第28話 金がないほどアツくなる
ルドヴィカのスマスロ惨敗から1週間が過ぎた。
「いらっしゃいませ!」
異世界少女は、今日も元気にアルバイト。ルドヴィカ効果か、いつもより客入りが良い。店全体のことも見えるようになって、最初のたどたどしさもすっかりなくなって……
「マリンさん、チャーハン3つです!」
「みんなチャーハン食べ過ぎぃ」
「黙って働け」
居候も増えてラーメン主義は平和でした……じゃなくて、肝心のスロットを打っていない。
ようやく休憩時間となりひと息。
1週間も無賃金労働させられてたまったものではない。労働に汗を流して満足そうなルドヴィカの前で、さすがにそれは言えないが。
「ふぅ〜今日もお客さんいっぱいですね!」
「もう何日もペン握ってない……」
「そろそろ編集から連絡くるか」
「マリンさんってなんのお仕事してるんですか?」
「夢と希望をペンに乗せる仕事」
「漫画家って言えよ」
「漫画ってなんですか?」
「絵で描くお話……みたいな」
真凛は連載中に逃亡を図る漫画家である。これでも売れる漫画を描くのだから編集も頭を抱えるわけだ。学生の間にデビューし、ウチでバイトをしている時も編集さんがやってきたものだ。
ちなみに現在は作者急病のため長期休載中。
決して中華鍋を払っているからではないぞ。
「へぇ……物語を」
「夢は自分の漫画のパチスロを打つことなんだよねぇ」
順風満帆……というにはだいぶ不思議な道を進んでいるが、夢に向かう真凛は昔からどこか羨ましかった。
それはそれとして締切ぶっちぎってスロット打ったりしていることは褒められたものではないが。
乙女二人のやりとりを見ていると、店の戸が開いた。スーツ姿のザ・社会人が申し訳なさそうに入ってきた。
「すみませ〜ん、こちらに真凛先生は……」
「あぁ、さっき電話した編集さんスね。先生はここに」
「うぇっ、浪漫くんいつのまに⁉︎」
「読者はいつまでも待ってくれねぇぞ」
「うわぁん、裏切り者ぉ〜!」
ささ、先生と編集者に連行され、臨時バイトのプリン頭は消えていった。まぁメシ食わせてたし文句言われる筋合いはなかろう。
「マリンさんはどんな物語を描くんですか?」
「……笑いあり涙ありの冒険譚」
あとで読んでみて貰えばいいか。スロットには作品知識も大事だしな。
「ルヴィちゃんお疲れ様〜」
「おばさま!」
今度は母さんが店に現れる。両手に肉まんを積んだ大皿と、封筒を持っていた。
「1週間バイトしてくれて助かったわ。はいこれお給料」
「ありがとうございますっ!」
ルドヴィカには事前に遠慮しないよう伝えていた。というか、スマスロの惨敗から復活するために働いているのだ。
『前職が何かは知らんが働いたら金は受け取るもんだ。じゃなきゃスロットもできねぇからな』
『わ……わかりましたっ』
ヒーラーっぽいから僧侶とかなら金関係に厳しいからなぁとも考えたが、杞憂だった。
封筒の中には5万。1週間働いて得た5万である。貴重な貴重な5万円。
「浪漫、ルヴィちゃん負けさせたら許さないからね」
「そこは打つなじゃないんかい」
あの父にしてこの母である。
やはり主義家というのはどこかおかしい。
「ロマンさん、行きましょう! 雪辱を果たしに!」
「待て待て待て! 金が手に入って熱くなってんぞ⁉︎」
「今度こそ勝つんですっ!」
早速冷静さを見失っている。
金がない時ほど熱くなるもんだが……素質があり過ぎて心配になるぞ。
「無策で突っ込んでも爆散するだけだぞ」
「そ、そうでした!」
こうして、ラーメン主義看板娘は再びスロット打ちとして復活した。
…………果たして5万でいつまでもつのか、それは俺にもわからない。




