第33話 パチ屋の聖女
「あー、終わっちゃいました……」
「6000枚か。負け分捲ってむしろプラスに戻ったな」
神に祈ることだけが全てではなかったみたいです。自分に祈り切り開いた運命は、確実に勝利をもたらしました。
奇跡は可能性に満ちています。
元の世界では決して見えなかったものが、この世界で見えるようになって……本当に良かった。
「今日はお祝いですね、ロマンさん!」
「え? あぁ、うん……そうねぇ」
「どうかしました?」
苦笑いを浮かべたロマンさんの台を見ると、グラフが右肩下がり。凸凹の坂道が私とは対照的です。
「いやースマスロってクソだわ!」
「ロマンさん、私のために…………」
多分設定4、とロマンさんは粘っています。
聖眼で見ても輝きはありません。ハイエナというのは、即時撤退だって言っていたのに……私と一緒にいてくれたんですね。
「今日の勝った分、ロマンさんに差し上げます!」
「なんだって?」
「あの日の負け分は取り返しましたし、ずっと隣にいてくれたんですからこれは……」
「馬鹿言うな。これはヒキが悪かっただけの話だ、自惚れてもらっちゃ困る。それはあんたの勝ち分だ」
「でも……」
「じゃ飯奢って」
「それくらいは当然ですっ!」
「えぇ……なら、そこで飲み物買ってきてくれよ。お茶でいいからさ」
「恩返し足りません!」
「んもぅ、ちょっとは勝ちの余韻に浸れよなぁ。ほら行った行った」
急かされるように席を立たされて、私は自動販売機へ向かった。硬貨を入れて飲み物が出てくるって不思議な箱ですよね。
「中に誰か入っているのでしょうか」
見覚えのある銘柄を選んで買いつつ、そんなことを考える。不思議な世界、まだまだわからないことだらけです。
「そういえばロマンさん、打ち続けるのかな……」
悪いことしてしまったかも。ロマンさんの好きなものいっぱい食べてもらいましょう! ロマンさんって、何が好物で…………
「あら?」
ロマンさんのもとへ戻る道すがら、ノーマルと呼ばれる台でお婆さんが困っていました。
「どうしましたお婆さま?」
「あたったんだけどねぇ、7が揃えられないのよぉ」
「7が」
くるくると回り続けるリールに垣間見える赤色の図柄。確かにお年寄りには目で追うのも難しいかもしれません。
「いつもは友達がやってくれるんだけどねぇ」
「よかったら揃えましょうか?」
「あらいいのぉ?」
「もちろんです!」
困っている人を見過ごせないのは、私の性ですね。
せっかく当たったのですから、楽しめるように祈りましょう。私は勝ちました、貴方も楽しめるように。
「えいっ」
余分な1回転を与えず、真横に777を揃える。
「あら〜ビッグねぇ、ありがとねお嬢ちゃん」
「貴方の幸運を祈ります。それでは!」
自分だけで噛み締めるのもいいですけど……やっぱり私、根っからのお人よしのようです。悪い人には簡単になれませんね。
「ん? なんか長かったな、迷った?」
「いえ、ちょっと幸運のお裾分けを」
「……? ま、いいや。飯奢ってもらうぜ〜」
「お腹いっぱいにしてあげます!」
ルドヴィカ=ヴァレンティ、+5500枚。
主義浪漫、−3000枚。
本日の実践終了です。
そして、焼肉を楽しむ私とロマンさん。いっぱい勝って、お腹いっぱいに満たされて、大満足でした。
しかし、私は知りませんでした。
幸運のお裾分けをした台が、8000枚出していたことを。
────金髪の女の子が7揃えてあげたら爆発したらしいぞ、と。
そう……『パチ屋の聖女』の噂は、ここから始まりました。




