第14話 当たりに囚われた乙女
お買い物から帰ってきて、ひとまず部屋でひとやすみ。スロットでの聖眼はそこまでだけど、この世界を色々見てちょっぴり疲れちゃいました。
「すごいなぁ……この世界」
技術は発達してて、飢えている人を見かけない(この国にいないだけかもしれないけど)。むしろ食べ物もあって、娯楽も充実している。しかしなにより────
あのハナの赤い光が、頭から離れない。
目を閉じると脳裏に『ボーナス』中に流れた音楽と、あのチカチカ点滅する光源が忘れられない。
「うぅ〜打ちたい…………!」
初めての感覚。
祈りに集中することや、鍛錬で精神を研ぎ澄ませることはあったけれど、スロットは別。血の流れない、そして目に見える勝利は快感。気づけば虚空のボタンを押していた。
「あ」
なんて煩悩に塗れたことかとちょっぴり恥じたけれど、考えてみれば恥じる必要などない。楽しいと思ったことを、純粋に楽しいと思ってお小言を言われる筋合いもないのですから!
「そう……私はただのルドヴィカなんだ」
誰かを救うなんてこと、私は…………
見慣れない天井をぼうっと見ていると、扉が乱暴にノックされた。
「ルヴィ、また親父が腰やらかしちまった! 奇跡使ってくれないか⁉︎」
「は、はいっ!」
どうやらおじさまは、食材の入った箱を持ち上げようとして腰を痛めたようでした。
「いやー悪いねルヴィちゃん!」
「この人ったらもう、ありがとねぇルヴィちゃん」
「い、いえいえ! これくらいいつでも頼ってください」
やっぱり頼られたら思わず動いちゃいますね。癖は抜けない……けど、気分は良いです。
「あ、そうだルヴィ。明日行くパチ屋のことなんだが……ん?」
ぶぅ〜ん、と砂粒のような黒いものが視界を過ぎる。この世界にも羽虫はちゃんといるらしい。
「まだ夏は先だってのにィ」
「蚊取り線香あったかしら」
かとりせんこう? を探しに2人とも消えていく…………どうしておじさまもおばさまも早く捕まえないんだろう?
「鬱陶しいなぁ……で、ルヴィ。明日のパチ屋はキャメロットじゃなくて──」
「──主よ、お許しください」
ロマンさんの顔面に虫が近寄った瞬間、中指と人差し指で虫を切る。
「いっ⁉︎」
「……罪なき命を奪うことを」
虫は真っ二つに両断され、床に力なく落ちた。毒や病をもっていてたら大事ですからね、早めの処理も必要です。最後に祈りましょう。
「ふぅ……毎度心が痛みます」
「しゅ…………手刀…………ッ⁉︎」
「叩くと手に体液が付いたりしますからね、ちょっとした知恵です」
「だからって蚊を指で切断する人間はいないぞ……?」
もしかして私、なにかやってしまいましたか?
「いや、でもこれは…………」
「ロマンさん?」
虫をティッシュで包んで捨てながら、ロマンさんがぶつぶつと呟いた。
「ルヴィ、動いているものを追視するのって得意か?」
「え? まぁ、人並みには、ですかね」
飛んでくる矢を掴めないと、聖女は務まりませんでしたからね! 動くものを目で捉えるのは鍛錬したものです。
「ふむ……一考の余地ありだな」
「何か作戦でも?」
「あぁ……明日はキャメロットじゃなくて別の店にいく。昼に話してたアツい日って奴だ」
「激熱ですね⁉︎」
「開店前に行かないと良い台すら座れないからな。今日はきっちり休んでくれ」
「わかりました!」
激熱、楽しみです……!




