第9話 女神の聖眼
翌日。
昨日のパチンコ屋さん、『キャメロット』に向かっていた。
この世界──ニホンという国らしいです──は元の世界より遥かに進んだ国でした。
料理もそうだし、夜になっても明るい部屋、お風呂を炊くのも薪いらず……それも魔法の類は使っていないとのこと……ほんとに不思議な世界です。
「どうよ姉貴のジャージは」
「とっても動きやすいです!」
じゃーじ、なる上下で分かれた青色の衣服は身体を動かしやすい。ロマンさんのお姉さんのものらしいです。修道服よりずっと速く走れそうですね! ロマンさんにお財布も頂いちゃいましたし、至れり尽くせりです。
「で……ルドヴィカの奇跡、だっけ?」
「はい、奇跡」
「マジで奇跡なんだ……まぁいいや、その奇跡って何」
「奇跡は奇跡です!」
「そりゃそうだ」
ちょっぴり呆れたようにロマンさんは返した。奇跡は奇跡としか言えないんですが、どうやら説明不足のようです。
「えーと……私の世界には魔法と奇跡があって、魔法は魔力を使って起こす現象です」
「火とか出すやつ?」
「そ、そうです! 簡単な火おこしから戦争で使うような火炎魔法まで。物知りですね!」
「漫画読んでればなぁ」
この世界にも魔法があるんだ……!
ん? じゃあカデンとかは魔法じゃないならなんなんだろう?
「奇跡ってのは親父のぎっくり腰治したような回復魔法的なものなのか?」
「肉体の治癒は奇跡の中のひとつです。奇跡というのは女神様から与えられた魔法とは異なる体系の能力です」
魔法はどちらかと言えば人ならざる魔族も用いる技。奇跡は選ばれた人間のみが使用できる超常現象だ。
「治癒、加護、結界に簡単な未来予測。天候を変えたり、兵士の戦意を鼓舞したり……人によって得意不得意はありますけど、様々ですよ。私は治癒と加護が得意なんです」
「ヒーラーみたいなもんか……」
「ひーらー?」
やはり奇跡も知っているようです。ひょっとしてロマンさん、実はとても偉い人とか……⁉︎
「話してるうちに着いちまったな」
「改めて見るとおっきいお店ですね……!」
ぱーらー「キャメロット」。
四角い真っ白な建物は帝国のお城にも似ている……ような気がします。馬なしの馬車がどんどん入っていくのが見える。どうやって動いているんだろう……?
「奇跡についてはなんとなく分かったよ……それがどうやってスロットの役に立つんだ?」
「それはですね────ッ⁉︎」
ガラスの扉を潜ると、けたたましい音が耳に響いた。
「す、すごい音……」
「あれ、昨日平気だったのに」
昨日はいろんな出来事が重なりすぎてわからなかったけど、パチ屋さんはとても騒々しいです。まさに戦場と言って差し支えない。
「耳栓いる?」
「い、いえ……このくらいなら平気です!」
慣れるまで両耳を覆う私と違って、ロマンさんは平然と歩いていく。やっぱり只者じゃない……!
店内の騒音に負けないよう、声を張って続ける。
「治癒の力があるってことは、相手の具合がわかるってことなんです」
「医者が患者の様子で察する感じ?」
「似たような感じです!」
昨日は立て込んでいたのと、焼かれるまで不要だったたから閉じていたけれど……いま必要だ。
ずらっと並んだスロット台の場所に着いた。ここが、今日の私にとっての戦場。
一度瞳を閉じて精神を集中させる。
ロマンさんに色々教えてもらったんだから、私だって役に立ちたい!
「対象の状態を見抜く聖女の眼……人々はこう呼びました」
「うわっ、なんか両目光ってる⁉︎」
金色に輝く双眸は人にあらず。
選ばれた者が持つ、聖なる眼。国を脅かす魔の弱点を見抜き、民の病を見抜く聖女になる絶対的な前提────
「『女神の聖眼』です」
「…………眩しくないの?」
「実は平気なのです! 暗いところでもよく見えます。暗闇の襲撃にもバッチリ迎撃できるんですよ」
「あんた治癒と加護が得意なんじゃないのか……?」
「そうですけど?」
味方を治しながら敵を殴る、常識です。
「バイオレンスに満ちてやがる……その、聖眼? で何するの?」
「聖眼は命あるものではなく、建物や人工物も状態を見抜くんです」
「まさか…………⁉︎」
ロマンさんは察してくれたみたいです。
スロット台がずらっと並ぶ通路、影に包まれたような暗い台もあれば、太陽に照らされたように輝く台もある。
輝いている人間は絶好調、あるいはとても強い人。逆に影に包まれている人は、病に冒されていたり、傷を負っていた。
ならば人工物なら……
「当たりそうな台はピカピカしてます!」
女神の聖眼、初めて自分のために使っちゃいます!




