99 決意
2人で暫く考え込んでいたけれど、降参、とばかりに軽く手を上げて真奈が言った。
「…まあ、これだけの情報では彼の考えを理解するのは難しいわね。彼の行動も二面性がありすぎて何とも言えないわ。もう少し探りを入れるしかないわね。あ、貴女は絶対に彼に近づいてはダメよ。陛下に怒られるわ」
「真奈。サミュエル王子の事が分からないには同意するけれど、陛下に怒られる、は何?
…そうだ! 真奈、貴女この前私が侯爵家を訪ねた時、陛下の事教えてくれなかったでしょう!」
私は少し拗ねた態度で言った。
「それは仕方ないでしょう? 陛下からの緘口令に貴女の父上であるカールトン伯爵からも黙っててくれって書状までいただいたのだもの。話すわけにはいかないでしょう? それに他に積もる話もたくさんあったしね」
うん、確かに真奈との感動の再会あり、私がいなくなってからの前世のその後の話あり、積もり積もった話がたくさんあったんだけど……!
「そうなんだけど……、そうなんだけど! ちょこっと、ヒントでもくれてたらなーって……。だって! いきなり王様になってるって! そりゃ、卒業パーティーで話がそんな流れにはなってたけれど、実際は王太子殿下もいらっしゃった訳だし……。周りが何も言わないから、やっぱりそのまま王太子殿下が王様だよねーって、思ってたのに……」
「王太子殿下は今のところの身分はそのままよ。陛下にお子様が出来たら、『ノーマン公爵』を継ぐ事になっているわ。何よりご本人が納得されて……いえ、そう望まれたのよ。まあ、フォートナム公爵家の父や兄が王太子殿下が幼い頃から『誰よりも王に相応しいのはアルフレッド様だ』って繰り返し囁いてきたからじゃないかと、私は思ってるんだけどね……」
「それはちょっと闇が深いわね……。本当にご本人のご意志なの?」
ちょっと王太子が心配になって聞いてみる。
「ふふ、まあ、ご本人もいい大人だしね。それに誰よりも陛下に憧れを持っているのも王太子殿下よ。パーティーでも会議でも、ご自分からアルフレッド様を王にとご推挙されたと聞いたわ。心配ないわよ」
「それならいいけれど……。って、私は良くないんだわ……! だって、王様だなんて……。公爵様でも、畏れ多いのに……」
真奈は優しく微笑んで私を見た。
「…どうして? アルフレッド様ご自身は何も変わられていないわよ? …そして、彼は貴女に恋をしている。…貴女は……? マティアスの母である私が聞くのはおかしいけれど、…莉乃は、リリアンヌは陛下をどう思っているの?」
私は急に弱気になって、首を振りながら言った。
「…私はあのパーティーの後から毎日お花をいただいて……。いえ、その前からずっと、陛下はお優しくて……。でも、陛下は私が王家の被害者だって思っているからお優しくしてくださるんだって、そう思ってた……。
でもそうじゃないって、私と……私と共に居たいと、そう陛下は言ってくださったの。…真奈、私……、マティアス様との事がダメになったばかりなのに……。まだたった一月ほどしか経っていないのに、私……。私、…嬉しかった。とても、嬉しかったの……。ごめんね、真奈……。私、すごい浮気者みたい……。こんなに、すぐに気持ちが変わるなんて、…私……、ごめんなさい。マティアス様にも申し訳がたたないわ……」
ホロリ、涙が出てしまった……。
「どうして謝るの? 莉乃。貴女は何も悪くない。貴女がマティアスとカタリーナ嬢の気持ちに気付き協力してくれるようになってから、貴女は恋する気持ちを閉ざしていた。それはマティアス達が悪いのだから仕方ないのよ。
そして、人の為に頑張るその姿に惹かれたアルフレッド様は、貴女を見つめずっと心を贈り続けてくれていた。そんな優しさと愛に貴女が惹かれておかしな事など何もないわ。そして今貴女の心が癒えて、改めて貴女が選ぶ道に誰も文句など言わないわ。…私が、決して言わせないわ」
真奈は私の横に来て、そっと手を握ってくれた。
そしてそのエメラルドグリーンの澄んだ眼は、真っ直ぐに私を見つめていた。
「真奈……。私、いいのかな? 本当に陛下のお側にいても……。婚約解消したばかりだし、身分は本来釣り合っていないし、王家に嫁ぐなんてそんな教育なんて受けていない……。こんな私が陛下の隣にたっていいのかしら……?」
そこで、少し真奈は悪い顔をした。
えっ? なに?
「…大丈夫よ。莉乃……! 私が、貴女を陛下の横に並ぶに相応しい立派なレディに仕上げて差し上げるわ! 実は、他の4家の後見の夫人からも頼まれているのよ。今回、貴女の『後見』は男どもの思う貴族の後ろ盾だけではないわよ。王妃となるには、まずは社交界で頂点にたつのよ! …大丈夫よ、この私を始め4家の夫人が後ろにいれば、女どもの社交界は牛耳ったも同然よ! まずは貴女を下に見ているような派閥などは、全力で完膚なきまでに叩き潰してあげるわ!」
拳を握り固く決意した様子の真奈。
え、ちょっと待って。急に何!? そのスポ根並の熱さ! なんだか夕陽に向かって走らせる鬼コーチのようだわ……。
「イヤ、でも……。そう、そもそも叩き潰すなんて……」
「何言ってるの! 莉乃!! 女の世界はただ立っているだけで周りが心から跪くなんてありえないのよ! まずはどちらが本当に上かを分からせないとね……! 貴女が王妃となるのに最初にすることは、まず貴女を認めない、下に見ているような者達に、しっかりと貴女が1番上位の者だ! と分からせる事ね!」
「私、まだ王妃になるとは……」
「莉乃。分かっているとは思うけれど、陛下はすごくおモテになるわ。普通に黙っていてもモテるのに、王になってからは国をあげて諸外国からも縁談がわんさか来ているのよ! 本当に好きと思ったなら突き進まないと! 陛下がこれからも独身を貫けるなんてことはまずないわよ? 陛下が他の誰かとご結婚されてもいいの?」
陛下が、他の方と……結婚!?
「そんな……。そんなのは、絶対にイヤだわ!! 陛下が他の人とだなんて……!」
真奈は、ニッコリと笑った。
「…そうでしょう? だから、本当に陛下を好きなら、突き進むのみよ。女は度胸よ! 大丈夫、貴女には私達がついているわ!」
わー…。頼もしーい……。
そうして、私は真奈の強引な応援もあり、陛下の気持ちをお受けすることを決意したのだった。
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