第29話 聖女、ハイエナになる
「やって来ましたメガウラノス!」
「張り切ってるなぁ」
お昼までのあるばいとから、パチンコ屋さんへ移動です。
キャメロットやトライアングルとはまた別のお店で、今日も車で来たわけです。どこかの神様の名前から取っているそうです。
なんにせよ新しいお店に行くのって、ワクワクします。扉をくぐると早速大きな音が出迎えてくれました。
「さぁ奇跡も全開ですよ!」
「待て待て待て、スマスロには効果がなかったんだろ? 一旦止めとけ」
「何故です⁉︎」
「素の状態でもある程度はやり合えないとスマスロで勝つのは難しいもんだ。動画見せたろ?」
なるほど確かに。
前提の知識が不足していたのは否めません。
ぱそこんという情報端末で人の打っている様子を見せてくれた時、私の倍以上負けていた人もいました。どうやら負けている姿を映してもお金になるとかならないとか、不思議な世界です。
「スロットってのはな、ある程度回された後の方が当日の傾向が見えたりするんだよ」
「勝率とか、ですか?」
「そう。あと単純に、誰かの打った後の方がおいしかったりする」
そうしてロマンさんは私の前を歩いて行きます。慣れた道を進むように、キャメロットで打ったスマスロがある通路まで。
そこそこに人が座る列で、ロマンさんは立ち止まりました。
「まぁ確認しとくか……ルヴィ、聖眼で見てみな」
「はい!」
女神の聖眼を起動する。やっぱりだ、やっぱりピカピカに光っている台はある。狙い目はこの台だと。列の真ん中あたりにある台が反応した。
「ここなんてすごい反応していますよ!」
「なんかのイベント日だっけかな……まぁいいや、見かけに騙されるなってこった。ほれ、上見てみ」
台上部にある勝敗状況のグラフは右肩下がりのまっしぐら。見事な坂道を描いていました。惨敗した時の、私の戦績とそっくりです。
「そんな…………」
「結局ヒキだからな。今まで勝てたのは初心者特有の偶然も含まれてたんだよ」
それでも異常なヒキだけどな、とロマンさんは笑いました。
「んじゃあ、今日はこいつを打とうか」
「えぇっ⁉︎ こ、この調子の悪い台をですか?」
「タコ負けしてる台は出るんだよ。それに」
再びロマンさんが指を刺したのは台上部の画面。そこには現在500回転と示されていました。
「金が尽きたのか心折れたのか、中途半端なところで止まってる」
「燃え尽きてしまったのですね…………」
まるで──
まるで負けた私が、そこにいるような気がした。ほぼ全財産を使い尽くした、哀れな私が。
「天井目指すなら普通は3〜4万いるけど、半分打たれていて他の客に拾われてないのはラッキーだな。他人の打ったあとを狙う、そして勝つ。立派な作戦ってわけ」
「他の人の負けを踏み台になんて……」
「そこまで酷い事言ってないぞ⁉︎」
誰かが心折れた、倒れてしまったその身を踏み越えて行けと……聖女にあるまじき行為が求められている。他人を犠牲にして、他人の屍を踏み越えて行けと。
「なんかすげぇ誤解してるようだけど……発想の転換だ。他人が見落としたチャンスを拾うんだからな」
「チャンス……」
「もう少し打ってたらってな」
もしかしたら、あの日の負けた台を誰かが拾っているかもしれませんね。
「俗に言うハイエナってやつだ……本当はもっと厳密に勝率を考えて打つから、俺たちのやるのは真似事だけどな」
「はいえな」
動物だそうです。つまり私は、今からハイエナになるってことですね!
「わかりましたっ! ルドヴィカ=ヴァレンティ、今からハイエナになります!」
「あんまり大きな声で言わないでほしいなぁ」
出禁になるから、と言われて思わず両手で口を塞ぎました。
「店によってはハイエナ行為は禁止されてるからな、今日のはたまたまだ」
「じゃあ他の人が打っているのを隣や後ろで待ってたりはダメなんですか?」
「速攻で出禁だ……真顔でなんてこと思いつくんだ…………!」
どうやら罪深き行為のようです。私が考えるようなことは想定済みなのですねぇ。
「とにかく、勝つためには朝イチだけじゃないってことだ。天井前に当たれば儲けもん、天井に行ったら当たっても外れても即撤退、いいな?」
「分かりました!」
「…………バイト代、全部突っ込むなよ?」
「し、しません!」
「ホントに?」
「………………2回目の天井を目指すのは…………?」
「ダメに決まってるだろ、1回だけだ」
「神よ……」
「神に祈るな。神はヒキをくれない」
「なら、どうすれば…………」
先に着席したロマンさんは、両手を組んで祈ってみせた。
「自分に、だよ」




