第13話 砕け散った男、激熱の少女
パチ屋に通う前は、本屋に通うことが多かった。漫画、小説、創作物を読むのが好きだったし、自分で書くようになっていた。
少年少女の物語……現代伝奇にラブコメSF、異世界ファンタジーになんちゃってホラーやミステリーも書いたっけな。公募にも出して選考を通ることもあった。
…………結果として、プロにはなれなかったのだが。
自分の書きたいものと出版社の求めるものが違っていたって話だ…………何年もその勘違いに気づかず、働くようになって時間が取れずに優先順位が下がっていった……そして今に至る。学生自分に見た夢は砕け散ったのだ。
分かっていてもつい本屋に立ち寄ってしまった。別に後ろめたいことでもないんだけどな。今でもいろんな本は読んでるし。今は今で楽しいし、なにより────
「これもおいしいでふ」
フードコートでハンバーガーを頬張る少女は、そんなことなど露知らず。久々に見た小麦の物体に表情を緩めていた。
「パンを見るとホッとしちゃいます」
「そっちでもパンなんだな」
……くだらない感傷に浸っていても、異世界とのズレに気づくものだ。なんで言語が通じているのかもよくわからん。これも奇跡なのかもな。
それよか今後についてきっちり作戦を立てねばなるまい。ルドヴィカの能力の片鱗が見えたのだから、立ち回りは大きく異なる。
「ルヴィ、奇跡って1度しか使えないとかないよな?」
「んぇ? はい、使いすぎると一時的に使えなくなりますけど、今日くらいの時間ならこの食事の後にでもすぐ使えますよ。でもどうしてそんなことを?」
「確認だ。後で知らなかったってのは笑えないからな」
体力を使うってことなのか。
奇跡により安定した勝ちが出来るのはいいことだが、決して良いことだけではない。なぜなら打ち手の勝ちは店の負け。確実な負けを与えてくるプレイヤーにはペナルティが待っている。
要するに出入り禁止である。
「遊びに来るお客さんを門前払いするんですかっ⁉︎」
「そりゃ全然負けずに金掻っ攫って行く奴は客じゃないからな。店が欲しいのは遠慮なく金を突っ込む奴なんだし」
「……あれ? お金を交換してくれるのはぱちやさんの隣の建物ですよね? 無関係のはずじゃ……」
「無関係! 無関係! そう無関係だけどね、交換所もいっぱい景品持ってこられるとお金無くなるから困っちゃうワケ」
「なるほど! 需要と供給ですね!」
違うけど否定するのもよくないから適当に笑っておこう。
「そうならないためにも、ひとつの店にずっと通うより、いろんな店を巡ってアツい日を狙うとかだな」
「ぱちやさんは涼しいと思いますけど……?」
「おぉ……」
なんという期待通りの反応。
異世界人も一般人も知らなくて当たり前な『アツい』『激熱』……他の界隈でも耳にするが、温度の話じゃない。熱狂的な状態……とでも言うのか、はて……日本語すらままならん相手にどう言ったものか。
「なんというか…………興奮するとか、大当たりしまくって勝てる! とか、すごく期待できる、ワクワクするって意味合いだよ」
「激熱……期待、勝てる…………激、熱」
意味を教えると、ルドヴィカは反芻するように『激熱』と言葉を繰り返し、笑った。
「不思議な言葉です…………げきあつ……アツい……ふふ、ちょっと私みたいですね」
「は?」
「あー、いえ! 昔のことを思い出して。えへへ……激熱、気に入っちゃいました」
…………激熱とルドヴィカに何の関係があるんだ? 火属性でもあるまいに。奇跡に火を起こす技でもあるのかな。
「ともかく、何もない日は女神の聖眼で立ち回って稼ぐのと、特定の──イベント日には稼いだ分でまた稼ぐってのが大事なのよ」
「大変なんですねぇ」
「それをやろうとしてるのがルヴィなんだからな……?」
「頑張ります!」
────なにより、
『事実は小説よりも奇なり』を目の当たりにしているこの状況が面白すぎる。
この状況こそ、夢の詰まった非日常。砕け散っても欠片は残ってるからな。




