第11話 聖女とカニ歩き
当話から『コイン』を『メダル』に表記を変更しております。
最初の台を離れ、次なる『ピカピカしている台』に移る。まだ開店間もない時間帯、まばらに着席しているだけのスロット台は宝の山ということだ。
「この台と、一つ離れたその台ですね!」
「よっしゃ、今度こそビッグお願いします」
片手に残ったメダル投入。開始5回転目にしてハイビスカスは赤く煌めく。そして並ぶはスリーセブン。
「Foo〜!」
「私も当たりました!」
もちろん仕込みなし、異常な早当たりだ。しかも2人ほぼ同時。疑っていなかったが、これはもう本物で間違いない。
ドル箱の底をメダルで埋めて大当たりは終わる。
「また光が消えました……」
「次行くぞ次ぃ!」
台から台へ、次々にスロット台を渡り歩くカニ歩き。だがこれはただのカニ歩きではない……本物のカニ歩きだ!
ルヴィが見つけて2人で打つ。
繰り返すこと10回。まばらに人が座り始めた頃には、ある程度狩り尽くしてしまった。
「箱いっぱいです!」
「盛り方……うまくなったな!」
昨日の今日でドル箱へのメダルの詰め方が上手くなっている。レギュラーボーナスこそ1回引いたものの、他全てビッグボーナスを引く運の良さはルドヴィカ本人のヒキというものである。
さて、ハイビスカス狩りもひと段落だ。
ドル箱を抱えて歩いていると、ルドヴィカの足が止まる。
「ロマンさん、あっちのスロットはお家のてれびみたいな絵が流れてますよ」
「ん? あー」
昨日今日打っていたスロットとは異なる、液晶付きのスロット台にはそこそこ打ち手が座っていた。
俺たちのようにドル箱すら要らない、スロット最前線の機種達である。
「あれは……まだ打たない方がいい」
「どうしてです?」
「その綺麗なお目目でよーく見てみな」
「綺麗だなんて……!」
「聖眼で見ろってこと!」
ルヴィを身体ごと向けてやると、沈黙した。それもそのはず。
「ピカピカがないです、ね……」
「今日は平日だしな」
現代ノーマルスロットに対する、メダルレススロット、スマートスロットだ。ここでは敢えて詳細を省略するが、一言で表すなら────
『出る時はめちゃめちゃ出る、出ない時はケツの毛まで毟られる』
勝利と敗北が表裏一体……は言い過ぎだな、勝利2、敗北8くらいの荒馬だ。企業戦士時代にストレス解消を求めて打った結果、財布の中身が消し飛んだ懐かしい。今でもたまに打つけど。
「すますろ……」
「良い台を見つける奇跡だけでどうにかなる相手じゃない。昨日今日の勝ち分が吹き飛ぶぞ」
「そ、それは悲しいです!」
「戦う必要のない相手に無理に挑まなくてもいいってことさ。ま、ルドヴィカの財布に入ってるおじさんが10人は要るかな」
「じゅ⁉︎」
──嘘は言っていない。
一撃で1万枚も夢ではないが、それこそ奇跡である。奇跡も魔法もない俺には、今挑む力はない。
「財宝目当てに竜の討伐に向かったら返り討ちに遭うようなものでしょうか」
「ん〜……多分そんなもん」
知らんけど。
とにかく、異世界から来てすぐに打つべきシロモノではないのだ。台の調子が、設定が良かろうとも、奴らは悪戯に牙を向く。牙をへし折って飼い慣らすくらいのヒキがなければ、食われるのはこちらである。
「せっかく勝ったんだからこの世界を見回ったらいいんじゃないか? いつまでもジャージじゃ味気ないだろ」
「そうですか? 気に入ったんですけど……」
……いかん、このままじゃスロットを打ち込むだけの異世界ジャージ少女爆誕だ。
「今日のスロットはここまで! キラキラお目目も終了な」
「了解です!」
金色の瞳は引いてゆく。なんとも凄まじい奇跡であった。
……つーか、『女神の聖眼』だけ使ってれば負けないんじゃねーか?
やっぱりなんか条件あるよな、絶対。




