表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/63

第58話 ドラグリアの敗北

ドラグリアの挿絵あり。

 全身を漆黒の鱗で覆われた巨竜は、メギドの街へと向かってその歩みを進めていく。

 その行く手を阻むように真紅の甲冑を身に着けた女性……僕の召喚獣の一人であるドラグリアが立ち塞がった。

「ガアアアアアアアア」

 退けと言わんばかりに、『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』は吠えた。

 その声は、大気を震わせ、離れている僕たちの身体をも震わせた。

「ひいいいいいい」

 メルティナは、ドラゴンの一声で腰を抜かしていた。

 僕も腰を抜かすまでは行かなかったけれど、両膝が震えて立っているのがやっとだった。

 それほどまでに凄い咆哮だった。

 それをまともに受けていたドラグリアは、たまったものではないはずだ。

 けれど、彼女は一歩も引かず、ひるむことすらなく漆黒のドラゴンを両の眼で睨み据えていた。

「いざ、参る」

 ドラグリアは、右手に黒い柄の刀……『霊刀高天原れいとうたかまがはら』を。

 左手には、赤い柄の『神刀天照しんとうアマテラス』をたずさえ、一直線に『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』へと向かって疾走を開始した。

 体格差としては、『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』を象と例えるなら、ドラグリアはネズミほどの大きさくらいの差がある。

 それでもドラグリアは一切臆することなく、闇色のドラゴンへと立ち向かっていった。

 『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』は、右足を振り上げた。

 巨大な岩ともいえるような大きな足が、一気に振り下ろされる。

 地面を蹴り上げて、死角へと回り込むようにドラグリアは回避しながら移動していく。

 数瞬までドラグリアがいた場所を猛烈な衝撃が襲う。

 振り下ろされた巨竜の足は、地面をえぐりながら陥没させていた。

 まともに喰らったらペシャンコにされてしまうことは、容易に想像できた。

「やばいよ。もっと離れないと巻き込まれちゃうよ」

 腰を抜かしているメルティナを立ち上がらせて、一緒に距離を取るために離れて行く。

 背後から強い衝撃が襲い掛かってきて、僕とメルティナは前のめりに倒れ込んだ。

 先ほど地面に叩きつけられた巨竜の足が、再び振り上げられたときに地面の土が掘り起こされながら、僕とメルティナの背後から飛んで来たみたいだった。

 それが背中に当たって、僕たちは衝撃を受けたようだった。

 スネークドラゴンの皮と鱗で作られた服や鎧を僕とメルティナは身に着けていたので身体に受けるダメージはほとんどなかったけれど、この装備がなかったら今の一撃で僕たちは背骨などを損傷して動けなくなっていたかもしれない。

「メルティナ、大丈夫?」

 震えて怯えるメルティナを抱き起しながら声を掛ける。

「こんな魔物がいるなんて……退治できるわけないじゃない……」

 恐れ戦きながら、見開かれた瞳は闇色の鱗を持つ巨竜に注がれていた。

「ドラグリアが何とかしてくれるよ。もう少し離れよう」

 情けない姿を晒すようだけれど、僕は地面を這いずるように移動する。

「待ってよ、ヴィオ君」

 メルティナも怯えながらも、僕の後に続くように地面を這いずりながら出来るだけ距離を取るために離れて行った。

「はっ!」

 気合のこもった掛け声とともに、ドラグリアは漆黒の鱗へと目掛けて刀を振り下ろす。

 ガキン!と硬質な音を響かせて刃が弾かれた。

「なっ?『霊刀高天原れいとうたかまがはら』が弾かれた?」

 ドラグリアは、驚いた様子で声を上げていた。

 斬りつけた鱗には、傷一つ付いてはいない。

「ならば、『神刀天照しんとうアマテラス』で……」

 赤い柄の刀で再度、斬りかかる。

 同じように刀は、はじき返された。

 けれど、今回は傷をつけることはできた。

 小さな小さな傷だった。

「何という硬度……この刀たちで斬れないなんて……」

 ドラグリアが漏らしたことの葉からは、やや絶望にも近い声色が漏れていた。

 刀で傷を付けられないのでは、倒す術がない。

「いや、どこかに弱点はあるはず。そこを突けば……」

 ドラグリアは、がむしゃらに刀を叩きつけた。

 闇色に染まり、陽の光を受けてキラキラとその表面が水面のように煌めいている分厚い鱗。

 ドラグリアの刀を拒絶するように、叩きつけるたびに弾いていた。

 『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』の太くて岩のような足を覆う鱗は、そんなに大きくはないけれど、刃を通さなかった。

 尻尾を覆う鱗も斬りつけてみるが、刀は弾かれてしまっていた。

 巨竜の大きな身体を駆け上り、背中へと斬りかかる。

 やはり、背中の大きな鱗も刃を弾いていた。

 頭から尻尾の先まで生える背びれのような場所に足をかけ、頭の天辺へと向かってドラグリアは駆け上っていく。

 飛び上がり、『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』の眉間に向かって刀を振り下ろす。

「はあああああ」

 渾身の力を込めて、ドラグリアは『霊刀高天原れいとうたかまがはら』を叩きつけた。

 パキンと小気味よい音を立てて爆ぜ折れる。

「そんな……『霊刀高天原れいとうたかまがはら』が……折れた……」

 巨竜の眉間のなんと硬いことか。

 右手に持っていた刀が半ばから真っ二つに折れてしまった。

 折れた刀の先は、弧を描いて地面に突き刺さった。

 まさか刀が折れてしまうなんて。

 どれだけ硬い鱗なんだろうか?

 刀が折れてしまったことに驚き戸惑い、ドラグリアの動きは止まってしまった。

 そこへと巨竜の闇色の細腕が襲い掛かる。

「しまった……」

 巨竜の眼前……しかも中空であったため、身をひるがえしてかわすことかなわず。

 ドラグリアは、もろに闇色の細腕にはたかれてしまった。

 頭を覆っていた兜は粉々に砕け、身に着けていた甲冑も粉砕されてしまった。

 殴りつけられた勢いはすさまじく、ドラグリアの身体は地面へと激しく叩きつけられていた。

「ぐはっ……」

 背中からもろに地面に激突し、苦鳴を上げてドラグリアは激痛にのたうち回っていた。

「ドラグリア」

 まさか、ドラグリアが巨竜の攻撃をまともに受けるなんて思わなかったので、僕は声を上げていた。

「大丈夫です……ヴィオ様……」

 ドラグリアは、ヨロヨロとよろめきながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 折れてしまった刀……『霊刀高天原れいとうたかまがはら』から手を離して、その場に投げ捨てていた。

 砕けてひしゃげた兜。

 顎のあたりで結んで固定していた紐をほどいて、脱ぎ捨てた。

 兜に納められていた金色の髪が解放され、風に吹かれてなびく。

 馬の尻尾のようにまとめられた髪は、土埃に塗れていた。

 たった一撃で、ほぼ半壊した胸元や肩口を覆う甲冑を邪魔だとばかりに荒々しくはぎ取った。

 右腕を負傷したようで、だらりと力なく垂れていた。


挿絵(By みてみん)


「ドラゴンごときに……私は負けはしない……」

 立っているだけでもやっとな様子だ。

 巨竜を睨みつける金色の双眸そうぼうには、猛烈な殺意がみなぎっていた。

「ドラグリア、無理はしちゃだめだよ」

 どう見ても、まともに戦えるようには見えない。

「まだ戦えます……『神刀天照しんとうアマテラス』が私にはある……」

 ドラグリアは、かなりの重傷を負っているはずだけれど、戦意は失ってはいない。

 だけど、これ以上戦わせるのは忍びない。

 でも、頼みの綱である僕の最強の召喚獣であるドラグリアでどうにかできないのであれば、僕にはもうこの『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』を倒せる召喚獣はいない。

 ドラグリアには何としてでも勝ってもらいたいけれど、このまま戦わせたら死んでしまうかもしれない。

 そんなことは避けたい。

 ドラグリアを犠牲にしてまで、この巨竜を倒したいわけじゃあない。

 僕にとっては、ドラグリアの存在の方が大切だ。

「ドラグリア……」

 もう戦わないでと叫びたかったけれど、声が出せなかった。

 ドラグリアは、まだ諦めてはいない。

 何かをするつもりの様だった。

「私の……最大奥義で葬り去る」

 ドラグリアは、左手に握りしめた刀……『神刀天照しんとうアマテラス』を横にしたまま巨竜に突き付けるように構えた。

うなれ、轟雷。とどろけ、雷鳴……目の前の敵を葬り去る裁きの雷よ」

 呪文のようにドラグリアの口から言葉が紡ぎ出された。

 バチバチと激しい音を立てて刀が放電していた。

「雷?」

 ドラグリアの握る刀を包み込むように雷がドンドン激しさを増していく。

 その様を目撃し、『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』は、やや怯んだような様子を見せた。

 ドラグリアが発生させた雷に驚いているようだ。

 行けるかもしれない。

 激しく暴れ回る雷は、『神刀天照しんとうアマテラス』の刀身のみに集約された。

 刀身が雷に包み込まれて、激しい光を放っている。

「受けてみよ、我が秘剣の最大奥義……」

 左腕を大きく掲げ、構えを取った。

 やや両足を屈めて体勢を低くし、一気に飛び出すために力を溜めている。

「いざ、勝負」

 ドン!とはじき出されたようにドラグリアの身体が一直線に巨竜へと向かって行く。

 踏み潰そうと足を上げて、巨竜は対抗しようとした。

 振り下ろされた巨岩のような足を躱し、雷のごとく疾走する。

 電光石火の早業で、一気に懐まで入り込んだ。

「奥義、雷神滅殺轟雷斬らいじんめっさつごうらいざん

 『神刀天照しんとうアマテラス』は、『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』の腹部へと斬り上げるように叩きつけられた。

 その刹那。

 雷は、縦に斬り裂くように巨竜の身体に沿って天へと向かって走った。

 漆黒の鱗を打ち消すかのように、まばゆい光を放ちながら雷は蛇のようにうねりを上げて暴れ狂った。

 腹部から胸元へと駆け上がり、そのまま顎へと直撃して雷の一閃は頭部を襲った。

「そんな……馬鹿な……」

 ドラグリアが絶望にも似た声を漏らしていた。

 『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』の腹部に叩きつけた赤い柄の刀。

 『神刀天照しんとうアマテラス』は、『霊刀高天原れいとうたかまがはら』と同じく折れていた。

 巨竜の腹部には、斬りつけた際の刀の傷は一切ない。

 腹部から頭部へと駆け登って行った雷は、そのまま天高くへと駆け登って行き、空高くで四散して消滅していた。

 何が起きたのか、すぐには理解できなかった。

 それはドラグリアも同じだったことだと思う。

 でも、確実に分かることは、ドラグリアが繰り出した必殺の一撃は、この漆黒の巨竜には効果がなかったということだ。

 雷が巨竜の身体に沿って這いずるように駆け登って行ったけれど、全くの無傷だった。

 雷をも通さず、漆黒の鱗ははじき返してしまったということだろう。

 ドラグリアにとっては衝撃的だったと思う。

 自慢の奥義が通じず、刀も折れてしまった。

 彼女の戦意は完全に失われてしまった。

「『神刀天照しんとうアマテラス』まで……」

 折れてしまった左手に握る刀に視線を向けたまま硬直していた。

 『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』は、蚊に刺されたほどにも感じず、何かしたのか?といった感じでドラグリアを見下ろしていた。

 身体をぐるりと横に回転させ、長く太い尻尾を振り回した。

 必殺の一撃と愛刀が失われたことに戦意喪失していたドラグリアの身体を巨竜の尻尾は容赦なく打ち据える。

 まともに喰らってしまい、ドラグリアの身体は石ころのように跳ね飛ばされて、僕とメルティナのそばに転がった。

「ドラグリア」

 僕は声を上げて彼女に駆け寄った。

「しっかりして、ドラグリア。死んじゃだめだよ」

 抱き起して声を掛ける。

「申し訳……ありません……ヴィオ様……情けない……こんなにも無力とは……」

 よほど悔しかったのだろう。

 ドラグリアの瞳には涙がにじみ出ていた。

 身体中の骨が砕け、虫の息状態だ。

 このままでは、彼女の命がやばい。

 風前の灯だ。

「すぐに聖獣界に送り返すから、ゆっくりと休むんだよ」

 僕は泣きそうな声で叫んでいた。

 ドラグリアは微かに首を動かして頷いた。

 その場に彼女を横たわらせて、僕は急いで魔力を籠める。

 ドラグリアの身体の下に魔法陣を描き出す。

 『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』は、僕が描き出した魔法陣の輝きに反応し、こちらに視線を向けていた。

 やばい。

 急いで、ドラグリアを帰還させきゃ。

 魔法陣に魔力を流し込み、ドラグリアの身体が光に包まれた。

 転瞬。

 彼女の身体は光となって天へと昇って行った。

 聖獣界には送り返すことはできた。

 当分の間は呼び出すことはできないけれど、無事でいてくれるならばそれでいい。

 さて、次はだれを呼び出そうか?

 僕の最強の召喚獣であるドラグリアが、こうもあっさりと敗北してしまった。

 もう、戦える人はいない。

 どうしよう。

 僕は大いに迷った。

 そんな時。

「ヴィオ君、危ない」

 メルティナの声が耳に飛び込んできた。

 顔を上げれば、真っ黒い何かが僕に向かって迫ってきていた。

 それは……。

 『闇色に煌めく巨竜ダークネスグリッタードラゴン』が振り回した尻尾の先端だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ