第5話 スロットは遊技です。間違えないように
ここはぱちや……パチンコ屋さんというお店だと、ロマンさんは言った。売るとか買うとかではないそうだけど。
今はスロットを終えて受付のような場所に案内されたところ。
「んじゃ、さっきの紙出して」
「これですか?」
赤い光の灯る装置に紙を差し出すと、どこからともなく『ピッ』と音が鳴った。
「なんですか今の?」
「この紙を認識しましたよって合図」
謎の板を触りながら、ロマンさんは手続きをしているようだった。魔力で動かす装置なのかな?
「はいはい、出てくるから取ってね」
「出てくる……?」
すると受付の台が動いて穴が空き、下から謎の板がせり出した。赤色や黄色の小さな板の中には、指先ほどの小さな金の板が入っていた。
まさか金……じゃないよね?
「はやくまとめな。あっち行くから」
「ど、どこへ……⁉︎」
ガラス製の扉がひとりでに開いて外へ出ると、火刑に処されたあの空とは違う、透き通るような青い空が広がっていた。
「……………………」
生きてる。
それだけで十分だと思っていた。
偶然出会った人に、楽しい時間まで与えてもらって。それでも私が受けた敗北は、紛れもない事実。
「ッ…………」
「お、おい。どうかしたか?」
「い、いえ……ちょっと」
ようやく自分が助かったことに安堵して、麻痺していた感情が込み上げた。もう痛い思いも、空腹も味わわなくていいんだ。
「そんなにスロットの勝ちが嬉しかったのか……」
「それもなんですけど、それと一緒に嬉しかったことがあるというか、あはは……」
「まぁいいや。さっさと交換しようぜ」
近くにあった謎の建物に寄ると、ロマンさんは私に板を出すよう指示した。何かのやり取りをする場所みたい。
板を入れられる凹みにそっと置くと、そこが閉ざされ板がなくなってしまった。
「ろ、ロマンさん、取られちゃいましたよ⁉︎」
「そりゃ交換するからね」
交換……? あんな板を何と交換するんだろう?
考えているうちに凹みが戻ってきて、中には数枚の紙が重なっていた。壮年の男性の絵が入った、不思議な紙。
「3万ちょい、いいねぇ常にこのくらい勝ちたいもんだ」
「あの、ロマンさんこれは……?」
「これ? これはお金ですよルヴィさん。ほれ」
「えぇっ、お金っ⁉︎」
ぽん、と手渡された紙には、さっきのコインのような重さはない。確かに紙のお金を使う国もあるって聞いたことはあるけど……初めて見た。
ロマンさんも自分の分を交換したのか、微妙な表情で「トントンか……」と呟いていた。
…………あれ?
「ロマンさん、さっきの銀貨……じゃなくてコインってどうやって買うんですか?」
「ん? あぁ、あれは買うっていうかお店に借りるんだよ。1回50枚くらいをお金で」
「お金を使ってお金を……」
そういえば、帝国の貴族の人たちもお金を使って遊んでいた気がする。あれは……
「賭け事……」
「違ぁうっ!」
「ひゃ⁉︎」
「違うぞ、それは違うぞルドヴィカ=ヴァレンティ! スロットは賭け事なんかじゃないッ! 健全な遊技なんだッ! 楽しいエンターテイメントなんだッ!」
「どうしたんですか……?」
「いや……たまに勘違いするお茶目さんがいるからな。念のため」
「なるほど?」
確かに……遊技なら大丈夫!
元聖女とはいえ、賭博はよろしくないですからね! 遊びなら許容範囲です、多分。
それに、楽しかったからいいかな!
「さて、俺はこれで帰るけどあんたどうするの?」
「あ…………」
忘れていた。ついでにお腹もくぅと鳴って恥ずかしい。
ここが私に取って見知らぬ土地、見知らぬ世界なら、今日の宿のあてもない。お金は手に入ったけど、どのくらい余裕があるかも分からない。
処刑から免れても、生活は自分でなんとかしないといけないんだ…………
「えっと……その」
「家来る? 狭いけど」
「い……いいん、ですか?」
「むしろ今こうして男の口車に乗りそうなあんたが心配だよ俺は…………」
呆れたように、それでいて照れくさそうに返すロマンさんに、邪な考えがあるようには見えなかった。




