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Cross:僕らの旅  作者: 森の森
第一章

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シノア人

ヴァンとカールは森を抜け、広々とした道を通って、そのまま半日以上歩き続けた。 空が橙色に染まり、夕陽が西の山際へ沈もうとする頃、二人の視界に巨大な石造りの城壁が姿を現した。

「……着いたな。あれが街だ。」

城門の前には、街へ入ろうとする馬車や旅人たちの列ができていた。 どうやら、検査と通行税の徴収が行われているらしい。

やがて二人の番になると、門番の兵士はカールを見るなり、親しげに声をかけた。

「おお、カールじゃないか! まだ月末には少し早いが、今回はまたどんな獲物を持ってきたんだ?」

カールの暮らす村では、定期的にこの街へ獲物を売りに来て、村で必要な生活用品を購入する習慣があった。 そのため、門番の兵士ともすっかり顔なじみになっている。

しかし、カールは静かに首を横へ振った。

「……違う。今日は見送りだ。」

「見送り?」

門番は不思議そうに眉をひそめ、カールの隣に立つヴァンへ視線を移した。 彼の服装を上から下まで、まるで値踏みするかのようにじっくりと見つめる。

「へえ? 黒髪の人間なんて珍しいな。服もずいぶん変わってる。こんな型は見たことがないぞ。」

門番の目には、明らかな好奇心と、相手が危険人物ではないかを探る警戒心が入り混じっていた。 しかし、カールの後ろにいて、特に怪しい行動もしていないヴァンの姿を確認すると、門番は肩をすくめ、納得したように頷いた。

「まあ、お前が連れてきたんなら、問題ないだろう。入っていいぞ。」

兵士の許可を聞き、ヴァンは心の中でほっと息をついた。 カールについて城門を抜ける。

石畳で舗装された大通りへ出ると、目の前には活気に満ちた街の光景が広がっていた。 行き交う人々の姿も様々だ。

尖った耳を持つエルフ。 筋肉質で小柄なドワーフ。 そして、全身を毛で覆い、獣の耳と尻尾を持つ「獣人」。

だが、周囲を見回してみると、やはり最も数が多いのは人間だった。 全体の六、七割ほどを占めているように見える。

歩いているうちに、ヴァンは周囲から向けられる異様な視線を感じ始め、なんとなく居心地が悪くなった。 やはり元の世界の服は、この世界ではかなり浮いてしまうらしい。

「ねえ、カール。できれば先に服を替えたいんだけど。この格好だと、ここではちょっと目立ちすぎるみたいだ。」

二人はすぐに適当な雑貨店を見つけた。 そこで、この世界の住人が普段着ているような、簡素で安価な古い麻布のシャツとズボンを選び、着替えた。

粗い麻布の感触にはまだ慣れなかったが、とりあえずこれなら余計な注目を集めずに済みそうだった。

その後、二人は安い宿を探すついでに、近くの市場の屋台を少し見て回った。

すると、珍しい香辛料や雑貨を並べていた男性商人が、突然ヴァンへ声をかけた。

「おや? こりゃ珍しい。この辺境で『シノア人』を見られるとはな。」

その声に、ヴァンは足を止めた。

「……シノア人?」

聞き慣れない言葉に、ヴァンが首を傾げる。 商人は人のよさそうな笑顔を浮かべながら説明した。

「そうさ。昔、商会で下働きをしていた頃、極東の『オーレン大陸』へ交易に行ったことがあってね。そこには、お前みたいな黒髪黒目の人間がたくさんいたんだ。お前もその類だろ?」

(えっ? この大陸の東のほうに……僕と似た姿の人たちがいるのか……?)

「……それ、本当なんですか?」

ヴァンの瞳に、一瞬だけわずかな光が浮かんだ。 それを、隣に立っていたカールは静かに見ていた。

「もちろんだとも。ん? まさか、お前は東から来たんじゃないのか?」

疑問を抱いた商人に、ヴァンは慌てて笑みを作ってごまかす。

「いえ。僕は……ずっとこの辺りで育ったので、そこへ行ったことはありません。」

「ああ、なるほど……。」

商人は勝手に、彼を「東方から来た移民の孤児」のようなものだと理解したらしく、少し同情するような視線を向けた。

ヴァンはそれ以上深く話さず、商人へ礼を言って、その場を離れた。

「もうすぐ暗くなる。とにかく、今日は休める場所を探そう。」

ヴァンに促され、二人は大通りから少し外れた場所にある、一階が酒場になっている安宿の一室を借りた。

夜は二人で階下の酒場で簡単に食事をした。 その時、カールがふと尋ねる。

「東へ行きたいのか?」

ヴァンの手が杯を握ったまま、わずかに止まった。

「えっと……まだ決めてない。分かってないことも多いし、明日まず道を聞いてから考えるよ。」

「うん。」

カールは短く答え、それ以上は何も聞かず、再び食事へ視線を落とした。

その後、二人は誰も何も話さず、夕食は静かに終わった。

翌朝、太陽が完全に昇る頃、ヴァンとカールは街の中心部にある「冒険者ギルド」へやって来た。

ヴァンは冒険者になるつもりはなかった。 しかし、金を払って地理や旅の情報を買うなら、こうした人たちに聞くのが一番確実だと思ったのだ。

ヴァンは受付の職員に数枚の銅貨を渡し、地図を買った。 そのついでに道順も聞き、東の大陸「オーレン」へ向かうためのルートを、おおよそ把握することができた。

「ここから東へ進み、二つか三つの街を経由して、およそ十日。荒野の境界にある関所の街『アルデン』へ到着します。そこからさらに先は、東西の大陸をつなぐ広大な荒野と砂漠地帯――『ザルカ砂漠』です。いくつかのオアシス都市を経由して横断するなら、さらに二か月ほどかかります。」

ヴァンはギルドの建物を出た。 手にした大陸地図を見つめながら、外の空気を吸う。 そして、心を決めた。

(一人でも、きっとやれる……。)

隣を歩くカールをちらりと見て、ヴァンは心の中で自分に言い聞かせた。

(カールには帰るべき場所がある。もうこれ以上、僕のことでカールに負担をかけちゃいけない。それに、手持ちの金がなくなったら、どこかの街で日雇いの仕事でもすればいい。たとえ歩みが遅くても、自分の足で進めばいい。いつかは、きっと辿り着ける。)

もうすぐカールと別れることになる。 そう意識したヴァンは、一人旅に必要な物資を準備するため、市場へ向かった。

「まずは、調理器具だな。」

道具屋で、ヴァンはリュックの底に入れられるほどの、厚手で深さのある鉄鍋を一つ買った。 吊り下げられる持ち手付きのものだ。 さらに、ほぼ同じ大きさで持ち手のついた浅い鉄鍋も一つ買った。

次に食料。 ヴァンは一人ならしばらく食べ続けられるほどの小さな麻袋一袋分の小麦粉を買った。 そのほか、日持ちするジャガイモと、少しの干し肉も購入した。

(これだけあれば、最悪の場合、山菜と一緒に食べれば二週間くらいは持つだろう。)

肉屋の前を通りかかった時、血と獣の臭いが漂う店内で、ヴァンの視線が止まった。 店主が赤身肉を切り終えたあと、まな板の端へ寄せていた「白い肉の塊」。 栄養もほとんどなく、臭みも強いため、誰も買いたがらない純粋な脂身の端材だった。

「すみません。この脂身の切れ端、安く売ってもらえませんか?」

ヴァンが尋ねると、店主は変人を見るような目で一度ヴァンを見た。 だが、その後は気前よく、銅貨数枚でたっぷり入った容器一杯分の脂身の端材を売ってくれた。

必要なものをすべて揃え、二人は騒がしい帰り道を歩いていく。

ヴァンは時々顔を上げ、前を黙々と歩いているカールの背中を見る。

(……さて、どうやって別れを切り出せばいいんだろう。) (というより、去る前にどうやって恩返しをすればいいんだ?)

ただ「ありがとう」「さようなら」と言うだけでは、あまりにも単調で、軽すぎる気がする。 かといって、本当に感動的な言葉を並べるのも恥ずかしいし、自分の性格にも合わない。

ヴァンが歩きながら考え込んでいると、道端で新鮮な卵を籠に並べて売っている行商人が目に入った。 その丸々とした卵を見た瞬間、ヴァンの頭に一つの考えが浮かんだ。

(……そうだ。これなら、少なくとも僕なりのやり方で感謝を伝えられる。)

「カール、ちょっと待ってくれ。」

ヴァンは立ち止まり、行商人から卵を三、四個買った。

怪訝そうに振り返ったカールへ、ヴァンはいつも通り落ち着いた口調で言った。

「よし。宿へ戻ろう。」

「卵、何に使うんだ?」

「今夜、この新しい鉄鍋がちゃんと使えるか試してみたいんだ。ついでに、ちょっと特別なものを作る。」

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