同行の誘い
ハナが自分のことを紹介し終えると、その態度が急に変わった。
嫌悪感を滲ませながら、自分の獣のような腕を見つめる。
「数年前、アタシは一人の『シノア人』の男から依頼を受けて、古代遺跡にある物を探しに行ったの」
そう話すうちに、ハナの口調はますます苛立ちを帯びていった。
「かなり苦労したけど、やっと遺跡の奥で目的の物を見つけたの。変な腕輪だったわ」
ハナは無意識に、指を少し強く握りしめた。
まるで、またその時のことを思い出したかのようだった。
「ところが、それに触れた瞬間、強烈な不快感に襲われて、アタシの身体はこんな獣人の姿になったのよ。あのクソ野郎は最初からこうなることを知ってて、こっそりアタシの後をつけてた。アタシがこんな姿になってから、ようやく姿を現して、腕輪を持っていったの」
ずっと話を聞いていたカールが、低い声で尋ねた。
「……牧師や魔法使いでも、解けないのか?」
「当然でしょ。腕の立つ牧師や魔法使いを何人も訪ねたわ! でも、みんな答えは同じ。『お手上げだ』って。普通の変身魔法なら、必ず時間制限があるか、魔力が尽きるはずなのに……アタシにかけられたこの呪いには、時間制限がない。『永久的な変異』なのよ。記録すら残っていない、古い呪いかもしれないって、みんな言ってたわ」
ハナはそこで言葉を止め、歯ぎしりした。
「呪いを解くには、あの腕輪と、それを奪ったシノア人の男を見つけるしかないのよ」
だが、そう言った直後、ハナは自嘲するように息を吐き、肩を落とした。
「……でも、アタシは商人じゃないから、『通行証』すら手に入らない。護衛として雇ってもらおうとしても、身元の分からない獣人なんか、誰も相手にしてくれない。もともとは人間だったって言っても、誰も信じちゃくれない。アタシ一人の力じゃ、オーレン大陸には行けないのよ」
「……だから、ずっとこの大陸の国境付近をうろついていたんですか?」
ヴァンの問いに、ハナは後悔しながらうなずいた。
「そうよ。仕方ないから、国境近くのいくつかの町をあちこち渡り歩いて、いろんなところで情報を集めてた。たまに珍しいシノア人を見かけたら、ちょっと『痛い目』を見せて、無理やり聞き出したり……それから、何度かあの遺跡に戻って、あの呪いの手がかりを探したりね」
ハナはため息をついた。
しばらくしてから顔を上げると、少し気を取り直したようにヴァンを指差した。
「それを二、三年くらい続けてた……数日前、前の町で偶然あんたを見かけるまではね。珍しい黒髪、シノア人特有の顔立ち……」
ハナは当時のことを思い出しているように、視線を少し逸らした。
「夜、窓の外からあんたたちの話を盗み聞きして、あんたたちがオーレン大陸へ行くつもりだと確信した。だから、その日以来ずっとあんたたちの後をつけてたのよ」
「ああ、なるほど……そういうことだったんですね」
ヴァンは何かを思い出したように、小さく呟いた。
「何よ?」
ヴァンは手を振った。
「何でもありません。僕のことです。続けてください」
「チッ……でも、あんたのそばにいるあの緑色の大男、一目見ただけで厄介な奴だって分かるじゃない。ずっと隙を見つけられなかったのよ。やっとあんたが一人になったから、ちょっと『話をする』だけのつもりだったのに。まったく、運が悪いったらありゃしないわ。一瞬のミスでこいつにやられちゃうなんて……」
ハナは悔しそうに首を横に振り、深いため息をついた。
「なるほど。分かりました」
ヴァンは静かにうなずき、ハナの目をまっすぐ見つめた。
「それでは……今日の昼に話しきれなかったことですが」
「え?」
「残念ですが、ハナさんが探しているその男について、僕は本当に知りません。それに、本当にあなたを騙しているわけではありません。僕はオーレン大陸の人間ではないんです……信じてもらえますか?」
ヴァンの率直な眼差しを受け、ハナはすっかり怒る気もなくしたように肩をすくめた。
「分かったわよ。あんたみたいな変な奴が、嘘をつくような奴にも見えないし」
ハナは困ったように髪を掻き、長いため息をついた。
「はぁ――こんなに長いこと後をつけてきたっていうのに、結局何の収穫もなし。そのうえ、人の部屋まで掃除させられるなんて、ツイてないったらありゃしないわ……」
肩を落とすハナを見ながら、ヴァンは少し考えてから口を開いた。
「ねえ、ハナさん」
「……何よ。用でもあるの?」
ハナは顔を上げ、気の抜けた様子でヴァンを見た。
「ハナさん。もしよければ……僕たちと一緒にオーレン大陸へ行きませんか?」
「……はぁ!?」
ハナは思わず声を裏返らせた。
「あんた、冗談でしょ!?」
「冗談ではありません」
ヴァンは数歩近づき、真剣な表情で彼女を見つめた。
「あんたが探している男はシノア人でしょう? だったら、ここでずっとうろついて情報を探すより、僕たちと一緒にオーレン大陸へ行ったほうが、その男を見つけられる可能性も高いと思います」
「だから、さっき言ったでしょう! アタシには『通行証』がないから、国境を越えられないのよ! ちゃんとアタシの話、聞いてたの? それに、あんたたちだって持ってないんでしょう?」
ヴァンは笑った。
「そうですね。でも、今日は親切な女性に出会ったんです。その人の提案で、今は南の港へ向かって、船でオーレン大陸へ行くつもりです」
「ふ、船!?」
ハナは目を見開き、思わず身を乗り出した。
「あそこまでの船賃が、どれだけ馬鹿みたいに高いか知ってるの!?」
ハナに詰め寄られ、ヴァンは困ったように笑って頬を掻いた。
「まあ、お金のことは後で考えましょう。まだ時間はありますし、何とかなるでしょう」
ヴァンはそこで言葉を切り、隣で我関せずといった様子のカールへ視線を向けた。
「ねえ、カール。僕たちはこの辺りのことをまったく知りませんよね? だったら、この辺りの事情に詳しい人が一人いてくれたほうが、いいんじゃないですか?」
それを聞いたカールは、ハナをちらりと見て、鼻で「フン」と短く鳴らした。
「……俺は構わない」
カールは無表情のまま、淡々と答えた。
数秒の沈黙のあと、さらに一言付け加えた。
「ただ、こいつ、腕はいい」
それを聞き、ヴァンは満足そうにうなずいた。
「よし」
ハナは「ドン!」とテーブルを叩き、ヴァンに詰め寄った。
「あんたたち二人、いくらなんでも適当すぎるでしょ!? アタシたち、今日初めて会ったばかりなのよ! そんな簡単に初対面の相手を信用して、本当に大丈夫なの!? 裏切られるかもしれないのよ!? 夜中にあんたたちが寝てる間に、荷物を持って逃げるかもしれないのよ!? あんたたちも少しは警戒しなさいよ!」
ハナが興奮してまくし立てても、ヴァンは動じず、ただ静かに彼女を見つめていた。
「でも、このままずっとこうしているわけにもいかないでしょう?」
「え……」
「この国境付近でずっと足踏みしていても、何も進みません。だったら、ここで時間を使い続けるより、一歩前へ進んでみたほうがいい。もしかしたら、何かいいことが起こるかもしれませんよ」
優しいのに、痛いところを突いてくるその言葉に、ハナは一瞬言葉を失った。
「……なんでよ」
ハナは怒る気もなくなったような声で、ぽつりと呟いた。
「なんで、赤の他人にここまでするのよ……」
その問いに、ヴァンは少し懐かしそうに目を細めた。
「僕の母が、昔こんなことを言っていたんです。『有縁千里来相会』……縁のある人は、たとえ千里離れていても、いつかきっと出会う、という意味です」
ヴァンは微笑みながら肩をすくめた。
「今日みたいに出会えたのも、きっと何かの縁なんでしょう。目的地も同じなんですから、助け合わない理由もないでしょう?」
そう言いながら、ヴァンはカールを一度振り返った。
「……それに、食事の時に口が一つ増えるだけですし、僕はまったく気にしませんよ」
「……俺はちょっと気になる」
隣で、カールがぼそりと呟いた。
ヴァンは思わず笑った。
「カールは、自分の分が減るのが嫌なだけでしょう?」
「……」
カールは反論せず、ただ顔をそむけた。
目の前で緊張感のかけらもなく振る舞う二人を見て、ハナは完全に呆れ果てた。
自分はこんなにも悩み、こんなにも警戒しているというのに、目の前の二人は、まるでピクニックの予定でも立てているかのように、何事もなかったように言い合っている。
あまりにも計画性がなく、あまりにも楽観的だ。
これからどうするのか、本当に真剣に考えたことがあるのかと疑いたくなるほどだった。
以前の自分なら、きっと相手を馬鹿にして、鼻で笑っていただろう。
だが今は、いくら頭をひねっても、これ以上にいい方法が思いつかなかった。
ハナはしばらく俯いて考え、最後に仕方なくため息をついて顔を上げた。
「……まあ、そこまで言うんなら、一緒に行ってやるのも悪くないわ」
ヴァンは振り返り、ハナを見る。
「アタシみたいな腕の立つ護衛がいれば、あんたたちも旅をしながら金を稼ぐのがずっと楽になるでしょう?」
ハナはわざと顔を背け、胸を張って、まるで自分のほうが一枚上手だと言わんばかりの態度を見せた。
「うん」
ヴァンは小さく笑い、右手を差し出した。
「では、これからよろしくお願いします、ハナさん」
「……うん。よろしく」
ハナは少し照れながら、ヴァンの手を握り返した。
「そういえば」
ヴァンが唐突に口を開いた。
「あの日の焼き魚……美味しかったですか?」
「え……!?」
ハナは呆然と口を開けた。
数秒後、その頬がわずかに赤くなる。
「……ま、まあまあだったわ……!」
ハナは気まずそうに顔をそむけ、必死に強がって答えた。
「そうですか。それはよかったです」
ヴァンは笑った。
「……違う!アタシが言ってるのはそこじゃないの!」
ハナは顔を赤くしたまま、慌ててテーブルを叩いた。
「とにかく、アタシが言いたいのは――」
ハナがそう言いかけた、その時だった。
――ゴゴゴゴゴゴン!!!!
突然、窓の外の遠くから、夜の静寂を引き裂くような爆発音が響き渡った。
「な、何!?また何か起きたの!?」
ハナは慌てて身構えた。
カールも警戒して窓の外へ目を向ける。
ヴァンは窓辺まで歩き、音が聞こえてきた方向を見た。
すると、町の反対側、遠く離れた場所から、空へ向かって燃え上がる炎と濃い煙が立ちのぼっていた。
「何が起きたんです……?」
燃え盛る炎を見つめながら、ヴァンは訝しげに小さく呟いた。




