封鎖された関所
「通行できないって、どういうことですか?」
ヴァンが驚いて尋ねると、女性受付嬢は少し声を落とし、まるで用意されていた原稿を読み上げるように言った。
「実はここ数日、『サルカ砂漠』の気候が非常に荒れておりまして。大規模な『異常大砂嵐』が発生しているとのことです。それに乗じて、『巨大サンドワーム』などの凶暴な魔物の出没報告も相次いでおります。そのため、安全が確保されるまで、会長様より関所の『全面封鎖令』が出されております。現在、国家の特別許可を取得し、緊急物資を輸送している一部の軍方商隊を除き、一般の通行は全面的に禁止されております」
「巨大な……サンドワーム……」
説明を聞きながら、ヴァンはわずかな違和感を覚えた。
女性の言葉遣いは丁寧で、態度にも一切の問題はない。
しかし、もしかすると、まさにその流暢な話し方だからこそ、「ただ用意された表向きの説明を読み上げているだけ」のような、妙に偽りめいたものを感じてしまう。
(本当なのか……? もしかして、別の理由があって封鎖しているんじゃないか?)
ヴァンの胸の内の疑念を察したのかどうかは分からないが、女性受付嬢は手元の資料を整理しながら、流暢な口調で続けた。
「それに……たとえ封鎖が解除されたとしても、お客様。ここから荒野を抜けて東方へ向かうだけでも、通常なら約二か月にも及ぶ厳しい旅になります。そのため、平時であっても関所を通過するには『通行許可証』が必要となります。この許可証を取得できるのは、王国の『軍方商隊』、もしくは商人ギルドに所属する『大商人』、あるいは隊商を組み、一定以上の等級を持つ冒険者や傭兵を護衛として雇っている小規模な商人だけです。……失礼ですが、お客様は通行許可証をお持ちの商人でしょうか? それとも、商隊に雇われた、ギルドに登録済みの冒険者か傭兵でしょうか?」
「あの……いいえ。僕は商人でもありませんし、ギルドにも登録していません……」
「それでしたら、相応の身分証明、資金、あるいは護衛の証明をご提示いただけない以上、やはり通行許可を発行することはできません」
(……なるほど)
たとえその封鎖理由がただの表向きの説明だったとしても、一介の旅人であるヴァンがそれを追及したところで、どうにもならない。
それに、二人にはもともと関所を通過する資格がなく、専門の護衛を雇うだけの資金もなかった。
どう足掻いても、今の二人にはここを通過する方法がなかった。
「……分かりました。いろいろ教えてくださって、ありがとうございます」
ヴァンは現実を素直に受け入れ、少し気落ちしながらも、心から礼を言って立ち去ろうとした。
(仕方ない。しばらくこの街で何か仕事をして、少し金を貯めてから、別の道を探そう……)
そう心の中で呟いた時。
「あの、お客様」
女性受付嬢が、歩き出そうとしたヴァンを呼び止めた。
彼女は静かに二人の様子を見つめ、おそらく二人が素朴で正直な旅人に過ぎないと確信したのだろう。少しだけ警戒を解いた。
「もしよろしければ……どうして東方へ行きたいのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え? あ……」
ヴァンは少し驚いたが、誤魔化すことなく、素直に答えた。
「ただ、見てみたいんです。東方には、僕とよく似た顔をしている……黒い髪と黒い目の人たちが住んでいると聞いたので、自分の目で確かめてみたいんです」
その素朴で無害な理由を聞くと、女性受付嬢はほっとしたように目元を和らげた。
そして、少し身を乗り出し、声を落として囁いた。
「そういうことでしたか。……でしたら、どうしても東方へ行きたいのであれば、ここから南へ向かった先にある港町『セルディア』へ行かれてはいかがでしょうか?」
「港町、ですか?」
「はい。ここから街道を南へ進み、海岸線に沿って三つほどの街を通り過ぎれば到着します。南方最大の港です。そこから、東方へ向かう大型交易船が出ています」
「船に乗るんですか……」
「はい。乗客として乗船券を購入すれば、渡航そのものは可能です。ただ……ここからセルディアへ向かうだけでも約一か月かかります。その後、海上の航海にはさらに一か月から一か月半ほどかかるでしょう」
「陸路より時間がかかるんですね……」
「それに、一か月以上にも及ぶ航海では、水や食料が非常に貴重になります。そのため、それらの供給が保証される通常の乗船券は、数十枚もの金貨を使ってしまうほど高額です。ですが、陸地の関所のように厳しい身分調査を受けたり、『通行証』を提示したりする必要はありません。お金を用意するか、あるいは船底の安い大部屋を選ぶか、もしくは船上で働くことを条件に乗船を許可してもらえば、方法さえ見つければ、誰でも海を渡ることができます」
「なるほど……厳しい身分証明がなくても、完全に道が閉ざされているわけではないんですね」
決して楽な道ではない。決して安い道でもない。
だが、女性受付嬢の提案には、先ほど「封鎖の理由」を説明していた時のような偽りめいたものはなく、ヴァンの力になりたいという純粋な善意が満ちていた。
(南の港町、セルディアか……よし。ひとまずの目標は決まった)
「本当にありがとうございます。別の道が見つかって、本当に助かりました」
ヴァンは心の底から笑みを浮かべ、小さく頷いた。
女性受付嬢も、今日一番の温かな笑顔を浮かべ、深々と頭を下げた。
「どうか道中、お気をつけて。幸運の女神が、お客様の旅をお守りくださいますように」
ヴァンとカールは一緒に振り返り、商会の入口へ向かって歩き出した。
その時だった。
――ドゴォン!!
背後から、商会の奥にある大ホールの方向より、激しい怒号と、何かが砕け散ったような大きな破壊音が突然響き渡った。




