第36話 奇跡はジジイとババアに劇薬すぎる
「ん〜条件があわねぇなぁ」
高望みしていることは自覚しつつも、企業説明会からそそくさと退散した。
別に焦る必要はないんだが……新生活に慣れ始めたルドヴィカを前に動かないのは、なんだか停滞を感じてしまっていた。
仕事はねぇ、目標はねぇ、手元にあるのは小さな夢の欠片だけ。これじゃヒキも寄ってこないってもんだ。
「前向きなのか後ろ向きなのかわかんねぇなもう」
二人でラーメン屋を回している時に、ふと考えることがある。ルドヴィカは、これからどうするんだろうか?
金が貯まったら、それこそ日本に定住するんだろうか? それとも、元の世界に戻る方法でも探すのだろうか?
そういえば、奇跡だの魔法だのとかいつまんで話は聞いたが、まだ何者なのかハッキリとは聞いてなかったな。
「なんも知らねぇな、俺」
見た目に反して馬鹿力、3人前は簡単に平らげる食いしん坊、スロットで当たるたびに白目を剥きそうなちょっぴり危ない、奇跡使いの異世界少女……ってとこか?
「……属性てんこ盛りだな」
リアリティがないとか言われそう。現実にいるからリアリティどころではないけども。今何してんだろ、スロットかな?
帰りの電車に揺られていると、胸ポケットのスマホがわずかに震えた。真凛からだった。数年越しのトーク更新は……
『キャメロットがヤバい』
「は?」
意味不明だ。なんと返答したものか。
『るゔぃちゃんなにもの! ひかってるんですけど!』
「…………スゥ────」
①真凛がルヴィをスロットに誘う
②キャメロットでなんかあった。
③ルドヴィカの奇跡絡みの確率100%
天を仰ぐとはまさに文字通り。さすが三洋真凛、お前がいると退屈しないぜ……! とりあえず殴ろう。
「頼むから穏便であってくれ……!」
時すでに遅しという言葉が脳裏に湧き出て止まらなかった。
最寄駅に到着すると、家に帰るのも惜しく、就活用の鞄を抱えたままキャメロットまで走り抜けた。
なんだって俺は、スーツ着て走ってんだ!?
白亜の城は今日もそこそこの駐車率。一体何がパチ屋の中で起きているのか……
「はぁ……はぁ…………見た感じは普通だけど…………?」
乱れた息に冷えた空気が心地よい。真凛のやつ、まさか適当ぬかしたわけじゃないだろうな。
ルドヴィカといるならスロットコーナーだろう。パチンコの島を素通りし、ノーマルタイプのスロット島へ向かうと、すぐにわかった。
だって通路から光が見えるもの。
「聖女様バンザーイ!」
「奇跡じゃ、奇跡がここにおる!」
老人たちが拝むは光り輝く少女、どういうわけかこちらに来た時の衣装を身にまとってジジババと共に、真凛と共にスロットを打っていた。
「あ、あはは……」
ルドヴィカの周りの打ち手のほとんどが当たりを爆発させていた。
ドル箱、ドル箱、ドル箱……
通路を挟んだスマスロコーナーとは対照的に、大量のドル箱を重ねてお祭り騒ぎだ。イベント日でもないのに。
気配で勘づいたのか、真っ黒髪の真凛がこちらをチラ見すると、わざとらしく身を縮こませた。
「おい真凛〜?」
「うぇ、ち、違うよ! あたしはルヴィちゃんを誘っただけでぇ!」
「そ、そうですよロマンさん! これは私が皆さんの代わりに7を揃えてあげただけで……」
「そうそう、聖女様のお力だよ兄ちゃん」
「兄ちゃんも揃えてもらいなよ!」
どいつもこいつも目がイッちまってる……代打ちしただけでこの威力なのか……!
俺や真凛はともかくとして……奇跡はジジイとババアには劇薬すぎるぞ。




