され、お命の危険もあったと言われています。…そして我が国が戦争に勝ち、暫くしてお2人は前の生活に戻れたそうですが……。お辛い状況はそれほど変わらなかったそうです。
…それが変わったのが、6年前。
再びジェダイト王国が動き出し、今度はガーネット王国に手を出そうとしてきた。…それに気付き、父王に進言し我が国に助けを求めたのがまだ11歳の少年だった第3王子だったのです。そこから我が国の陛下がジェダイト王国を鎮圧し、第3王子は一躍勇気ある少年と両国で称賛されるようにお成りになったそうです」
だいたいは、マーガレット様が仰っていた事と同じだわ。…ただ、彼らの辛い状況の事が分かると随分話の印象は違ってくるわね……。
私はマーガレット様との話で、サミュエル王子は成人した日本人の生まれ変わりで本当は強かで策略を凝らして、少年の見かけで大人達を操ってきた、そんな風に思った。
…だけど。彼が幼い頃から母と2人身を寄せ合って悪意から身を守り生きてきたとしたのなら……。
サミュエル王子は、少年の姿をした強かな元日本人の大人なのか。
それとも、不遇な子供時代を元大人だった日本人の知識を持って必死に生き抜いてきただけなのか……。
分からなくなってきたわ……。
これは、陛下にご相談した方がいいわよね。
…それに……、陛下に私の気持ちをお伝えしたい……。陛下のお気持ちをお受けすると決めたら、今度はすぐにお伝えしたくて、…すぐに、お会いしたくて……。
「ねぇ、ナタリー。私、近い内に陛下にお会いしたいのだけれど……。ご都合の良い日をお尋ねしてもらっていいかしら?」
私のこの言葉を聞いてナタリーは一瞬呆然とし、そして次の瞬間にはぱあっと笑顔になった。
「分かりました! すぐにお伝えしお返事をいただいて参ります!」
彼女はそう言い、そのまま急いで部屋を出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと待って、ナタリー! そんな急がなくていいのよ! あの、ちょっと…、今後のご相談をしたいというか、直接お会いして色々お話ししたいというか……。あ、それにサミュエル王子のシュバリエ家との関わりなどは、どうだったのかしら!?」
ナタリーは多分真っ赤になっているであろう私の顔を見て嬉しそうに言った。
「分かりました。では後ほど書状にて問い合わせましょう。
…それと、第3王子とシュバリエ公爵家との関わりでございますね」
ナタリーはスッと真面目な顔になって話し出した。
「6年前の戦争後両国に同盟も結ばれ、第3王子は我が国に使節団の1人で今回の立役者としてやって来られました。そこでの彼は今と同じ、『好奇心旺盛な少年』となっておられたようです。そして今の陛下に非常に懐きながら、今回の騒動でお世話になった方にお礼を言ったあとは、ご自分の関心がおありになる方にどんどんお話に行っていたようです。
…その内のお1人がカタリーナ様です。とてもご関心がおありだったのか令嬢を質問攻めにされたようで、兄の王太子を始め周りの方に止められる程であったそうです。父であるシュバリエ公爵は娘を妻にと言い出すのではないかと戦々恐々とされていたそうですわ」
まあ、シュバリエ公爵の困ったお顔が目に浮かぶようだわ。
「同盟国の王子に婚約を申し込まれては、気になる人が居るからという理由だけでは断るのは難しいですものね。マティアス様もヤキモキされた事でしょう」
「そうですわね。…そしてここからなのですが……。第3王子は、そのあと我が国の第2王子だったルーカス様、当時の王妃、ピシュナー侯爵、ソドムス侯爵、ドリス伯爵、第2騎士団長と話された後、ワーグナー侯爵夫人のところへ行き随分と話に花が咲いていたとのことでございます。ワーグナーシステムの事にも興味を持たれ、流行病の後は王子は先見の明もおありだったと評判は上がっておいででした」
その、お話になったメンバーは……。
「マーガレット様からサミュエル様とお話されたことはお聞きしたわ。興味を持つ事にはどんどん突っ込んでいくけれど、なければアッサリ切り捨てるようだとも仰っていたけれど……。けれど、彼の興味の持たれたそのメンバーは……。今回の卒業パーティーでの第2王子とその側近の親のところよね? 他にもたくさんお話された方の一部ということ?」
「話しかけられ色んな方とある程度お話はされたようですが、ご自分から話しかけられたのはそのメンバーだけだったと、当時の『影』から話を聞きましたので確かでございます」
そんな、偶然ってあり得るの?
「当時、彼らはサミュエル様の関心を買うほど有名だったのかしら? 戦争で活躍したとか……」
「いえ、第2騎士団でさえ王都周辺の警備中心ですし、他の方々も一切6年前の戦争には関わりは無かったと思われます。そして彼らは当時から王妃派の者達でしたが、まだその時御子息は側近になられていなかった方もいらっしゃいますし……。今回確認した『影』も、第3王子のある意味先を見る目に驚いておりました」
それって……。
そのメンバーは乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜」の王子とその側近、攻略対象者とその親。
そして、マーガレット様にワーグナーシステムの事を聞き、『ニホン』を仄めかした第3王子。
それは…もしかして、サミュエル様が前世であの乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』をされた事があるから、ではないのかしら?
だから、学園に留学して来られた? そして今まで沈黙されていたのはこのゲームを見届ける為? そしてこの断罪劇があると分かっていたから、それを利用して王家の権威の失墜を狙われたのかしら……?
だとしたら、サミュエル様は『卒業パーティーに行けなかった』と仰ったけれど、本当はなんらかの手を使ってパーティーに来てらっしゃったのではないかしら? あのゲームの事を知っていたとして留学までして学園にいるのに、そのパーティーに来ないなんてあり得ないもの。
…そして、きっとあの場で見ておられたから、私を知っていらっしゃったのね。
考え込む私に、ナタリーは言った。
「調査後に陛下に呼ばれましてこの度の事をお話ししたところ、陛下は第3王子の事は信頼している。大丈夫だ、との事でございました。あとは直接陛下にお会いになられた時にご確認くださいませ」
直接、陛下にお会いした時……。
私は、また少し顔が熱くなる。きっと赤くなっているわ。
そんな私をナタリーは微笑んで見ているのだった……。
お読みいただき、ありがとうございます!
自分の気持ちを陛下に伝える決意をしたリリアンヌです。ちなみに前回陛下に会ってから5日程経過してます。




