第26話 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
キャメロットの外にあるベンチで、空を仰ぐ。来た時の青空はどんよりとした雲に覆われていて、ぽつぽつと雨が降り始めてきました。
「…………」
1枚もメダルが無くなった台からは、残金を示すカードも出ることはありませんでした。
茫然自失、生きる上での糧を失ってしまった。あのお金は、この世界で生きていくための大事な資金だったのに。
……大事な資金を溶かしている時、脳内は沸騰したように強烈な意識に満たされていた。それがどんな感情であれ、私は呑まれていたことを受け入れていた。
「ごめんなさい、ロマンさん」
あなたからもらったメダル、そこから始まった物語は終わってしまいました。残りは小銭が少々、スロット台に使うこともできません。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……
一度救われた命を、無駄にしてしまった。
もう負けないと決めたのに、報われようとしたのに、私は…………
不意に、頬に温かいものが触れる。
「ほい、ルヴィちゃん」
「マリンさん……」
私と同じく大敗を喫したマリンさんが、気を利かせて飲み物を買ってきてくれたみたいです。香ばしいお茶の味が、少し心を落ち着かせてくれました。
「あ、お代は……」
「いいっていいって! 連れ打ち提案して負けさせちゃった責任もあるしさぁ、ごめんねぇ?」
「いえ……マリンさんのせいでは」
提案を受け入れたのも自分だ。
断ることもできた、違う台に行くこともできた、別の道を辿ることもできたけれど、今日の負けを選んだのは他ならぬルドヴィカ=ヴァレンティなのです。
「ふふっ」
この世界に来てまで、馬鹿真面目な性根に笑ってしまった。失敗を人のせいにできれば、どれだけ気が楽なのでしょう。
「どこまで行っても、聖女としての考えは変わりませんね」
「セイジョ?」
「今となっては、大した価値もないことです」
民を救い、騎士を助け、国に安寧をもたらした。何かを救うことはできても、己を勝利に導くことはできない。
スロットは簡単だと思っていた。
甘かった……スロットは、私の想像を遥かに超えた相手でした。これまでの苛烈な戦いは、誰かが守ってくれていたから勝てただけのこと。
────救国の聖女は、スロットに負けたのです。
「これから……どうしたら」
やがて雨は勢いを増して、ロマンさんの家へ帰るに帰られなくなりました。まるで、私が戻ることを拒むように。
けれど……
ふと、見覚えのある車が目の前に停まりました。
「あれは……」
「ラーメン主義の車じゃん?」
土砂降りの雨を小走りですり抜けながら、あの人は私の前へやってきました。
「いやー悪いな、ハロワの手続きが行列で……って、真凛⁉︎」
「いよぉ、ロマンボーイ! なになに、ルヴィちゃんの知り合いって浪漫なの?」
「ロマンさん…………ッ」
今まで、男の人にしたことはなかった。
思わずロマンさんの胸に飛び込んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさいロマンさん!」
「え、ちょ何? 何なの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいロマンさん」
「おい真凛、お前ルヴィに何した」
「いやースマスロに誘ったらスっちゃいまして……にゃははは」
「ロマンさんごめんなさい……私、負けてしまいました」
「え?」
「全部、全部、全部、なくなっちゃいましたぁ……ぅぁっ────!!」
落胆か、失望か。
見上げた先にあった表情は……
「んだよ、そんなことかぁ。負けたならしゃーねーよ、ハッハッハ!」
さも当然のように、私の涙を笑い飛ばした。そして……青筋を立てながら、マリンさんへ笑顔を向けたのでした。
「真凛ちゃ〜ん? ちょっとお話しよっか?」




