第13話 老人の欲
話を聞き終えると老人は高らかに笑い出した。
「笑うところなかったでしょ、これは深刻な問題ですよ!」
なぜ笑っているのか理解できず大声を出す。
「いやー、当人を前にして失礼しつれい。
これほど威勢の良い魔法使いがまだこの世にいたとは驚いた。
太古の昔でさえそこまでやるやつはいなかった。
いやー長生きしてみるもんじゃな。」
最初仙人と見間違える風格であったのが今ではどく普通にいるような存在に見えていた。
「ふうむ。単に他人の体に記憶を植え付けられたというだけではないか。」
「それが問題ですよ。」
「話を聞くかぎり元の体の人格にも許可を取っておるから問題ないだろ?
何が不満なんじゃ?」
「いやいやすべて問題ですよ。魔法使いの倫理感はどうなっているんですか?」
この老人と言いエルと言い頭のねじが外れている。
「魔法を探求しようとするものは狂ってないとできんわな。
彼女さんはおぬしを蘇らせたかった。
女の魔法使いは愛に狂うという。このような魔法使いのことを魔女と呼んだものだ。」
老人はしばし黙り、そして口を開いた。
「マエダ君、君はこいつらにどうなってほしいんじゃ?」
「それは・・・きちんと法で裁かれるべきだと思います、裁判を行って刑務所に入ってということが正しいと思います。」
自分で言っていて歯切れが悪かった。
「それで満足するんじゃな。
死刑になってもいいんじゃな。」
「死刑はやりすぎかな。刑務所で反省してくれたら・・・」
本当にそうなのだろうか。
私はエルに何を望んでいるのだろうか。
「わしの知っている裁判というのは死刑か奴隷か財産没収かくらいしかなかったの。
死刑の種類は多かった。ありとあらゆる死の方法が用意されておった。
まぁ貴族の機嫌を損ねれば死刑じゃ。ついでにその家族もな。」
「ついでで関係ない人も罰せられるのはおかしいでしょ。」
「そういう法律なのだからおかしくないだろう。
おぬしは自分が持っておる常識が他のすべての人間が持っているそれと同じとなぜ言い切れる。
強いものが法律を作る。自然の摂理じゃ。」
老人の顔は昔の俗世のことを思い出したのか段々と欲望なようなものが表情に現れているようだった。
「おぬしの常識では彼女のしたことは許されないという。
それなのに死刑も嫌だと言う。
人格とお主、被害者は2人。死刑にしても問題なかろう。
儂の知っている世界では間違いなくそうなるだろうな。」
老人は白髭を撫でている。
「私は彼女に死んでほしくはありません。罰を受けてほしいのです。」
「ほーそれは残念じゃ。」
「残念?」
「こいつらはもうじき死ぬ。それでハッピーエンドで閉めようと思っておったのに。」
「こいつら?エルと誰のことですか?」
老人はニヤリとあくどく笑った。
「ここは魔獣保護区であり野生動物がたくさんおる。
その子らが罰を与えてくれるというのだ。結果死んでしまうかもしれんな。
それはこんな夜の森に十分な準備をせずに入ってきたのが悪い。
動物に常識があるかわからんがね。」
「エルが森に来ているのですか。
今どうなっているんですか。」
老人の口調からは決して平穏なことになっていないのは明白だ。
この人は楽しんでいる。
老人の中にある嗜虐心が奮い立っている。
老人は「ほれっ」とつぶやき手に持つ杖から光る球を出した。
その球はふらふらと進み唐突に四角に広がった。
枠の内部には夜の森が映し出されている。
彼女と社長が血を流して野獣と戦っている姿がそこにあった。
「見やすいように暗視機能付きの映像じゃ。見やすいだろう。
おぬしが話している間から戦っておるがそろそろ限界じゃな。
もうじき彼らの胃袋に入る。」
「待ってください。
彼女を助けてください!」
「なぜじゃ?
おぬしはこやつらが罰を受けるのを望んでいたではないか。」
「このままでは死んでしまいます。」
「それがどうした?」
老人の長い眉毛の隙間から眼光が覗いていた。
「こやつらは死刑相当の罪を犯したのだろう。何が不満なんじゃ?」
老人はどこか満足そうな表情をしている様に見える。
この映像を見て喜んでいる。
「・・・助けてください。
彼女を助けてください。」
「いやじゃ。」
「どうして!」
「この子らは最近飯を食って居らぬのじゃ。
群れから独立したはいいが狩りがうまくいっていない。
そんな中やっと自分らでも狩れる獲物にありつけたのだ。
人は食われてはならぬと言う法律があるのか。」
老人は高らかに笑っていた。
思い違いをしていた。
この老人は俗世の欲望が枯れてしまった隠者や仙人などではない。
自分が安全圏から眺めることができる立場になってただ神にような気分になっているだけだ。
きっとここでそうやって眺めるだけで永く、とても長い時間を過ごしてきたのだろう。
この狭い空間でたまりに溜まった欲望をそうやって発散させてきたんだ。
この老人もエルとは別の意味で狂っている。
「ここから出してくれ!
私を・・・ここから出せ!」
老人はにんまりと悪い顔で笑った。
「いやじゃ。」
「このクソじじい!」
老人に向かって走り出した。数秒ともかからず体を掴めるはず!
ヒュン
と風を切るような音がしたと思ったら視界が暗転した。
老人が石を投げた。魔法の力で風をも斬る加速をつけた石が頭にあたった。
当たった瞬間頭蓋骨が凹んだような、そんな気がした。
そんな思考もすぐに終わり私の意識は落ちた。




