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異世界に転移したので今度は魔獣保護官として生きていく  作者: オツタロ
1章 新生活

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第12話 逃避

突然車体が宙に浮いた。

そのショックで体が座席から離れハンドルの操作を誤った。

車体は横転し私は天井や窓に体をぶつけた。

投げ出されこそしなかったが体中が痛く出血もしてしまった。

どうにか車体から這い出ることができた。

幸い骨は折れていなかった。


スマホのライトを照らしあたりを確認する。

車が岩に乗り上げてしまったのが原因のようだ。

これほどの事故で多少の出血だけで済んだのは運がよかったのだろう。

頭から血が出て痛み出していた。

ここはどこだろうか。

昼間ならわかったかもしれない。

何十回と保護区内をパトロールしているのに夜だとまったくまったくわからなかった。

このままでは危険だ。入社初日の先輩から受けた研修を思い出す。

”肉食獣は血の匂いを追ってくる”と。

今は平原にいる。格好の獲物になってしまっている。

それに彼女と社長も追いかけてきているだろう。

いや、社員総出か彼女が所属する組織総出で追っているかもしれない。

私は数十メートル先にあった森の中に逃げることにした。


森の中は闇だった。

木々によって月明りは遮られ唯一の明かりはスマホのライトだけ。

ライトのか細い光線がより周囲の暗闇を引き立てている。

風が枝葉を揺らす音なのかそれとも動物が私を狙ってあたりをうろついている音だろうか。


どれくらい歩いただろう、全身に痛みが拡がり疲労と合わさって足取りが鈍っていた。

事故直後は興奮やらパニックやらで気にしていなかったが怪我は思っていたより重いのかもしれない。

死んでしまうのか。

彼女の説明に拠ると2回目の死となるのか。

1回目の死は覚えていない。

彼女の記憶と日記帳で復元された俺の意識は死んだことを記録していないからだ。


彼女の独白を聞いたときは消えてしまいたいと思ったが今になって”死”が怖い。

1回目の私はどうやって死んだのだろう。心臓発作だと思われるがどれほど苦しかったのだろうか。

今だとどうなる?

疲れて死ぬというのは考えづらい、それよりも血の匂いを嗅ぎつけた動物たちが我先にと襲い掛かってくるのだろうか。

最初の一撃で命は落ちるか、それとも生きたまま食われるのか。

熊などの大型肉食獣は獲物が生きた状態で食うと言う、手でしっかりと抑えているので獲物は逃げることができず痛みを感じながら絶命する。

今さらになって研究室を飛び出したことを後悔していた。

我ながら現金すぎると冷笑しつつ、それほどまでに夜の森は恐怖の塊だった。

 とうとう歩けないほどに痛みが強くなってきた。

声を出したかったがそれによって捕食者を呼び寄せてしまうと思い奥歯を強く噛んで耐えた。

部屋を出ずに彼女ともっと話し合うという選択もあったのではないだろうか。

遠のく意識の中でエルの顔を思い浮かべていた。


暖かい空気に包まれている感覚。

全身にあった疲労感、痛みが泡のごとく消えていく。

うっすらと瞼を開けると白く明るい空が見えた。

ここは天国だろうか。

手が地面に接しており確かに土を触る感触がある。

ほんのり甘い空気。

頭を触り血が出ていないことを確認した、痛みもどこに行ったのかまったく痛くない。

空は霧がかかっているようで霧そのものがやんわりとした明りを放っているようだ。

桃源郷、ユートピア、そういう言葉が似あいそうな場所。


「気が付かれたか。」

声のした方向に体を向けると老人が座っていた。

禿頭(とくとう)に長い白髭、服は灰色のローブ、ところどころ汚れてはいるが不潔な印象はない。

これほど近くにいるというのに警戒心が働かない。

仙人のような人という印象。

「ここは天国ですか。」

「天国に思えますかな。」

私は首を縦に振った。

老人は静かに笑うと

「あなたたちが魔獣保護区と呼ぶ場所の一つです。」

と答えた。

「保護区にこんな場所があるなんて聞いたことがありません。それに私はさっきまで森にいました。」

「森に入ったあなたを見ていました。気になったのでこちらに呼んだのです。

ここには私しかいません。久々に外の話を聞きたいと思いました。」

「あなたはどなたですか。」

「名前は・・・意味がないでしょう。ここには私とあなただけです。

それにあなたは逃げてきたのだろう?

老人の雑談に付き合ってもらえませんか、時間を潰したいでしょう?」

この老人はどこまで知っているのだろうか。

私が逃げてきたことを知っているということは車で事故をする前から見ていたのだろうか。

ここはどこだがわからないのも怖いが元の森に戻されても助かる見込みもない。

打算的ではあるがここで時間を潰すことに決めた。

「助けていただきありがとうございます。

私はこの魔獣保護区で保護官として働いているマエダ ケンスケと言います。」

私は立ち上がりお礼をした。

「礼儀正しい方ですな。」

老人はにこにこと笑っていた。


「あなたは高名な魔法使いなのですか。」

「そうじゃな。”昔は”というのが正しいかな。ここに来てからは俗世との関りを絶ってしまった。

今はここでのんびりと世界の行く末を眺めているだけじゃ。」

「世界の行く末ですか?

どれくらいの期間ここにいらっしゃるのですか。」

「魔法使いが世界を支配していたころくらいかな。」

200年以上前ということか、魔法使いが世界を支配しそれを人間が打倒したのがそれくらい前だったはず。

「さて、今後はこちらの番じゃ。マエダさん、お前さんはどうして逃げておるのだ。」


私はこの200年以上生きている老人に今までのことを話し始めた。

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