第19話 海へ……(パチンコじゃないよ)
ルドヴィカが車でしばらく街を見たいというので適当にドライブすることにした。
「整備の行き届いた街ですね」
「この国じゃどこも大体こんなもんさ」
車窓越しに眺めるルヴィの瞳は、また元に戻っていた。今回は俺のポカで聖眼の出番はなかったが(元から使わせるつもりもないが)、新たに加護なる力を目の当たりにした。
正直、あれはヤバい。
親父に使った奇跡と似た系統なのだろうが……スロット台の状態を設定関係なく当たる、もしくは当たりやすくなるコンディションに持っていくものだろう。
激熱がなければ自ら熱くする……激熱化とでも言うべきか?
技術介入できるレベルかどうかを見極める機会にするどころか、とんでもない能力を見てしまった。これでもまだ全力でないとするなら、パチ屋を潰しかねん。
「ルヴィ」
「なんでしょうロマンさん?」
いや……暴利を貪るパチ屋の1軒2軒いいか。
「なんでもない」
「…………?」
ルドヴィカには話したくなったら話せばいいとカッコつけたが、実際のところかなり興味がある。
自分のいた世界からどう言う経緯で来たのか、果たして謎の脅威の襲来とかドキドキワクワクな展開はあるのかと。
「お店がいっぱい……」
「…………」
興味津々で街並みを眺める少女に、その質問をするのは憚られた。
「海でもいくか」
「海⁉︎」
「どうした急に」
食いつきの良さがハンパではない。助手席からちょっとはみ出てこちらに詰め寄る勢いである。
「い、いえ。海って行ったことがなくて」
「あー内地の生まれなのね」
ファンタジー世界で海がどんな位置づけなのかは知らんが、聞いたことあるだけだとこのリアクションにもなるか。
「この国って海に囲まれてるとこでね、割と馴染みのある場所なんだ」
「そうなんですね。私のいた国内にも海はあったんですけど、職務上なかなか離れられなくて」
「仕事漬けが大変なのはどこも同じだな」
俺無職だけど。
市内から隣接する市へ向かうこと十数分、昔からある海浜公園に到着した。
「これが……!」
俺にとって見慣れた海を、異世界の少女はただ呆然と眺める。
引いては帰る波の音も、鼻につく磯の匂いを全身で感じながら、ゆっくりと、ゆっくりと砂浜へ歩いていく。
「広いです、ね!」
「あの先もずっと続いてるってんだからホント広いよ。どうよ、初の海は」
「すごいですっ」
感極まったのか、ルドヴィカは履いていた靴を脱ぎ捨てて砂浜を軽く蹴るように踊ってみせる。
「サラサラの砂に、波の音。本に書いてあった通りでした」
「沖縄とかいくともっと綺麗な海らしいぜ」
「オキナワ?」
「南の方にあるとこだ。パチ屋の赤い花……ハイビスカスなんか有名だよ」
「あの花の産地ですか⁉︎ 行ってみたいですね……!」
両目がハイビスカスになってる奴初めてみた……目が輝いているといえば、そうなんだけど。
いかんな、海といえばパチ屋を連想してしまう。海っつっても、水着のギャルもいなけりゃブーメランパンツ履いた緑の兄ちゃんもいない。当たり前の話だけど。
「そういやアイツ元気にしてっかな……」
「あいつ?」
海で思い出した……ブラック企業に勤め始める前、学生の頃はたまに連れ打ちしていた女がいた。最近はめっきり連絡を取らなくなったが。
「パチ仲間……というか、昔馴染みだな」
「どんな方なんです?」
「破滅一直線のおかしな奴だよ。名前なんてパチ屋の申し子みたいな名前だしな」
「大丈夫なんですか、その方……」
「確か最後に会ったのはパチンコの遠征に行くとかで県外……そうそう、沖縄行くとか言ってそれっきりだな」
ちょうど社会人始めた頃だったか。
入社当初から深夜まで働かされて他人のこと考えてる余裕がなくなったんだよな。
「遠方まで打ちに行くんですか⁉︎」
「あぁ、それこそパチ旅行なんてする人もいるしな」
「パチ旅行…………いいですね」
足で波を受けながら、ルドヴィカは呟く。
その目が見る遠い果てにあるのは沖縄ではなく太平洋だが、そんなことは今どうでもいいわけで。
「金貯まったら行ってみるのもありだな」
「ふふっ、ひとつ夢ができました」
「んじゃもっと大勝ちしないとな」
「任せてください!」
万が一ルドヴィカとあいつが会ったら確実にめんどくさいことになるけど……まぁ、この街に帰ってきてるわけないよな。




