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Cross:僕らの旅  作者: 森の森
第一章

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18/35

砕けた台座

円卓の広間で息が詰まりそうな謁見を終え、ソウリュウとマリカは並んで王城の長い廊下を歩いていた。

「その……部品を取り戻しに行く件だけど、いつ出発するつもりなんですか?」

ソウリュウが尋ねると、前を歩いていたマリカが振り返った。

「予定では、今日の午後に出発します。順調にいけば、馬車で明日の朝には到着できます。時間との勝負になる緊急事態ではありますが、どれだけ焦っていても、準備を疎かにするわけにはいきません」

「じゃあ……全部で、何人で行くんですか?」

「あたしとソウリュウ様を含めて、全部で四人です。今から、もう一人の仲間に会いに行きます。最後の一人は、すでに現地のドワーフの要塞であたしたちを待っています」

「……四人、か。え?マリカさんも一緒に行くんですか?」

思わず聞き返したソウリュウに、マリカは微笑んでうなずいた。

「はい。こう見えても、あたしはこの国の『副神官長』なんですよ。回復と防護の魔法以外にも、ほかの種類の魔法も多少は心得ています。きっと、少しくらいはお役に立てると思います」

胸を張って話す彼女を見て、ソウリュウは頼もしく感じたものの、それでも思わず眉をひそめ、足取りを重くした。

(この大地の存亡がかかってる重大な任務なのに……四人だけで本当に大丈夫なのか?)

おそらく、不安が顔に出ていたのだろう。

マリカはソウリュウを安心させるように、優しく笑って首を横に振った。

「心配ですよね?お顔を見れば分かります。でも、安心してください。このような任務は、決して人が多ければいいというものではありません。隊列が大きくなればなるほど統率は難しくなりますし、考えなければならない不測の事態も増えていきます。厳選された少数の精鋭だからこそ、最も確実で、最も迅速な行動が取れるんです」

その言葉を聞き、ソウリュウも少しだけ肩の力を抜いた。

二人は話しながら歩き続け、やがて城の裏手にある兵士の訓練場へたどり着いた。

そこには激しい金属音が響き渡っており、二人の兵士が激しい模擬戦を繰り広げていた。

「うおおっ!」

そのうちの一人は、身体の半分ほどを覆えそうな大盾と、身長を超える長槍を手にしていた。

盾で相手の攻撃を受け流し、そのまま大盾を構え直して、重い盾突きを繰り出す。

それまでずっと防御に回っていたもう一人の兵士は、たちまちバランスを崩し、尻もちをついた。その手から武器も落ちる。

勝負は、一瞬で決まった。

勝利した青年は兜を脱ぎ、額の汗をぬぐった。

爽やかな淡い金髪が、日の光の下で揺れている。

「足元が安定してない!大盾の突撃を真正面から受け止めようとしたから、崩されたんだ。力を受け流すことを意識しろ。……よし、次!」

青年は倒れた兵士に的確な助言を送った。

そして再び声を張り上げようとしたところで、マリカが困ったように声をかけた。

「相変わらず熱心ですね、ブレッド。頑張るのはいいことですけど、ちゃんと休まないと、倒れてしまいますよ?」

その声を聞いた淡い金髪の青年――ブレッドは振り返り、人懐っこい爽やかな笑顔を浮かべた。

「なんだ、マリカじゃないか! いやあ、つい夢中になっちゃって。……ん?」

ブレッドの視線が、マリカの隣に立っているソウリュウへと移る。

「その隣にいるのは……もしかして、噂の?」

「はい」

マリカはうなずくと、ソウリュウのほうを向いて紹介した。

「ソウリュウ様。この人が、さっきお話しした三人目の同行者、ブレッドです。若くして王属騎士団の『代理騎士団長』を務めている、とても頼りになる方なんですよ」

「団長……そんなにすごい人なんですか?」

ソウリュウが驚いて目を見開くと、ブレッドは少し照れた様子で金髪をかいた。

「いやいや、ただの肩書きだって! 俺は実際には副団長で、本当の団長じゃないんだ。本当の団長は……まあ、ちょっと事情があって今はいないから、俺が一時的に面倒な仕事を押しつけられてるだけさ」

そう言いながら、ブレッドはほんの一瞬だけ、気まずそうに視線を逸らした。

ソウリュウはその不自然な間が少し気になったが、ブレッドはすぐにいつもの明るい笑顔に戻ったため、それ以上は深く考えなかった。

「俺のことはブレッドって呼んでくれ。これからよろしくな」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」

「代理騎士団長」という重々しい肩書きとは裏腹に、彼の人懐っこく気取らない爽やかな笑顔は、ソウリュウの張り詰めていた神経を少しだけ和らげた。

午後の出発に向け、ソウリュウはブレッドに連れられて王城の武器庫へ向かい、旅の装備を準備することになった。

だが、ずらりと並ぶ鋭利で物騒な武器の数々を前に、ソウリュウの足は少し震えた。

「その、ブレッドさん……」

「ん? どうした?」

「俺、剣道すらやったことがなくて、完全な素人なんです。戦ったことなんて一度もないし……本当に俺が一緒に行って、役に立てるんでしょうか?足手まといになるだけじゃ……」

ソウリュウが率直に不安を口にすると、ブレッドは足を止めた。

そして真剣な目で彼を見つめたあと、ソウリュウの肩を叩いた。

「安心しろ、ソウリュウ。最初から人と戦えなんて、誰も言ってない。戦うのは俺たちの役目だ。お前は自分の身を守る方法を身につければ、それでいい」

ブレッドは力強く笑った。

「それに、陛下がお前を選んだのには理由がある。お前の『魂』には、今回の事件を解決するための特別な力があるらしい。俺たちはお前を信じて、自分の命を懸けるつもりだ。だから、お前自身の可能性も信じてくれ」

「命を懸けるなんて、大げさすぎるだろ!」

「まあ、とにかく俺たちがお前の後ろ盾になって、ちゃんと守ってやる。だから安心しろ」

その率直で温かな言葉を聞き、ソウリュウは深く息を吸い、覚悟を決めるようにうなずいた。

「……分かった」

「よし。じゃあ、まずは自分の身を守る武器を選ぼう。どんな武器が欲しい?剣か? それとも槍か?」

ブレッドに尋ねられ、ソウリュウは無数の武具を見回した。

だが、その中のある一点に引き寄せられた。

彼が直感で選んだのは、片手で扱える頑丈な中型の盾(カイトシールド)と、装甲を叩き潰すために作られた、重厚な長柄のウォーハンマーだった。

「おお、ウォーハンマーを選んだのか。聖騎士が好んで使う武器だ……うん、意外とお前に合ってるかもしれないな?」

「その……本当に、ただ何となく、適当に選んだだけなんですけど……」

そう言いながらも、ソウリュウ自身も不思議な感覚に陥っていた。

(でも……俺の直感が、これを選ぶべきだって言ってる。)

「でも、こんなに重い武器、今の俺に振れるかどうかも分からない……」

ソウリュウが不安そうに呟くと、ブレッドは豪快に笑い、彼の背中を叩いた。

「気にするな!本当に必要になったら、その時は俺が使い方を教えてやる。安心しろ、すぐに使いこなせるようになるさ」

旅の物資を準備した一行は、午後の陽光の中、馬車で王都を出発した。

揺れる馬車の中で一夜を過ごした。

翌朝、ソウリュウたちを待っていたのは、思わず息を呑むほど凄惨な光景だった。

「……嘘だろ」

ソウリュウは馬車を降り、言葉を失った。

本来なら雄大で頑丈なはずのドワーフの要塞は、見る影もなくなっていた。

山体をくり抜いて造られた巨大な建造物は、右半分が丸ごと吹き飛んでいた。

警備兵の案内で、一行は瓦礫と化した要塞の奥深くへ進んでいく。

道中では、全身を煤だらけにしたドワーフたちが、黙々と瓦礫を片づけていた。

やがてたどり着いたのは、最奥部にある広大な保管室の跡地だった。

かつて「竜の首」が厳重に保管されていたその部屋は、天井も壁も跡形もなく吹き飛び、周囲には建物の無残な残骸が散らばっていた。

瓦礫の中心には、ひびの入った台座だけが、ぽつんと残されていた。

「ここが、部品を置いていた場所……」

ソウリュウが何気なく残骸へ近づき、その表面に触れようと手を伸ばした、その時――

「そこに触らないでくれる?そうしないと、現場の痕跡を壊してしまうから」

空間に、冷たく澄んだ声が響いた。

ソウリュウが驚いて手を止める。

すると、倒壊した柱の陰から、一つの人影が姿を現した。

夜を思わせる黒褐色の肌。

腰まで届く、銀白色のストレートヘア。

尖った耳を持つダークエルフが、冷酷な光を宿した桃紫色の瞳でソウリュウを見つめる。

そして、ふいに艶やかな笑みを浮かべた。

「……あなたが噂の異世界人ね。ふふ、もっとたくましい大男だと思ってたのに……なかなか可愛い顔してるじゃない?」

甘く、どこか挑発するような声に、ソウリュウは思わず一歩後ずさった。

「カミア、初対面の人をからかわないでください。ソウリュウ様が困っているでしょう」

マリカがすぐさま口を挟んでたしなめる。

すると、ダークエルフの美女は優雅に肩をすくめた。

「ふふ、相変わらず堅いわね、マリカ。そんなに何もかもきっちりして生きてて、息が詰まらない? たまには力を抜かないと、こんなに可愛い顔に皺ができちゃうわよ?」

「今はそんなことを言っている場合じゃありません!」

マリカは顔を赤くして反論した。

「ふふ、ちょっとした冗談よ」

カミアは悪びれる様子もなく笑った。

彼女こそ、小隊の最後の一人だった。

カミアは再びソウリュウの前まで歩み寄り、ほのかな甘い香りを漂わせながら、艶やかな声で囁いた。

「わたくしの名前は、カミア・シノ。……これからよろしくね、小さな勇者様?」

そう言って、妖艶で魅惑的な微笑みを向けた。

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