第12話 ロマンと浪漫
聖眼の反動は思ったよりなくて安心した。
両目は特に痛みや見え方に影響はなさそうです。身体自体が処刑よりずっと前の状態になっているのかも?
それはともかく、速やかに交換を済ませて、私とロマンさんは電車という乗り物に乗って移動しました。
「お、おぉ……!」
「あんたの世界にも馬車とかあるだろ」
「ここまで大人数を運ぶ乗り物はないですよ! 貧富の差も関係ないなんて……」
車輪のついた巨大な箱が敷かれた道に沿って走っている。恐らく上の線から動力を供給されているのだろう。ロマンさんの口ぶりでは、特段珍しいものじゃないみたい。
「むしろ金持ってるやつは車乗るんだよ。ほら、パチ屋に並んでたあれ」
「じゃあぱちやさんに来る人はみんなお金持ちなんですね!」
「あー……うん、ソウネ」
良い世界に来たものです。
あれ? だったらなぜロマンさんは車がないのでしょう?
目的地に到着すると、またまた驚きで声が出てしまいました。
「おぉ……!」
ぱちやさんの何倍も大きな四角形。
そして大量の車が並ぶ外周。もしかして……この国のお城⁉︎
「違うから。店がいっぱい入ってる店」
「市場みたいなものでしょうか?」
「似たようなもんだな。さて、せっかくスロットで勝ったんだから使わないとな。とりあえずジャージと修道服だけじゃ着回しできないだろ」
「私のためにわざわざそこまで……!」
「就活用のシャツとか俺も買わないとだしなー」
……どうやらロマンさんも用事があったみたいでした。
店内に入ると、外よりも明るい光が一面を照らしていました。床のタイルに反射して、とても眩しいくらい。
「でもロマンさん、服を買ったらお金がなくなっちゃいますよ?」
「またスロットで勝てばいいだろ?」
「あ」
どうして気づかなかったんだろう。
使った分はスロットで稼げばいいんだ! すごい、働かなくても……じゃなくて、スロットで生活できるなんて!
「ま、それが安定してできるのはルドヴィカくらいだろうけどな、ハハハ」
「どういうことです?」
「そのうちわかる」
その時のロマンさんは、どこか遠い目をしていました。
店内を散策しながら、ロマンさんのすすめでお手柄価格らしい服を買いつつ、別でジャージも揃えちゃいました。
「おま……ジャージ買うのか」
「借りてばかりではよくありませんので!」
黒い線の入った白いジャージです!
戦装束は大事ですからね、いつ死ぬかもわかりませんし!
「こちらに来てから本当に驚くばかりです」
「そりゃ魔法だ奇跡だの世界から来ればな……」
ふと、ロマンさんの足が止まる。
通りがかりのお店……棚にぎっしり本が並べられた…………
「本屋さん?」
「………………ちょっと寄っていいか?」
「あ、はい。どうぞ」
静かにロマンさんは店内の奥へ進んでいく。実物の建物のような絵や、食べ物の絵が描かれた本(本にしては薄いような……?)には興味も示さず、とある置き場でロマンさんは足を止めた。
人物絵……だけど、ずいぶん不思議な絵。
そう、今日ちらっと見た『すますろ』に映っていた絵と似てる。『あにめ』というらしいです。
「あの、ロマンさんこのあたりの本は何について書いてあるんですか?」
「何っていうか、ラノ────娯楽小説」
ロマンさんは静かに言葉を返した。
「架空の世界を書いた楽しい物語……ルドヴィカの世界になかったか? 恋物語とか」
「こっ────⁉︎」
そういえば、市井ではそういう物語が流行っていたとか聞いたことはありますけど……『淫らなものは禁制!』って言われて知る機会がなかったんですよね…………べ、べつに破廉恥に興味があるとかそういうのではなく!
「どした?」
「いえっ、べつに! ロマンさんはこういった本が好きなんですか?」
会話の中の、ちょっとした質問だった。
パラパラと本をめくりながら、ロマンさんは小さく笑う。
「あぁ……好きだったよ。書いてたし」
「じゃ、じゃあロマンさんの本もここに⁉︎」
「いやいや、店先に並ぶ本にはなってないよ。ここに並ぶには面白い作品書いて選ばれて……勝たなきゃいけないからな。んじゃ、昼飯でも食っていくか」
「そうですね」
静かに本を置くと、ロマンさんは来た道を戻っていく。ロマンさん……笑っていましたけど、どこか乾いた笑い方でした。
私にできることは、何かないでしょうか。




