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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第53話 討伐依頼

「もう、メルティナ。食料、買い込みすぎだよ」

 僕は口を尖らせた。

「必要なんだから、しょうがないじゃない」

 バジールの街から東にあるメギドの街までは、たった二日の距離だ。

 メルティナは店の人に乗せられて、多めに食料を買い込んでいた。

 まあ、食べるからいいんだけれど。

 多すぎても持ち運びが面倒なんだよね。

 と、言いつつも、その荷物を運んでいるのは、僕の召喚獣である漆黒のひょうだ。

 名前は、クインエリス。

 漆黒の体毛を持つ黒豹の召喚獣。

 全身黒づくめだけれど、彼女の双眸そうぼうだけは真紅に染まっていた。

 鋭い牙と爪を持っている。

 そのクインエリスの背には、鞄が括り付けてある。

 その中には、食料と水が入っている。

 バジールの街で買い足したんだけれど、結構高かった。

 魔物が迫ってきていることを知っている店主は、高めの金額で食料品を販売し、一稼ぎしていた。

 メルティナは、食料の確保のために奮闘し、やや多めに食料を買い込んでいた。

 そのため、お金が一気に減ってしまった。

 まあ、次のメギドの街で冒険者の仕事をすれば、いいだけだから問題はないけれど。

 メルティナには、実入りの良い仕事を引き受けてもらわなくっちゃね。

 僕は、食料や水の入った荷物を背負わせたクインエリスの背にまたがり、メルティナは並走するように街道を歩いて行く。

「クインエリス、大丈夫?重くない?」

 僕は、黒豹の召喚獣に向かって尋ねる。

 クインエリスは、顔を僕の方に向けると首を上下に振った。

「それなら、いいんだけれど……」

 出発する際にクインエリスが乗れと言わんばかりに身を屈めたので、いつも通りに背にまたがってしまったけれど、荷物を背負わせてなおかつ僕が背に跨ったらクインエリスの負担になってしまわないかと不安になってしまった。

 けれど、問題ないみたいだ。

 力強い足取りで、一歩一歩踏み出していっている。

 雲一つない空は徐々に夕暮れ色に染まりつつある。

 もうじき夜が訪れる。

 バジールの街からそれなりに離れたけれど、街の外での野宿は魔物に襲われる危険性がある。

 かといって、あのままバジールの街にいたら巨大な魔物がやってきていたかもしれない。

 そうならないように冒険者たちが討伐隊として派遣されたのだけれど、どうなっただろうか?

 無事に討伐してくれると、ありがたいんだけれど。

「もうじき夜になるから、今日はここで野宿しよう」

 僕が提案した。

「そうね。無理して進んでもしょうがないものね。とりあえず、あの街から離れれば大丈夫なはずだし……」

「あれ?メルティナは、討伐隊の冒険者が魔物を倒してくれるって思っていないの?」

 メルティナの言葉から、そんな風に感じ取ったので、僕は聞いた。

「退治してくれると思うけれど、万が一、討伐できなかったことを考えれば、街から離れておくのが最適解でしょう?」

 もしものことを考えれば、そうだけれど。

 二十人くらいの強そうな冒険者が集まっていたんだから、魔物は討伐されると思う。

 けれど、相手は街を壊滅させるくらいの魔物だ。

 実際に、この目でどんな魔物なのかを見ていないので、何とも言えない。

「そうかもね……」

 相槌だけは打っておいた。

「メギドの街に行ったら、何か仕事を引き受けてよね?メルティナ?」

「どうして?」

「お金をもう少し確保しとかないと、余裕がないんだよ」

「無駄使いしすぎじゃないの?」

 ジト目で、メルティナが僕のことを見てくる。

 僕は無駄使いなんてしていない。

「メルティナが高い食料を買い込むからだよ」

「それは必要だったからでしょう?」

「でも、必要以上に買っちゃうからだよ」

「はいはい、わかったわよ。ギルドで仕事を引き受ければいいんでしょう?」

 メルティナは破れかぶれといった感じだった。

 どうせ、引き受けたところでメルティナが何かをするわけじゃない。

 僕の召喚獣たちが、メルティナに代わってするだけなのだから。

「私に出来るお仕事……あるかしら……」

 メルティナがポツリと小さな声で呟いていた。

 あれ?自分でやる気なのかな?と思ったけれど、そこは余計なことは言わずに僕は口をつぐんだ。




「ここがメギドの街?」

「バジールの街よりも、でっかい所だね」

 メルティナと僕は、街を囲む城壁に設置された鋼鉄製の門を潜り抜けて、感嘆かんたんの声を漏らしていた。

 目の前に広がるのは、大きな街路。

 街を十字に走るメインストリートと呼べるこの街路には石畳が敷かれ、しっかりと整備されていた。

 赤茶けたレンガ造りの家々が立ち並び、三階建てと思われる建物が多くひしめき合っている。

 なかなかこんなにも大きな家々が立ち並んでいる街は見たことがない。

 街の景観は、まとまりがあって荘厳そうごんであった。

 街を囲む城壁も三階建ての建物の倍以上に高くなっていた。

 城壁の上には物見櫓ものみやぐらのようなものが点々と設置されていて、人影も見える。

 剣や槍などを携えた人達が物見櫓から街の外を監視するように視線を向けていた。

 一言で言うと要塞と言ってもいいような街だった。

「どいてくれ」

「通してくれ」

 門を潜り抜けた先に佇む僕たちの背後から、突如そんな声がかけられた。

 振り返ると、街の外から荷車を押して来る人が見えた。

 二人で荷車を押している。

 その上には何かが乗っている。

 人だ。

 僕とメルティナは、慌てて道を開けるように避けた。

 すれ違いざまに見えたのは、荷車に乗せられた男の人だった。

 鎧を身に着けていたけれど、兜は被っていなかった。

 顔は血まみれだったし、鎧の胸元も真っ赤に染まっていた。

 左腕がなかったように見えたのは気のせいかな?

 負傷したと思われる男の人は荷車で街の奥へと運ばれていった。

「今のは、何?」

 メルティナが、ぽつりと呟いた。

「魔物にやられちゃったのかな?」

 僕はクインエリスを見上げながら聞いた。

「そのような感じに見えたね」と答えてくれた。

 クインエリスは、今は人の姿をしていた。

 さすがに黒豹の姿のまま街の中に入るのはまずい。

 魔物と勘違いされて攻撃されてしまうからだ。

 だから、街の中に入る前に僕は魔法陣を描き出し、黒豹の姿だったクインエリスを人間の姿に戻しておいた。

 彼女は、エナメル質のテカテカした素材でできた黒い服を身に着けている。

 身体にぴったりとフィットした服なので、クインエリスの豊満な肉体美がより強調されているようにも思う。

 所々にベルトのようなものも巻かれている。

 何の意味があるのかよくわからないけれど、そのベルトがクインエリスの身体の肉感を際立たせていた。

 漆黒の艶やかな長い髪を無造作に伸ばして膝のあたりにまで垂らしている。

 頭には獣の耳がぴょこんと生え出ているのが可愛らしいと僕は思っている。

 身にまとっているものが黒一色なので、生白い肌は透き通るガラスのように綺麗に見えた。

 端正な顔立ちの中に切れ長の瞳は鋭く尖り、怖い印象をもたらしている。

 さらに真紅しんく双眸そうぼうが、それを強調しているようにも思う。

 一見怖そうな感じにも見えるけれど、繊細ですごく優しいのがクインエリスだ。

 まあ、優しいのは僕だけに……なのかもしれないけれど。

「大きな魔物の仕業ってわけじゃないわよね?」

「違うと思いたいけれどね」

 冒険者は常に危険と隣り合わせだ。

 予想だにしなかった魔物と遭遇してしまうことなんて、当たり前のようにある。

 冒険者ギルドは、冒険者に依頼を出す際には生態調査を行う。

 討伐対象の魔物がどこにいるのかとか、その規模や数などを調査してそれを依頼にする。

 けれど、時には魔物が増えていることもあれば、魔物同士での小競り合いによって減っているなんてこともある。

 もしかしたら、さっきの人は予想だにしなかった魔物にでも襲われて、ああなったのかもしれないね。

「とりあえず、冒険者ギルドに行って何か仕事を貰おうよ」

「ええ……そうね」

 メルティナから生返事が返って来た。


 僕たちは街の中を歩き、冒険者ギルドを目指す。

 どこの街も冒険者ギルドは、街の中心にあることが多い。

 この街も例外に漏れず、街の真ん中にある広場の周辺にひときわ大きな建物が鎮座していた。

 それが、冒険者ギルドだった。

 これまた周囲の建物と同じく赤茶けたレンガ造りの三階建ての建物で、横に長かった。

「街もでっかいと、ギルドもでっかいね」

「そうみたいね」

 僕とメルティナは、目の前の建物……冒険者ギルドを見上げていた。

 しばらく見上げた後。

 僕たちは冒険者ギルドの中へと足を進めた。

 ギルド内には、冒険者は少なかった。

 それに関しては拍子抜けするほどだった。

「人は少ないね」

 あまりに少ないので僕は呟いた。

 受付のカウンターは、十個ほどある。

 冒険者の対応をしているのはそのうち五つほどで、残りのカウンターにいる受付嬢は暇を持て余しているような感じだった。

 僕は、暇そうにしている受付嬢の一人に歩み寄る。

 僕たちが近づいていることに気が付いたその人は、欠伸あくびを噛み殺してはにかんだ笑顔を作って迎えてくれた。

「メギドの街の冒険者ギルドへようこそ。ご用件をうかがいます」

 オレンジの髪をした人で、ショートヘアーが良く似合う。

「お金がいっぱいもらえる仕事を紹介して」

 僕はカウンターに手をかけて、目いっぱい背伸びをする。

 何とか目元がカウンターの上に来るけれど、この体勢はちょっとしんどい。

 つま先立ちの僕は、足がプルプルしていた。

 見かねたクインエリスは、僕の身体をひょいと持ち上げてくれた。

 荷物のように小脇に抱えるのは、やめてほしいかな。

 首を傾けてクインエリスの方に視線を向けると、何?といった感じでクインエリスが首を少しだけひねっていた。

 クインエリスとは、意思の疎通そつうがまだまだなようだ。


挿絵(By みてみん)


「え~と……君は冒険者なのかな?それともそちらの二人がそうなのかな?」

 オレンジ髪の受付嬢は、僕に視線を向けた後、クインエリスとメルティナに視線を向けていた。

「メルティナが冒険者だよ」

 僕は、左隣に立つやや小柄な女性を指さした。

 深緑色の洋服の上に紫と赤のド派手な軽装鎧を身に着けている。

 ドワーフ族のリベリアという女性が作ってくれた鎧だ。

 打撃に対して強い耐性を持つスネークドラゴンという魔物の皮と鱗を使用して作られている。

 そのため、鬼王オーガキングの金棒で殴られるという激しい衝撃こうげきを受けても、鎧がそれを吸収してくれてメルティナ自身は無傷だったという優れものの鎧だ。

 でも、リベリアが言うには、無敵の鎧ではないらしい。

 鎧が吸収できないほどの激しい攻撃を受けた場合には、壊れてしまうようなことを言っていた。

 それにしたって、金棒で殴られても平気だったんだから、どんな攻撃だったら鎧が耐えきれないのか想像がつかない。

 まあ、この鎧のおかげでメルティナは生き残っていると言ってもいい。

 そんなメルティナは、背に斧槍ハルバードを背負っていた。

 小柄なメルティナとほぼ同じくらいの長さの斧槍ハルバードだ。

 これを背負っているので、冒険者らしく見える。

 もしも斧槍ハルバードがなかったら、とても冒険者とは見てもらえないようなそんな雰囲気の容姿をしていた。

 だから、受付嬢はメルティナよりも少しだけ背が高いクインエリスの方が冒険者の風格があると思ったのだろう。

「冒険者証明書をお願いします」

 受付嬢は、うろんげに見詰めながらメルティナに向かって提示を求めた。

「はっ……はい……」

 メルティナは、素直に一枚の紙切れを背負っていた背負い袋ナップザックから取り出すと受付嬢に手渡した。

 いつもは提示することを極端に嫌がるけれど、今回はメルティナが高額な金額を吹っ掛けられた食料を無駄に多く買い込んだせいで所持金が心許無こころもとなくなってしまったという自覚があったからだろうね。

「拝見します」

 受け取った冒険者証明書を開いて、すぐさま受付嬢の顔色が変わった。

「へっ?メルティナ・メーベリアさん……」

 驚きと戸惑いが入り混じった声が漏れていた。

「凄い……称号をこんなに……」

 驚くのは無理もない。

 メルティナの冒険者証明書には、とんでもない記録が記されている。

 ブレスフェンリルやメイジキマイラなどの珍しい魔物の討伐や竜族の魔物ドラゴンの一種でもあるスネークドラゴンを十匹以上討伐したことや大量発生したゴブリン六百匹以上を数刻で討伐したなど、普通の人では成し得ないような記録の数々が大々的に書かれている。

 それとともに各種の称号だ。

 『龍殺しドラゴンスレイヤー』、『巨漢殺しトロルバスター』、『小鬼殺しゴブリンスレイヤー』、『人形破壊者ゴーレムクラッシャー』、『鬼殺しオーガキラー』の六つもの称号を授かっている。

 これは欲しがってもなかなか手に入れることはできない代物だ。

 そんなものが記録されているメルティナの冒険者証明書を見れば、誰だって驚くことだろう。

「え~と……なんて言っていいかわからないですけれど……こんなもの凄い内容見たことないです……」

 受付嬢は、驚きと尊敬が混じり合ったような声を漏らした。

「あはははは……」

 メルティナは、どう答えていいのかわからず、乾いた笑いを漏らして僕に視線を向けていた。

 メルティナの実績ではないことは、僕と僕の召喚獣たちくらいしか知らないからね。

 誰でも驚くのは無理もない。

「ああ、そうだ」

 受付嬢は、突然声を上げた。

 手元にあった依頼書の束を急にまさぐりだした。

「これ……これをメルティナさんに、お願いしたいんですけれど」

 依頼書の束の中から一枚の紙切れを探し出して、受付嬢はカウンターに置いた。

 僕たちは、その紙切れを覗き込む。

「『水神みずがみの神殿の安全確保』……?」

 メルティナが依頼書に書かれていたタイトルを読み上げた。

「安全確保って、どういうこと?」

 僕は、クインエリスに小脇に抱えられたまま、受付嬢に視線を向ける。

「このメギドの街の北に行ったところに湖があるんです。そこには水神様みずがみさまを祭る神殿があって、この街の人たちはその水神様に祈りをささげに行くことがあるんですが……その神殿のそばに魔物が現れるようになってしまいまして……」

 困り顔をしながら、受付嬢は無意識だと思うけれど右手の人差し指で依頼書をコツコツとつついていた。

「魔物の討伐に向かった冒険者がいたのですが、かなり凶悪な魔物の様で、つい先ほど返り討ちに遭って戻ってきたようなんです……」

 あれ?それって、この街にやって来た時に荷車に乗せられて運ばれた冒険者っぽい人がいたけれど、もしかしてその人のことかな?

「あの血まみれで運ばれていた人のことなのかしら?」

 顎に手をあてがいながら、メルティナが小さく声を漏らしていた。

 僕と同じことを思ったみたいだ。

「ご存じなんですか?」

「多分……その人だと思うんですけれど、この街に到着した際に荷車に乗せられて運ばれるのを見ました」

「血塗れで、左腕がなかったみたいだったよ」

 その時、ちらっと見えたことを僕が補足した。

「そうです。魔物に左腕を切り落とされたらしいです」

 受付嬢の表情が、やや青ざめたように見えた。

「その魔物って奴は、どんな奴なんだ?」

 気になったのか、クインエリスが尋ねていた。

「キラーマンティスです」と受付嬢は答えた。

「キラーマンティス?」

 僕とメルティナの声が同時に重なり合ってハモった。

「『殺し屋蟷螂キラーマンティス』は、巨大な蟷螂かまきりの姿をした魔物です。両手が鋭い鎌のような形状をしているので殺し屋の異名を持っているんです。それが二体もいて……」

 うわ~……蟷螂かまきりの形をした魔物だって。

 鎌のような腕であの冒険者は斬りつけられて、左腕を失ったんだろうと容易に想像ができた。

 かなり危険な相手っぽいなぁ~。

「神殿には、女性や子供が祈りを捧げに行くことが多いので、このまま野放しにしておくわけにもいかないんです。並の冒険者ではあっさりと返り討ちに遭うだけですので、こんなにもすごい実績を持つメルティナさんであれば討伐できると思いますので、引き受けてもらえませんか?」

 カウンターにおでこを擦り付けながら、受付嬢は懇願こんがんしてきた。

 メルティナは、どうしよう?といった様子で僕とクインエリスに助けを求めるかのような視線を送って来た。

「やれそう?」

 僕は小声でクインエリスに尋ねる。

 クインエリスは、フッと口元を楽し気に緩ませると頷いた。

 自信ありげに頷いてくれたので、僕はメルティナに「受けてあげたら」と後押しした。

「じゃっ……じゃあ、受けようかしら……」

 やや棒読み感が半端なかったけれど、メルティナはその依頼を受ける旨を伝えた。

「本当ですか?受けてもらえるんですね?ありがとうございます、メルティナさん」

 顔を上げ、パッと笑顔を見せる受付嬢。

 すぐさま、手元にあったメルティナの冒険者証明書に書き込みを始めた。

「ねえ、その水神様の神殿って遠いの?」

 僕は気になったので確認するために聞いた。

「いいえ、凄く近いです。女性や子供でも歩いて辿り着けるくらいの距離ですから、本当に目と鼻の先です」

 書き込みをしながら受付嬢は答えてくれた。

「じゃあ、同行者は?」

「必要ないです。今からメルティナさんたちが向かったとしても、お昼前には戻ってこれますね。」

 受付嬢の言葉を信じるのであれば、ものすごく近い距離のようだ。

 今は、日が昇り出してある程度の時間が経過している。

 お昼までは、あと数刻ほどだ。

 今から向かってもお昼になる前に戻って来れるってことは、本当に近くということになる。

 すぐに確認もできるってことだろうから、同行者はいらないね。

 まあ、同行者がいない方がやりやすい。

 クインエリスに、ちゃちゃっと退治してもらえばいんだからね。

「ほ~う……報奨金も結構いい感じだね」

 書かれている金額を見て、僕は頷いた。

「ああ、これですか?これはもう少し増えますよ。失敗した人の違約金が報酬に加算されますので、これくらいになります」

 受付嬢は、記載されていた報奨金を書き直していた。

 書かれていた金額が大幅に増えた。

 ギルドでは依頼を受けて成功させると報奨金がもらえる。

 でも、依頼を失敗した場合には、依頼を受けた冒険者が違約金を払うことになっている。

 その違約金は、同じ依頼に報奨金としてプラスされることになっているらしい。

 だから、今受けた依頼は、失敗した人の違約金が加算されて増えたのだった。

 僕たちが、この依頼を達成できなかった場合には、違約金が発生してさらに報奨金が増えるという仕組みだ。

 でも、それはない。

 だって、この殺し屋蟷螂キラーマンティスとかいう魔物は僕たちが……正確には僕の召喚獣たちがやっつけちゃうから、これ以上違約金は発生しない。

 僕たちが、この報奨金を貰うのだから。

殺し屋蟷螂キラーマンティスを二体……」

 メルティナは、依頼書に視線を落としていた。

 何かを決意したような硬い表情をしていた。

 まさか、メルティナは戦うつもりじゃないよね?

 粘液状生物スライムですらまともに退治できない人が、腕が鎌みたいになっている魔物相手に立ち振る舞えるわけないのに。

「気を付けてくださいね、メルティナさん。すでに二人の冒険者が返り討ちに遭っていますので……」

 えっ?

 二人も殺し屋蟷螂キラーマンティスに返り討ちにされているの?

 相当、手ごわい相手かもしれない。

 でも、クインエリスなら大丈夫だよね?

 ちょっと心配になって来ちゃった。


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