第6話 奇跡の聖女
パーラー「キャメロット」から歩くこと約10分。地元の駅に近い主義家は見えてくる。3階建てでよく目立つ。
「あれが、ロマンさんのお家ですか?」
「実家ね」
赤い看板には白色の大きな文字で飲食店であるととてもわかりやすく伝えてくれる。
『らーめん主義』である。
決してラーメン主義ではない。茶色の引き戸にはのれんがかかっておらず、『店主急病のため臨時休業』とだけ雑な張り紙。
引き戸を開けると昔ながらのカウンター席が7つと、4人用のテーブル席が2つ。照明は最低限で、奥の自宅の灯りが見えた。
「ただいまー」
「浪漫、あんたまーたパチンコぉ?」
「スロット」
「一緒でしょうに……んもぅ、お父さんが大変だっていうのに〜」
声の主は母である。主義秋恵……嫁入りなので主義家の姓は関係ない。暴走しがちな主義家の手綱を握る存在だ。
「単なるぎっくり腰だろ、大袈裟な」
そのまま奥へ進むと2階の住居へ上がるわけだ。そして居間には父、主義実直が腰痛で伏していた。
「浪漫、勝ったのか⁉︎」
「プラマイゼロ」
「負けてねぇなら勝ちだな、ガハハいてててて……」
刹那的な人間の多い主義一族には珍しい真面目人間の父は長い修行を経て独立しラーメン屋の主人となった。昔は競馬とかやってたらしいけど。
母は皿洗い、父はうつ伏せ。
ふたりとも振り返らないのでルドヴィカに気づいていない。
「ちょっとは店手伝いなさいよねぇ」
「あの狭い空間に3人もいるかよ。それより親父の書斎使っていい?」
「なんでェ?」
「いや、そろそろ振り向いて欲しいんだけど……」
「だからなに──って、えぇっ⁉︎」
「誰だその外人サン⁉︎」
「パチ屋で知り合った子」
「ル……ルドヴィカ=ヴァレンティです!」
突如ラーメン屋に現れた異国の少女に、両親は放心。白い修道服を着た金髪の女の子などテレビの存在である。
「こ、こりゃ……ご丁寧にどうも」
「浪漫あんたナンパなんてするようになったのねぇ」
「違うわッ」
半分そんなようなものではあるけど。
そういや言い訳をなんも考えてなかった……どう説明したものか頭を巡らせていると、ルドヴィカが親父に声をかける。
「あの、腰が痛むのですか?」
「ぅえ⁉︎ お、おぅ、寸胴持ち上げようとしたら痛めちゃってね、あたた……」
「失礼しますね」
ルドヴィカは親父の腰に手を添える。
すると……彼女の身体が光り輝いた。
「主よ……この苦しむ民を救いたまえ――――」
「お……おぉ…………っ⁉」
発光というには強すぎる輝き。
強烈な光は親父の腰を包み込み…………
「痛みが……消えちまった!」
「うそぉ~?」
「ホントホント! ほらこの通り」
ぎっくり腰とはなんだったのか……
年甲斐もなく湿布を剥がしてピョンピョン飛び跳ねる親父が少し若返ったように見える。やはり、やはりやはり……ルドヴィカ=ヴァレンティは普通ではない。
こんなことがあるのか? いや目の前にあるんだから信じるほかない。
「いやぁお嬢ちゃん凄いマッサージするんだな!」
「いえ、これはマッサージではなくきせ――――ぁ」
言葉を遮るように、ぎゅるるるるぅと盛大な腹の虫が響いた。
奇跡を起こした少女のお腹から。
「ラーメン・チャーハンセット1つ」




