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救国の聖女はスロットを打ちたい  作者: ムタムッタ
第6章 世界は聖女を求めている

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第35話 聖女、パチ屋に再臨す


 翌日。


「ほんじゃ俺説明会行ってくるから」

「行ってらっしゃい、ロマンさん」


 玄関でロマンさんを見送ると、途端にしんと静かになっちゃいました。

 お仕事を紹介する催しがあるそうです。この前行っていた『はろわ』とは違うらしいですね。


「さてどうしましょう、今日はお店もお休みですし」


 定休日でおじさまおばさまも2階でゆっくりされています。お二人の団欒を邪魔するのも悪いですね。


「やほールヴィちゃんいるぅ?」

「マリンさん!」


 引き戸をくぐって黒髪のマリンさんが来ました。金髪がすっかり抜けてしまっています。


「漫画のお仕事はどうしたんですか?」

「編集に見張られること10日以上、脅威の筆の速さで仕上げたよぉ〜!」

「それはそれは、お疲れ様ですっ」

「まったく何も降ってきてないのに書かされたって面白くできないのにねぇ。エゴサしたら『はよ書け』とか『働け』とか漫画家に休みはないのかっつうのぉ!」

「は、はぁ……お疲れ様です」


 どうやら漫画家さんというお仕事は大変なようです。


「それでさぁ、ようやく労働から解放されたしスロット打ちに行きたいなって思ったワケ。一緒に行かな〜い?」

「え」


 思わず声が出た。

 別にマリンさんのことが苦手というわけではありません。初スマスロの惨敗も、私の油断と引き際の悪さですからね。


『マリンと連れ打ちすると大体負けることになるからやめたほうがいいぞ』


 と、ロマンさんから助言を頂いているのです。

 そういえば、前はマリンさんも負けてました。


「あー! その顔はロマンくんから変なこと吹き込まれてるなぁ?」

「え、あ、いや〜、そんなことはないですよぉ?」

「嘘が下手っぴだねぇ。目が泳ぎ過ぎてるよぉ」


 バレちゃいました。


「一緒に打とうよぉ〜。仕事にくたびれた女子《おなご》を救うと思ってさぁ」

「救う…………」


 散々聞いてきた言葉が、妙に引っかかる。 

 マリンさんの言葉を反芻していると、奥からおばさまが見覚えのある衣装を持ってやってきました。


「ルヴィちゃん、クリーニングに出してたんだけど、これ久々に来てみない?」

「それは……!」

 

 それは私の礼装。

 こちらの暮らしの中で、袖を通すことのなくなった聖女である唯一の証拠……といっても、普段から来ているので、格式張ったものではないんですけどね。儀礼用のは動きにくいですし。

 

「おぉ〜」

「ありがとうございます、おばさま」


 たまには着てあげないと可哀想ですね。

 そうして私は、過去の礼装に袖を通しました。



 ◇ ◇ ◇



 ────聖女の礼装。

 私の最期には身に纏うことすらなかった虚栄の装束。それを着た者を見ただけで救われたと心酔する者がいれば、それを着た者を見ただけで悪しき心が浄化されたこともあるとか。


 結局陰謀に嵌められて、最初に奪われたんですけどね。『我こそがミサ帝国の聖女である』と名乗った彼女は、どうしているのでしょうか? 今となっては知る術もありません。


 今の私にとっては、ジャージの方がよっぽど礼装です。


「なんだかご利益ありそうだねルヴィちゃん」

「そうですか?」

「うんうん、後光が差してるよぉ」


 手を合わせて拝まれても……

 今の私は、ただのルドヴィカです。


 礼装を着ていても、キャメロットにスロットを打ちに来たんですから! スロット大好きルドヴィカなんですっ。


 今日も店内はそこそこに賑わっていました。さてと、マリンさんと一緒ですが何を打とうかな……


「おぉ、お嬢ちゃん! ちょうどいいところに」

「おじいさん?」


 この前も会った常連のおじいさんでした。


「ヤマさんルヴィちゃんナンパしちゃダメだよぉ」

「マリンちゃん違うんだって、この子ったらすごいんだからさ。こっちこっち!」

「はい?」


 どうやらヤマさんというらしいです。そのまま連れられたのはノーマルタイプ……赤いハナの通路でした。何人かヤマさんと同い年くらいの方々が打っていました。


「ほら、おれが言ってた子!」

「あらぁ、可愛い子〜」

「なんか宗教系の方?」

「飴食べるかい? 端玉のやつだけど」

「え、えーっと…………」

「あはは、ごめんな! お嬢ちゃんに7揃えてもらったら勝ったって話しても信じてくれなくてさぁ」

「なにそれぇ?」

「最近噂だよ? パチ屋に女神様がいるって……いや、この格好を見たらパチ屋の聖女様か、ガハハ!」


 この世界に来て、そう呼ばれるとは思いもしなかった。もう名乗ることのないであろう称号は、巡り巡ってまた私の元へやって来てしまったようです。


 でも、今はただの悪い子ですけどね。


「あ、光った!」


 雑談の最中で、1台がハイビスカスをチカチカと点滅させた。


「せっかくだし聖女様やってみてくれないかい?」

「は、はい。構いませんよ!」

「ルヴィちゃんやさしぃ〜」

 

 人に優しく、そして善行はスロットに還元されるのです。ご老人のためだけではありません、私は私のために代打ちするワケです。


 そして流れるように777(スリーセブン)を揃えるのでした。


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