金銀ニンニクソース
――時間を現在に戻す。
「暁の息吹」を出てから、二日が過ぎていた。 次の町までは、あと二日の道のりだ。
ヴァンとカールは、森の中の小道を前後に並んで歩いていた。 しばらく沈黙が続いていたが、やがてヴァンが口を開いた。
「ねえ、カール。今日の夕飯、何が食べたい?」
「肉」
カールは一切迷うことなく、短く一言だけ答えた。
「また……」
ヴァンは、カールの食欲には感心していた。 けれど、毎食のように干し肉や野獣の肉ばかりでは、そのうち飽きてしまうだろうとも思っていた。
二人がとりとめのない話をしながら歩いていると、カールが突然足を止めた。 そして鋭い目を森の奥へ向け、耳を少し傾けながら、低く呟く。
「……水の音がする」
「えっ? この近くに川があるの?」
ヴァンは周囲を見回したが、カールは静かに首を横に振った。
「いや……川より大きい。たぶん、湖だ」
カールの鋭い聴覚に導かれるように、二人は元の道から少し外れ、茂った藪をかき分けながら森の中へ進んでいった。
やがて視界が開け、その先には、流れの穏やかな川とつながった美しく澄んだ湖があった。 水面には陽光が反射し、きらきらと輝いている。
景色も悪くない。 二人はここを、今日の野営地に選んだ。
今日の夕飯の食材を集めるため、二人はすぐに別れて行動を始めた。
カールは湖へ向かい、魚を捕りに行った。
一方、ヴァンは湖へつながる流れの穏やかな川のそばへ向かった。 まず、水辺の小石が敷き詰められた場所に浅い穴を掘り、そこへ川の水が流れ込むようにして、周囲を石で囲む。 簡単な流水池を作ったのだ。
そして、予備に持っていたきれいな粗布を取り出し、湖へつながる川の浅瀬へ入る。 布を網のように水の中へ沈め、腰をかがめて、川底の泥砂と、その中に潜んでいるものを一緒にすくい上げる。 布を水の流れの中で振って、余分な泥砂を落とした。
布の中に残った獲物を確認すると、それを次々と先ほどの浅い穴へ放り込んでいく。
しばらくして、二人は合流した。
カールの手には、六匹の川魚があった。
一方、ヴァンが作った流水池には、手のひらほどの大きさのカワシジミが十数匹。 それに、半分の手のひらほどもある、丸々と太った川エビが十数匹入っていた。
それを見たカールが、眉をひそめる。
「お前……これ、水の虫を食うつもりか?」
「えっ? まさか、エビや貝を知らないの?」
ヴァンが尋ねると、カールは不満そうに鼻を鳴らした。
「知ってる。でも、うまくない」
「本当に?」
「こういう水の虫は、硬い殻が面倒だ。肉まで一緒に潰しちまう。それなら、いつもの肉を食った方がいい」
カールは太い指で、水の中で跳ねるエビを指さした。
「その泥貝も、たいしてうまくない。それに、砂まで食うことになる……」
心の底から嫌がっていることが伝わる言葉に、ヴァンは苦笑しながら頷いた。
「ああ……なるほど。そういうことか」
ヴァンは胸を軽く叩いた。
「それなら安心して。下ごしらえは僕がやるよ」
カールの心配には、それなりの理由があった。
こんなに大きな淡水のカワシジミには、大量の砂や泥がたまっている。 数時間水につけておくだけでは、十分には抜けない。 少なくとも一日か二日はかかる。
ヴァンはカワシジミを手に取り、カールの方を向いた。
「カール、ちょっと力仕事を頼んでいい?」
カールは固く閉じた黒っぽい貝殻を見下ろし、不思議そうに眉を寄せた。
「……何をする?」
「殻の隙間にナイフを入れて、こじ開けて。でも、完全には切り離さないでね。殻はあとで使うから」
カールは厚手の布を使って滑らないようにしながら、殻の隙間へナイフを差し込む。
驚くほどの怪力を持つカールだが、それはただ力任せに扱うという意味ではない。 強靭な両腕に力を込めながらも、その動きを正確に制御している。
やがて、筋肉のつながっている弱い部分を正確に見つけ、そこを手早く切断した。
ぱかり、と頑丈な殻が簡単に開く。
続けてヴァンは小刀で灰白色のえらのひだを取り除き、さらに泥や砂が詰まった黒い泥袋も取り出した。 きれいになった貝肉だけを残し、粗塩と少量の小麦粉を振り、手で丁寧に揉み込む。
小麦粉が余分なぬめりを大部分吸い取ったところで、川の水ですすぎ、何度も繰り返して洗う。 水が濁らなくなるまで洗い続ける。
こうして、気になる泥砂と土臭さは、ほとんど消えた。
貝の処理が終わると、次は魚とエビだ。
ヴァンはカールが持ち帰った川魚から鱗と内臓を取り除き、粗塩を振って串に刺した。 そして、火のそばでゆっくりと焼いていく。
最後に残った、そして一番厄介なのが、まだ生きている川エビだった。
(もし冷蔵庫があれば、仮死状態にできるのに……)
仕方がない。 ヴァンはできるだけエビの頭にある棘に注意しながら、一匹をつかんだ。 それを平たい石の上へ押さえつけ、首のところへ慎重に刃を入れる。
刃が硬い殻に触れた瞬間、はっきりとした引っかかりが手に伝わってきた。
(なるほど……確かに、これまで食べたエビより硬い。カールが面倒だと思うのも無理はない。でも……)
ヴァンはエビの背に沿って縦に刃を入れ、刃先を前後に動かしながら、少しずつ殻を切り進めた。 やがて背中に長い切れ目を作り、背わたを取り除いてきれいにする。
すべての食材の準備が整うと、ヴァンは数日前に町で買った大きく丸いニンニクを三、四個、荷物の奥から取り出した。
「潰れてなくて、本当によかった」
そのとき、カールの顔に露骨な嫌悪が浮かんだ。
「ヴァン……まさか、あの『臭い草の根』を入れるつもりか?」
カールの反応も無理はなかった。 少なくとも、彼の知っているニンニクの主な使い道は三つある。
一つ目は、薬草として使うこと。 二つ目は、虫除けとして使うこと(ただし、その匂いで野獣に使う者の位置を知られてしまう)。 三つ目は、強烈な消臭剤として使い、質の悪い肉が腐った匂いを隠すこと。
カールは、あの刺すような臭いが嫌いだった。 食べることにも、どうしても興味を持てない。
「まあ、騙されたと思って見ててよ」
ヴァンは笑いながらカールの抗議を気に留めず、小刀でニンニクの根元を横に切り落とした。
両手で揉んで外側の皮を剥がし、つやのある乳白色のニンニクの粒を露出させる。 それをすべて細かく刻んだ。
準備が整うと、ヴァンは火の上に小さな平鍋をかけ、ラードを入れた。 ラードが完全に溶け、かすかに煙が上がったところで、鍋を火から少し離した。 火を弱めるためだ。
そこへ刻んだニンニクの半分を入れる。
――ジュワララララッ!
焦がさないよう弱火のまま、ヴァンはニンニクをゆっくりと油で加熱し、その香りを油へ移していく。
やがて、ツンと鼻を刺す匂いが消えていった。 代わりに、食欲をそそる香りが立ち上ってくる。
嫌そうな顔をしたまま警戒してこの様子を見ていたカールも、ついに漂ってきた香りに鼻を動かした。
その香りはほとんど強引に鼻の奥へ入り込み、容赦なく食欲を刺激した。 カールは思わず唾を飲み込む。
最後に残りの刻みニンニクを加え、少量の塩を入れる。 手早く混ぜ合わせる。
加熱したニンニクの香ばしさと、生のニンニクの辛味と旨味が合わさった特製調味料――「金銀ニンニクソース」が完成した。
「よし。これでひとまず下ごしらえは終わった。じゃあ、今夜の料理を始めようか」




