第15話 入場抽選で寝坊はギルティ
夕食を終え、明日のことについて軽く話してルドヴィカは休ませることにした。
手刀で虫を切る聖職者なんて見たことねーよと思ったのが先ほどのこと。あれだ、僧侶っつうかモンクの部類だったのかもしれない。
『失礼しました。私、ミサ帝国国防担当のルドヴィカ=ヴァレンティと申します』
……なんで聖職者が国防を担う。国防担う奴がなんで前衛職じみた手捌きを見せる。
謎だらけである。
ひょっとしてあれか、ルドヴィカの世界は修羅の国なのか。全員何らかの暗殺拳でも使えるのだろうか。
「そんな作品があったようななかったような」
気づけばウェブ小説サイトを開いて異世界とヒーラーと暗殺拳で検索していた。
◇ ◇ ◇
「……ん…………さんっ」
「んぁ……? もう仕事はやめたよ」
「ロマンさん!」
「……ぁえ?」
万年床で目覚めると、現代の服で着飾った異世界少女が見下ろしていた。枕元のスマホの充電はほぼ0%、目覚まし時計の時刻は9時半、開店済み、導き出される結論は、
────寝坊。
「ギルティ〜〜〜」
「わぁっ⁉︎」
主義浪漫、無職生活初の寝坊でした。
抽選時間はとっくに過ぎている。であれば、ゆっくり朝支度をして仕込み中の親父を尻目にパチ屋へ赴くのが無職ってもんよ。
6枚切りの食パンに味噌汁、卵焼き。
母さん米炊くの忘れてたんだな…………
「ラーメン屋の朝飯がトーストってどうなのかねぇ」
「…………」
先に朝食を済ませたルドヴィカはそわそわと室内を見渡したりテレビを見たりとせわしない。
「景気のいいニュースはないもんか」
「…………」
今度は食パンをそのまま齧る。生食感、いいよね……
「また値上げか……パチ屋の玉も値上げは」
「うぅ……ロマンさん、激熱が逃げちゃいます!」
「はぇ?」
痺れを切らしたのか、ルドヴィカは俺に迫った。どうだろう諸君、異世界からやってきた少女が『激熱が逃げる』などと言うこのシチュエーション。目が『7』になってる。
「そうは言ってもね、もう入場前の抽選に寝坊しちゃったから」
「だったら! 一瞬でも早くぱちやさんに行くのが正解なのでは⁉︎」
「おおおおおおちつけぇ」
脳が揺れるぅ。
線の細い印象だったが、マッチョに揺らされているかの如く体はブレる。
「わわっ、ごめんなさい」
「いや俺こそ申し訳ない。昨日ルヴィのことずっと考えてたら夜更かししちゃってな」
「え…………⁉︎」
脳筋聖女だのゴリラ聖女だの拳で語るヒーラーだのいろんな作品があったもんだ。どれも面白いからつい読んでしまった。
「わ、わたしは神に仕える身なので……っ!」
「そう……」
そんな神に仕える者もスロットには抗えない。つーわけで朝支度完了! 午前10時、今日は店の車を借りて移動だ。
「馬車より揺れないんですね」
「技術の結晶ってやつだ」
近所のキャメロットではない。市外付近に位置するこれまたデカいパチ屋へ赴いた。青の三角形のマークが見えてきた。
全国250店舗を超える超大手パチンコ企業、『トライアングル』である。近隣数十店舗のキャメロットと比べると比較にならない。
「おっきい…………」
「距離的に歩いて来れないから怠いんだよなぁ」
負けた日にハンドルを握ると運転も荒れる。というかこのパチ屋を出入りする車、全員運転が荒い。県民性と捉えるべきか、打ち手の性格がカスなのか。
「激熱がここに」
「特定の日付がアツいんだけどな、それが今日なんだ」
車を停めて店内へ入る。抽選組はもちろん入店済み、一般入場というやつだ。
店内はすでに熱気が充満していた。耳を圧倒するBGMに、どこからもなく聞こえる『キュイン』というパトランプの音。これを聞くだけで脳内の血流は活性化される。
どうやら奇跡の少女も同じようで。
既に両目を金色に、女神の聖眼を輝かせていた。
「すごい……どのスロットもピカピカしてます……!」
「アツい日だからな」
しかし────
「みんな座られちゃってますね……」
ハイビスカスの輝く台は、すべて座られてしまっていた。




