第8話 第1回スロット講座『スロットとは?』
うなされてたから様子を見に来たんだが、思ったより訳ありの訳がシリアスそう。ちょっと涙ぐんでいた気もするけど、下手に突っ込むのはやめよう。
────話を戻す。
それでなぜスロットに着地するのかは分からんが……本人が勝利を求めているならば、スロット打ちの先輩としては応えてやらにゃ嘘になる。
「ま、どのみち生きてくには金がいるしな。勝っていくのは必要な条件だ」
「そうでした、宿代はこれで足りるでしょうか?」
と、初戦の勝ち分を差し出して来たルドヴィカ。思わず軽くデコピンをしてしまう。
「あだっ」
「軍資金なしでどーやって戦うんだよ。それはあんたの全財産、宿代なんて暇な時に店手伝えばいいんだよ」
その分俺の自由時間増えるしな!
ルドヴィカの持つ約3万円は生命線と言っても過言ではない。異世界からやって来た魔法少女(仮)による回胴遊技録……うーん、なんてニッチな題材なんだ。
「いやいや、そういうんじゃなくて」
「ロマンさん?」
「……なんでもない。それじゃ、寝起きで悪いがスロットについてお勉強しようか」
書斎から場所を変え、俺の部屋へ移る。
鍵のないドアを開けると、実に無味乾燥な室内がルドヴィカを出迎える。
約4畳ほどの室内には布団と小さな机、あとはデスクにノートパソコン、そして……
「本がいっぱいですね」
「実用書はねぇけどな、ハハハ」
1面の壁にある本。
ほとんど漫画か小説、あるいは小説の書き方に関するものと、転職関連、ブラック企業の辞め方などなど……
「さて、スロットの話だな」
「己との戦い、ですよね?」
「まぁそれもあるけど。そもそもスロットとは? ってハナシ」
果たして現代にやって来た異世界の女の子に教えるのがスロットでいいんだろうか……いや、いい。現代社会の余計なことなど知らなくていい。スロットで毎日勝てば仕事なんてしなくていい。
ノートパソコンを開いて適当にネットで検索すると、今日打っていたスロットの画像がヒットした。
「スロットってのはパチンコ型スロットマシン、他には回胴式遊技機なんて呼ぶけど呼び方は覚えんでいい。とにかくスロットだ」
「スロット、スロット……!」
アメリカはラスベガスにあるカジノのスロットとはまた違う。あくまでパチスロだからな。
教えるべきは……
「どういう仕組みかってトコだが……そうだな……」
スロットっつっても色んな仕組みの台があるから一言で言うのは難しい。複雑化した遊技機を一度に伝えるべきではない。
ふと、机のティッシュが目に入る。
例えとして正しいかはともかく。
「この箱をスロットとする」
「この箱を」
「ここから紙を1枚取り出すたびに当たりを抽選しているのが今日打ってた台の仕組みと同じだ……試しに1枚取って」
「こう、ですか……?」
スルッと1枚。なんの変哲もない1枚のティッシュ。
「ハズレ。これでコイン3枚なくなった」
「もう1回です!」
もちろんなんの仕組みもない。
1枚とっても当たりはない。というかティッシュの当たりってなんだ。
「今回のは次の1枚取るのにコインは使わない」
「無料でもう1回、みたいな?」
いわゆるリプレイである。
「えいっ」
「今のはコインの払い出しが7枚」
ベルという小役だ。
他には当たりの契機になるチェリー、スイカなど……単なるハズレだけではなく、特定の小役もある。そして小役の出た確率で台の設定が良いか悪いかも予測すると。
「今日の台はずっと当たってましたよ?」
「あんなこと何回も起きてたまるか。普通はこうなの」
「むむ、もう1回!」
繰り返すこと数十回。だいぶティッシュも無駄に出したしそろそろ終わるか。
「当たり!」
「ひゃっ、なんですか?」
「今ので当たり。おめでとう」
「ありがとうございます?」
「つまり普通のスロットってのはコイン3枚を使って1回遊べて、毎回当たりを抽選してるってワケ。だいたい何百分の1って確率」
「そ、そんなの当たるんですか⁉︎」
「今日連続で当ててたでしょうが…………」
「あ」
ようやく自分の起こした偶然がとんでもないことに気づいたな。
「考えて打たないと金がいくらあっても足りない。スロットで勝つとは頭もいるんだよ」
「ロマンさんは考えて打ってるんですね!」
「あ、あぁ……そうね」
言えない。当たらねーかなーと適当に打ってるなんて言えない……スロットで常勝を目指すのは修羅の道である。
しかし──
そこまで鬼になれたのなら、
もう少し夢に向かって努力していたのだろうか。
「ご丁寧にありがとうございます! スロットの大まかな仕組みはわかりました。私、もしかしたらお役に立てるかもしれません」
「お役に?」
「私の奇跡で!」
親父のぎっくり腰を治した力とスロットになんの関係が…………?




