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異世界に転移したので今度は魔獣保護官として生きていく  作者: オツタロ
1章 新生活

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第14話 夜の森

ケンスケさんを追って森に入ったところまでは想定通りだった。

ケンスケさんを創るときにもしものために人体にいくつかの細工をしておいた。

その一つが働いて彼がどこにいても居場所が手に取るようにわかる。


しかし森に入った瞬間にその反応が消えた。

まだ心拍は続いていたはず。

死んだら死んだでそれ専用の反応がでるのにそれがでない。

神隠しでも遭ったような、そんな途切れ方だった。


「お嬢、これ以上進むのは危険です。

夜の森は危険が多すぎる。」

ゴリラの体格の男が彼女に話しかける。

体格は大きくボディガードと言っても遜色(そんしょく)はない。


「黙ってなさい、エルウッド。

彼はこの森にいます。

今しがたその反応が消えました。

何かが彼の身に起きたのです。」


エルウッドと呼ばれたその獣人は保護区の警備を担当する会社の社長である。

マエダの会社の社長で彼が逃げるのをお嬢エルミナの指示に従って手を出さなかったその人である。

その彼が焦っていた。

夜の森は肉食獣のテリトリーだ。

魔法使いと獣人の組み合わせでも危険性が高すぎると判断した。


「ここは危険です。応援を呼びましょう。」


エルミナはエルウッドの忠告を聞かずに森の奥に進んでいった。

エルウッドは車に積んであったヘルメットを被っているがエルミナは懐中電灯以外何も持っていない。

魔法でどうにかしようと言うのだろうか。それはあまりにも無謀なことだった。


「お嬢の能力では魔獣はおろか肉食獣にすら勝てません。」

突然消えた反応に焦ってしまい冷静な判断ができないでいた。


もっと細切れに話すべきだった。どうして一気に話してしまったのだろう。

あの人が目の前で私の話を聞いてくれていると思うとすべて話し終わるまで止まらなかった。

ケンスケさんが逃げてしまったのは驚いたけど発信魔法の印を体内に埋め込んでいるからと油断していた。

記憶を植え付ける際に発信魔法を組み込んだと油断していた。

発信の信号そのものが消えてしまうことを想定していなかった。


その時藪の中から眼光が見えた瞬間、黒いものが飛び出した。

悲鳴を上げる暇も防御姿勢を取る暇もなかった。

エルミナの体が吹っ飛ばされた。

吹っ飛ばされたショックで目をつぶってしまった。

目を開けるとエルウッドが自分に覆いかぶさるような姿勢になっていた。

「お嬢、大丈夫ですか。」

エルウッドはすぐに体勢を立て直しエルミナを守るように相手に構えた。

エルミナの前に大きな背中がある。そこにはかぎ爪で裂かれた傷がついていた。


エルウッドが睨みつける先を見る。

そこには熊のような体格の動物が3匹いる。

「魔獣ナイトベアです。

夜行性で熊なのに群れを作って行動します。

こいつらは体格が小さいので群れから離れたばかりの若造でしょう。

でもこれが危険なんです。

今までは群れで狩りをしていたのでその方法に慣れていたんですが3匹ともなると狩りするのも一苦労です。

空腹状態の彼らは非常に危険です。これはもう逃げられないです。」


説明を聞いている間エルミナはエルウッドに治癒魔法を施していた。

「私の治癒魔法は初歩的なものです。勝てそうですか。」

「1対1で互角です。3対1ならまず無理でしょう。

お嬢だけでも逃げてください。それくらいの時間は稼ぎます。」

「私の得意な分野ではないけれどあなたを強化することはできるわ。

炎攻撃とかできればよかったのだけれどそっち方面は習得できないのよ。

私の魔法で脳のリミッターを外してあげる、これで力は倍増になるし痛みも感じないわ。」

「ありがとうございます。」

エルウッドの背中に手を置くと詠唱を始めた。


魔法はイメージの力で発現する。

大気中にあるエーテルを体内に取り込みそれを魔法の燃料としている。

今エルミナの手を通してエルウッドの体内に魔法が流れた。

エルウッドは今までに感じたことがない高揚感に包まれた。


エルウッドは雄たけびを上げ正面にいるナイトベアの顔面にこぶしの一撃を加えた。

体格は互角、きれいに決まったその一撃で正面のナイトベアは倒れる。

咄嗟に左右の2匹が強靭な顎と爪で襲い掛かった。

痛みを感じないエルウッドはそれにも怯まず攻撃を加えていった。


エルミナはサポートとして魔法でフラッシュを焚いたりするが役に立っていない。

初めての戦闘で彼女もどうしてよいかわからなかった。

彼女の得意魔法は精神魔法である、エルウッドに施したような脳のリミッターを外したりすることはできるが基本的には戦闘向きではない。

脳の構造が人間と異なる動物相手では囮くらいしか役に立てることがなかった。


「お嬢、これ以上は持ちません。逃げてください。」

「逃げるならあなたも一緒よ。」

「無理な相談です。俺が彼らのエサになれば彼らも満足するでしょう。」


エルウッドとは魔法復権派の組織で出会った。

魔法復権派は組織として大きい故に内部にいろんな勢力が存在している。

エルウッドとエルミナは穏健派に属していた。

エルミナは自らの大願の為恋人の素体となる肉体を探していた。

その手伝いをしたのがエルウッドだった。

彼の他の保護区の関係者とのパイプを利用し国境を越えて素体探しを手伝ってくれた。

そしてケンスケが目を覚ましてからは近くに居られるようにと自分の会社に雇ってもくれている。

エルウッドは初対面のころからエルミナのことをお嬢と呼んでいる。

茶化さず自然体な響きで呼ぶその名を彼女は嫌いではなかった。


とうとうエルウッドの体力が限界を迎えようとしていた。

すでに片目は開いておらず左腕もだらりと垂れ下がっていた。

左腕を切り落とし彼らに与えれば逃げられるかと思ったが相手は3体、腕一本で満足するとは思えなかった。

人間相手の戦いなら問題なく勝てていただろうが野生の下では勝つのは難しかった。

じりじりと距離を詰められとうとう背中にエルミナの気配を察するほどまで追い詰められた。

せめて彼女よりは先に死にたいと、彼女が捕食される姿を見るのだけは勘弁願いたいと思っていた。

最後に一撃で正面の魔獣を殴るか。

最後の力で彼女を力の限り遠くまで投げるか。

悩んでいる時間はないと思っていた。

その時エルミナが叫んだ。


「来た!」

その瞬間エルウッドの横にどさりという音とともに何かが降ってきた。

「いてて・・・」

そこにはしりもちをついているマエダ ケンスケがいた。

「ケンスケさん立って!」

そう言ってエルミナはケンスケの腕を掴み思いっきり引っ張った。

「あれ?エルミナ?それに社長?」

「マエダくん、いいところに来たね、お嬢を連れて逃げてくれ。

ここは俺が引き受ける。」

覚悟が決まった顔でエルウッドが言う。

「逃げる必要はないわ。これでこちらの勝ちよ。」

そう言ってケンスケを前に押し出した。エルミナはその背中に隠れている。

「さぁケンスケさん、突然でごめんなさい。今からあなたの体に大量の魔力を送るわ。それをあいつらにぶつけてちょうだい。」

「魔力をぶつける?どうやって?」

「大砲のイメージで問題ありません。腕を前に出してそこからぶっ放してください。」

「大砲って言われても・・・」

「いいから早く!」

言われるがままに手を前に突き出す。

すると彼の体が内部から光り出した。

「魔力が手に移動してない。そのままだと体が破裂します。早く手に移動させてください。

イメージです。魔法はイメージなのです。」

彼は目をつぶり必死にイメージした。

目の前には怪我をしている魔獣がいる。

ナイトベアという夜行性で群れを作って生活する熊の魔獣である。

はっきり言って怖い。

研修用に渡された資料の中でしか見たことがない魔獣が今3体も目の前にいる。

恐怖が彼を動かした叫びとともに手に宿った魔力を魔獣に向かって撃ち放った。


放射は真っ直ぐな軌跡を描いて範囲にあった木々を薙ぎ払った。

初めての放射であったので照準が定まらず魔獣には当たらなかったが魔獣たちは慌てて逃げて行った。

魔獣たちが逃げた後、エルウッドとエルミナ、マエダの三人はその場でへたりと座り込んだ。

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