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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第51話 不穏な噂

挿絵あり。

 ランドレイクの街から街道を南下して、四日目のお昼頃。

 僕たちは新たな街へと辿り着いた。

 城壁に囲まれた街で、開け放たれていた鋼鉄製の門を潜り抜ける。

 たくさんの人々がせわしなく街中を行き交っている。

 商人と思われる人たちが大荷物を荷車に積み込んでいる光景が特に目を引いた。

 商業が盛んな街なのかな?

 それにしては、何かが変だ。

 商品を店の中に運び込んでいるわけではなく、店の中から外へと運び出している。

 武器屋や防具屋、雑貨屋など、どのお店も同じようなことをしていた。

 しかも、何やら慌てている様子に見えた。

「人が、いっぱいだね?」

 街中を埋め尽くすほどの人の往来を目にしながら、僕はぼそりと呟いた。

「そうね……引っ越しでもしているのかしら?」

 メルティナの目にも、商人たちの行動が不審に映ったみたいだ。

「夜逃げでもするかのようですね……」

 僕の隣には、長身の女性が立っていた。

 彼女が、そう漏らしていた。

 燃えるような真っ赤な髪の毛を頭の左右で束ねて長く垂らしている。

 彼女の赤い髪には、所々に金と銀の髪が混じっていた。

 赤色の髪というだけでも目立つのに、そこに金と銀の髪が申し訳程度に入り混じっているので、より目立つ。

 しかも、彼女の右目は金色で、左目は銀色というオッドアイの持ち主でもある。

 その優しげな瞳は、清楚で清廉潔白さをより際立たせていた。

 容姿端麗で、スタイルは抜群だ。

 スラッとした体型ながらも、出ているところは出ているし、太っているという印象も受けなければ、瘦せすぎているという感じもしない。

 絶妙なバランスを保っているまさに彫像のごとき美しさを持った女性だった。

 人によっては、天使や女神といった崇高な存在のように彼女のことが目に映るだろう。

 彼女は、髪の毛と同じ真紅のドレスに身を包んでいる。

 一見すれば、踊り子の様な感じにも見えなくはない。

 その彼女のドレスの背中はぱっくりと開いており、艶めかしい素肌が丸見えだった。

 けれど、その素肌には何やら模様の様な異物が貼りついている。

 赤、金、銀の三色が入り混じった手の様な形をした模様。

 よくよく見れば、それは小さな翼のような形に見えるだろう。

 それはそうだ。

 彼女の背中には、翼が生えているのだ。

 けれど、今はその翼を使う必要はないので、大きな翼を折り畳み、背中に張り付かせたような状態になっていた。

 彼女の名は、フォートレスティー。

 僕の召喚獣の一人でもある。

 彼女は、鳳凰の召喚獣なのだ。

 つまりは、鳥だね。

 だから、人間の姿の時には背中に翼が生えた姿をしているんだけれど、その翼は状況によって折り畳んで収納ができるらしい。

 だから、一見すると背中に入れ墨の様な模様に見える。

 近づけば翼だってわかるけれど、人間に翼は生えていない。

 だから、その翼を本物だと思う人はいない。

 ましてや、フォートレスティーが僕の召喚獣だと思う人もいない。

 いるのは、フォートレスティーの美しさに見惚れてしまう男の人たちくらいかな。

 せわしなく行き来している人の中で、数人の男の人たちが歩みを止めてフォートレスティーに熱い眼差しを向けていた。

 それほどまでにフォートレスティーは、美を具現化したような人なのだ。


挿絵(By みてみん)


「メルティナ。お腹空いたから、ご飯食べない?」

 お腹の虫が、飯をよこせと鳴いている。

 朝ご飯は、干し肉を数枚かじっただけだった。

 ちょうどお昼ご飯時だし、街に辿り着いたのだから、美味しいご飯にはありつきたかった。

「そうね。私もお腹が空いたわ。どこかで何か食べましょう」

 メルティナも同意してくれたことだし、行き交う人々の喧騒をすり抜けながら、僕たちは食事ができそうなお店を探して街の中を歩き出した。



 一軒の飲食店が目に入ったので、僕たちは迷わずその店に入った。

 お昼ご飯時なので多少込み合っていたけれど、何とか僕たち三人が座れる席が空いていたので、陣取った。

 ウエイトレスのお姉さんが近寄ってきて注文を取りに来てくれた。

 僕は適当にお薦めで美味しい食べ物と飲み物をお願いした。

 メルティナは、シチューにパン、チーズとぶどうジュースを頼んでいた。

 フォートレスティーは、何も頼まなかった。

 召喚獣であるフォートレスティーは、何も食べなくても平気らしい。

 お腹が空いたりしないのかな?と思うけれど、他の召喚獣の皆も食事をする必要がないので食べたり飲んだりしているところを見たことはほとんどない。

 食べたり飲んだりできないわけじゃあないけれど、必要性がないからしないだけみたい。

 お腹が空いたりして、ひもじい思いをしなくて済むのは羨ましいけれど、美味しいものは食べたいと思うよね。

 美味しいものを食べることが生きることの醍醐味の一つでもあると僕は思う。

 そう言えば、眠る必要もないってのも羨ましい。

 まあ、寝ないと夜が長くて飽きちゃいそうだけれど、召喚獣の皆は眠る必要がないので、夜通し僕の護衛をしてくれる。

 そんな召喚獣の皆には感謝しかない。

 食事を楽しんでいる周囲の人々の食べているものを覗き込みながら、僕は早く料理が来ないかなと待ち遠しい思いをしていた。

 料理をカートに乗せて、ウエイトレスの人がやって来た。

 手早く僕とメルティナの前に食事が置かれていく。

「フォートレスティーは、本当に食べなくていいの?お金のことなら気にしなくていいんだよ?」

「ふふふ、わたくしたちは、食べる必要がありませんから。気になさらずにヴィオ様は、お食事をお楽しみくださいませ」

 背筋を正して椅子に座るフォートレスティーの佇まいは、とても優雅であり美しい。

 食事をしている男の人たちの視線が、自然と彼女に向けられている。

 彼女の美しさに見入っているみたいだ。

「じゃあ、遠慮なく……」

 僕は、お皿に盛られたソーセージに手を伸ばした。

 美味しそうな焦げ目がついたソーセージからは、暖かな湯気が立ち上っていた。

 フォークで突き刺すと、肉汁が飛び出した。

 それを口に運んでいただく。

 パリッと気持ちの良い音を立ててぜる。

「んお?美味しい」

 熱々で肉の旨味がじゅわりと溢れ出て口の中に広がっていく。

 こんなに美味しいソーセージは初めてかもしれない。

 あまりにも美味しくて、次々に口に運んでいく。

 食べた時の爆ぜる音が心地良いし、この焼き立ての熱々なのがまた良い。

 六本あったソーセージは瞬く間に僕のお腹の中に消えていった。

 コーンスープとパンもあったので、それも食べていく。

 パンはちょっと固めだったから、コーンスープに浸してから食べるとちょうどよい柔らかさで食べやすかった。

 ソーセージがあまりにも美味しかったので、パンとコーンスープの味はまあまあって感じだったかな。

 不味かったわけじゃないけれどね。

「このチーズとシチュー、美味しいわよ」

 メルティナも頼んだご飯がお気に召したみたいで、満足そうに食していた。

「ふい~……お腹いっぱい……」

 ポコリと膨れたお腹を擦りながら、僕は椅子の背もたれに身体を預けていた。

 ついついゲップも出てしまうというものだ。

「ヴィオ様。はしたないですよ」

 柔らかな声でフォートレスティーが僕のありさまを見ながら諭すような口調で言った。

 怒っているわけではない。

 僕の態度がだらしないので、それを注意してくれているだけだ。

 それはわかっている。

 けれど、お腹いっぱいで苦しいので許してほしい。

 もしも、フォートレスティーが本気で注意してきたのなら、僕の態度を改めるようにさらに小言を言ってきたはずだけれど、彼女はそれ以上は何も言わなかった。

 軽く注意する程度で、いつもとどめてくれている。

「ソーセージが美味しすぎだよ」

 満足気に言葉を漏らすと、フォートレスティーは少しだけ呆れたような表情を見せた。

「そんなにソーセージ美味しかったの?私も頼めばよかったなぁ~」

 残念そうにメルティナが呟いた。

 彼女もお腹いっぱいなようで、動けないようだった。

 久々に美味しいご飯にありつけたので、ついつい食べ過ぎてしまった。

 僕たちが、食後の時間をまったりと過ごしていると、周囲の人たちの話し声が耳に飛び込んできた。

 別に聞きたかったわけじゃない。

 しゃべっている人たちの声が大きかったってのもあるし、僕たちが食事を終えていたから周囲の声が聞き取りやすかっただけだと思う。

「おい、聞いたか?」

「あん?何をだよ?」

「あれだよ、あれ。バカでかい魔物の噂だよ」

「はぁ?バカでかい魔物の噂?なんだそりゃ?」

「知らねぇ~のかよ。街を壊滅させた魔物の話だよ」

「初耳だな。また法螺話ほらばなしじゃないのか?いつもの……」

 男の人たち二人組の声だった。

 僕たちの斜め前に座っている二人組の話し声だ。

「俺がいつ法螺ほらを吹いたよ?」

「いつも吹いているだろう?自覚がないのかよ?」

「んなもん、あるわけねぇ~だろが。これは本当の話だぞ。四つの街がバカでかい魔物に襲われて壊滅したって冒険者から聞いたんだ」

阿保あほらしい……街を四つも壊滅させるような魔物がいるわけないだろう?そんな話聞いたことないぞ。それに街を襲うような魔物は冒険者ギルドが対処に乗り出すだろう?」

「それがさ、送り出された冒険者たちは全滅したって話だ」

「やっぱり法螺話ほらばなしだな。冒険者たちが全滅したのに、どうやって冒険者からその話を聞いたんだよ?」

「いや、でも……本当に冒険者から聞いた話なんだぜ。信じてくれよ」

「お前の話は信じるとろくなことないからな。冗談として聞いておくよ」

「ちぇっ……本当だって。この街にその魔物が向かってきているらしいんだよ。だから、その情報を聞きつけた商人どもは逃げ出し始めているだろう?」

「!?……そう言えば……今日は、荷物を店から引っ張り出している商人たちを何人も見かけたな……魔物の話しは本当なのか?」

「だから、本当の話しだって言ってるだろう?」

「だったら、こんなところで悠長に飯食っている場合じゃないだろう?俺も逃げる準備しなけりゃよ」

 男の人は、座っていた椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がった。

「あれ?信じてくれるのか?俺の話を?」

「信じるとも。お前の話じゃなく、商人たちの行動をな。がめついあいつらが商売そっちのけで逃げ出そうとしているんだから、俺はそれを信じる」

 男の人は、店の外へと駆け出していった。

 同じテーブルに座っていた男の人は一人取り残される形になった。

 樽ジョッキの中身を喉に流し込み、テーブルに置いたと同時に「あっ!」っと声を上げていた。

「お前、ここの支払い、俺にさせる気かよ」

 慌てた様子で立ち上がると、すでに店外に立ち去った男の人を追いかけていった。

 あ~……この二人、無銭飲食してるよ。

 店の入り口付近にいた店員さんが、それに気づいて慌てて追いかけて行っていた。

「何?今の話?本当なのかしら?」

 テーブルに身を乗り出すようにしてメルティナが僕に視線を向けてきた。

「魔物が街を壊滅させたって話し?」

「それもだけれど、商人が逃げ出そうとしているって方よ」

 メルティナに指摘され、僕はこの街に辿り着いた時のことを思い出した。

 確かに、商人たちがお店の中から商品を引っ張り出して荷車や馬車に積み込んでいるところを目撃していた。

 それも一人や二人ではない。

 何人もの商人らしき人たちが同じような行動をしていた。

「あの男の人たちの話しが本当だとしたら、商人ギルドから魔物がこの街にやってくるって情報が入ったのかもしれないわよ」

「その可能性は大いにありそうですね。だから、夜逃げでもしようとしているとわたくしは感じたのかもしれません」

 フォートレスティーは、この街に来た時にそんなことを呟いていた気がする。

「街を壊滅させるような魔物か……どんな魔物か見てみたいね」

 僕は興味にかられた。

 人々が暮らす街を壊滅させるなんてことは、そう簡単にはできないはずだ。

 それぞれの街には冒険者ギルドなどがあって抵抗するはず。

 でも、さっきの男の人たちの話しの中で冒険者が全滅したとか言っていたような……どれほどの冒険者が立ち向かっていったのかはわからない。

 人の話は、尾ひれがついて極端に大きくなって伝わることがある。

 僕は、そんな気がするんだけれど。

「この街に向かってきているんだったら、私たちも逃げ出さないとやばいんじゃない?」

 メルティナは、さっきの男の人たちの話しを信じているみたい。

 正確な情報かもわからないのに、慌てふためいて行動を起こすは骨頂こっちょうともいえる。

 ここは正確な情報を掴むべきだと思う。

「冒険者が全滅したってことならさ、冒険者ギルドに正確な情報が入ってきているかもしれないから、確認しに行こうよ」

 僕が提案する。

 間髪入れず「嫌よ」とメルティナが拒否を示した。

「冒険者証明書を見せたら、絶対に私に討伐してほしいってギルドは言って来るもの」

 あ~……なるほどね。

 メルティナは、これ以上自分の冒険者証明書に自分の実績ではない記録が刻まれるのが嫌みたい。

 すでに『龍殺しドラゴンスレイヤー』とか『巨漢殺しトロルバスター』などの称号までもらっているんだから、今更そんなものが一つや二つ増えたところで大差ないと思うんだけれどな。

「言われたっていいじゃん。どうせ、戦うのはメルティナじゃないし。フォートレスティーたちが戦うことになるだけだし」

 僕は、隣に座る赤髪の女性に視線を向けた。

 フォートレスティーはにっこりと微笑むと「街を壊滅させるような魔物と戦える力は、わたくしにはありませんよ」と静かに言葉を吐きだした。

 確かに、今の人間の姿をしたフォートレスティーには戦う力はない。

 僕の召喚獣たちは、それぞれ違った能力を持っている。

 その力は、動物の姿の時と人型の時で発揮できる能力も変わってくる。

 フォートレスティーで言えば、今の人型の時は背中の翼で空を飛ぶことができるだけで、戦いはからっきし向いていない。

 武器を扱って魔物と戦っている姿を見たことはないし、格闘術なども振るった姿は見たことがない。

 では、動物の姿の時はどうかというと、『審判の炎ジャッジメントフレイム』という能力が使える。

 燃え盛る炎で敵も味方も包んでしまう技だ。

 でも、味方と判断した人には危害を加えることはない。

 むしろ怪我などを治してしまう能力がある。

 さすがに致命傷を治すことはできないけれど、多少の怪我であれば治すことはできる。

 あくまでも自然治癒で回復できる範囲の傷を治すだけだけれどね。

 逆に敵と判断した相手は、炎で焼き尽くすことができる。

 でも、どんな相手でも焼き尽くせるわけじゃない。

 魔法……特に炎に対する強い耐性を持っていたり、大型の魔物は炎で包み込むことができず、攻撃が中途半端になってしまうことがある。

 召喚獣の力は万能ではない。

 使い方によっては有効に働くけれど、使い所を間違うと危機に陥ることがある。

 それを見極めるのは、僕の務めでもあるのだけれど。

「僕には、モグリーナやドラグリアの様な戦いに強い召喚獣がいるから大丈夫だよ」

「でも、モグリーナさんは……」

 メルティナの消え入るような声。

 そうだった。

 モグリーナは、今は呼び出さないでほしいと言われていたっけ。

 ランドレイクの街で、魔導士のおじいさんが冒険者を魔物に作り替えていたって事件があった。

 あの時、モグリーナは魔物と思って次々に倒していったものは、全て元冒険者の人間だった。

 モグリーナは、その事実を知り、ショックを受けたようだった。

 だから、しばらくは召喚しないでほしいと言われたんだった。

 すっかり忘れていたよ。

 こうなると、モグリーナには期待できない。

「最強の召喚獣であるドラグリアがいるから何とかなるはず」

 僕の中で一番強いと思っている召喚獣は、トカゲの召喚獣でもあるドラグリアだ。

 異国の鎧兜に身を包み、刀と呼ばれる武器を扱う戦士だ。

 戦いに特化した人でもある。

 どんな魔物だってやっつけてくれる頼もしい召喚獣だと思っている。

「ヴィオ様。ドラグリアも無敵ではないのです。過信は禁物ですよ」

 フォートレスティーにいさめられてしまった。

 まあ、確かに過信している部分はあると思うけれど、僕は彼女の強さを信頼している。

「とりあえず、魔物の情報だけでも手に入れようよ。そうでないと、これからどう行動していいか決められないよ」

「確かにヴィオ様の言われるとおりだと思います」

 フォートレスティーは同意してくれた。

「はぁ~……しょうがないわね……私が冒険者なのは、口外しないでよね?」

 メルティナは睨むように僕に視線を向けてくる。

「わかったよ」

 僕は、その視線から逃げるように椅子から飛び降りた。


フォートレスティーの挿絵を追加。2026.04.14

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