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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第50話 運命の出会い

 イブリシアの街の中を探索して、どこにどんな施設があるのか多少把握することはできた。

 私がついこの間まで暮らしていた城郭都市じょうかくとしアヴァランシェアと比べれば、その四分の一程度の広さのイブリシアの街は遥かに小さい街だった。

 それでも飲食店や宿屋などは数も多く充実していて、冒険者御用達の武器屋や防具屋なども良い品が並んでいた。

 武器や防具は、それなりのお値段がするので、今の私には手が出せないけれどね。

 宿屋も、ギルドの職員が言ったようにちょっと割高な感じだった。

 だから、ギルドでお仕事を受けて格安で冒険者ギルドの建物の上階にある宿に宿泊できるのは非常にありがたいことだと感じた。

 飲食店の飲食代もかなり安く感じたし、料理のボリュームは満足が行くほどの量だった。

 食べきれないものは、そのままもらって帰った。

 料理は食べきったけれど、パンとか持ち帰れそうなものだけだけどね。

 新しい街は見るものすべてが目新しく新鮮だった。

 ちょっとだけ街の外にも出てみた。

 城郭都市アヴァランシェアとは違い、街の外へと続く鉄製の門は開け放たれていて誰でも自由に出入りができた。

 門のそばには数人の槍を携えた兵士はいたけれど、外に出る際には何も言われなかった。

 アヴァランシェアでは考えられないことだった。

 街の外に出ることは、死に繋がることだったから。

 それほどまでに人食い鬼オーガ巨漢トロルといった魔物は恐ろしいものだったんだと思った。

 イブリシアの街の外は、草原が広がっていた。

 街道が一本まっすぐに伸びている。

 その先に木が生い茂る森が見えた。

「あそこが薬草が採取できる森ね。明日、行って見ようかしら」

 目と鼻の先と思える距離だけれど、あと数刻で日が暮れる。

 行って戻ってくる頃には、辺りは真っ暗になっている可能性が高い。

 始めて来た場所で、いきなりそんな無茶をする気はなかった。

 魔物がうろついているような状況も確認できない。

 危険と隣り合わせの過酷な環境というわけではなさそうだった。

 なんとなくだけれど、冒険者としてやっていけるのではないかと、無駄な自信だけは湧いてきていた。

「明日から頑張ってみよう」

 自分にそう言い聞かせ、街の中へと戻った。




 次の日の朝。

 目が覚めた。

 でも、まだ日が昇るほんの少し前だった。

 新しい街に来て、やや興奮状態にあるのかもしれない。

 昨日の夜ごはんの際に食べきれなかったパンを貰ってきていたので、それを朝食としてゆっくりと食べた。

 その間に空は明るくなり、街に人々が徐々に溢れ出す。

「よし、とりあえず、今日は昨日確認した森に行って薬草を採取してみよう」

 やることを確認して、部屋を飛び出した。

 階段を下りて、一階にあるギルド内を通って行く。

 冒険者と思われる人たちが、ギルド内にはまばらにいた。

 壁に向かって何かを見ている人がほとんどだった。

 気になったので、それを覗きに行った。

 壁に掲げられたボードには何枚もの紙が貼られていた。

 依頼内容や報酬、期限や場所など仕事に関する情報が書かれた依頼書が貼りつけられていた。

「これって……何?」

 何かわからず見ていると、ひとりの男の人が「これにするか」と言って、紙を一枚手に取った。

 それを持ったままカウンターに行き、受付嬢と何やら話しをしていた。

 その様子を私は、じっと見ていた。

「じゃあ、行ってくる」

 男の人は、そう言ってギルドを出て行った。

 ここでやりたい仕事を選んで、受付嬢の元で手続きをすればいいのだろうと察した。

 今の私は、昨日の時点で『薬草の採取と納品』の依頼を受けているので、ここにいる必要はない。

 いずれはここで仕事を選んで、さっきの人みたいに仕事を引き受けて出発していくんだろうなといった想像を頭の中に巡らせていた。

「こんなことしている場合じゃないわね。薬草の採取に行かなくっちゃ」

 私は、ギルドを飛び出していった。


 イブリシアの街の東門から街道沿いにまっすぐに歩いて行く。

 目的の森は、すぐ目の前だ。

 薬草を採取して帰るだけ。

 簡単な仕事だと思った。

 街道を外れて森の中へと入っていく。

 初めて訪れる場所なので、あまり森の奥深くへは入らないように気を付けなければ、森から出られなくなり遭難してしまうかもしれない。

 そんなことにならないように、注意しながら薬草を探した。

「あった。これね」

 木の根元に生え出ていた葉っぱをもぎ取る。

 たくさん生えているものと思っていたけれど、なかなか見つけるのは難しい。

「もう少し奥に行かなければないのかしら?」

 そう思い、森の奥へと視線を向けた時だった。

 何か大きな白いものが動いた。

「なにあれ?」

 森の中に真っ白い何かがうごめいていた。

 気になってしまい、私はおもむろに近づいて行った。

 その時、真っ白い何かは魔物であると気が付いた。

 慌てて私は腰の後ろに備えていたボロナイフを手に握りしめた。

 即座に逃げればよかったのだけれど、逃げれない理由があった。

 真っ白い魔物のそばに小さな男の子がいたからだった。

 魔物に襲われている?

 そう思ったからだった。

 魔物と対等に戦えるかどうかなんて考えはなかった。

 子供を助けなきゃという思いだけがあり、私はナイフを握ったまま近づいて行った。

「君。大丈夫?」

 魔物の背後から声を掛けた。

 男の子は、なぜかゲロを吐いていた。

 魔物に襲われて、恐怖のあまりに吐いてしまったのだと私は思った。

「まっ……魔物から離れないと危険よ」

 自分の身の安全を確保しつつ声を掛ける。

 あまりにも近づきすぎないように、私は距離を取って足を止めた。

「魔物?」

 男の子は、不思議そうな表情をしながら私のことを見ていた。

 真っ白い魔物……それは見たこともないような魔物だった。

 大きなうさぎの魔物だった。

 魔物図鑑にも載っていない魔物だった。

 小さな子供がそばにいるから大きいと思ったけれど、そうではなかった。

 この真っ白い大きなうさぎは、私よりも大きな体格をしていた。

 とても私の持っているナイフでどうにかなる相手ではなさそうだった。

 でも、愛らしさのようなものは感じた。

 魔物特有の邪悪な感じもしない。

 不思議な魔物だった。

「大丈夫だよ。この大きなうさぎは僕の召喚獣だもん」

 男の子は、大きなうさぎから離れることはなく、そんなことを言いだした。

 召喚獣?

 おとぎ話とかに出てくる神聖な獣のことを召喚獣と呼んだりすることは知っているけれど、この目の前にいる大きなうさぎが召喚獣と言われても、私のイメージするものと大きく乖離かいりしていて理解に苦しんだ。

「それにミーティアは大人しいよ」

 男の子は、大きなうさぎを恐れた様子はない。

 逆にそのうさぎに抱き着いていた。

 うさぎも男の子に抱き着かれて嬉しそうな様子に見えた。

「本当に魔物じゃないのね?」

 疑いながらも尋ねる私に「こんなに可愛いのに、魔物なんて言ったら、ミーティアが悲しむよ」と男の子は口を尖らせて抗議の声を上げてきた。

 大きなうさぎも肩を落として悲しそうな表情をしているように見えた。

 私が悪いみたいな感じになっている。

 助けてあげようとしただけなのに。

「悪かったわよ。その大きなうさぎさんは君の召喚獣なのね」

 無理やり自分に納得させるように、私は男の子に向かって言った。

 もしこのうさぎが魔物であるならば、私やこの男の子はすでに襲われていることだろう。

 襲ってくる気配もなければ、暴れる気配もない。

 この男の子の言っていることを信じてあげるべきなのかもしれない。

 でも、何でこの男の子はこんなところにいるんだろうか?という疑問が湧いて出てきた。

「君は、こんなところで何をしているの?」

 ありきたりな質問を投げかけてみた。

「見てわかるように、ゲロ吐いていたよ」

 彼の足元にはゲロだまりがあった。

 うっ……汚い……。

 彼がゆびしたので、つい視線を向けてしまった。

「それはわかっているんだけれど……こんな森の中にいたら魔物に襲われるわよ」

「そんなの分かっているよ。気分が悪くなっちゃったんだからしょうがないじゃん」

 不機嫌そうに男の子は口を尖らせていた。

「君ねぇ……」

 ちょっと生意気な態度に感じ、私は声を上げた。

「君じゃないよ。僕にはヴィオっていう名前があるんだよ」

 黒髪の男の子は、じっと私のことを漆黒の瞳で睨みつけるように見つめながら、口を尖らせて名乗った。

 ヴィオ君っていう名前なのね。

 可愛い名前じゃない。

 態度は生意気そうだけれど。

「ああ、ごめんね。ヴィオ君ね。私は、メルティナ・メーベリアよ。小さい子供が魔物に襲われているのかと思って……」

「小さいって……これでも十二歳だよ」

 小さいと言ったことが気に入らなかったのか、ヴィオ君は不機嫌そうに声を上げていた。

「じゅっ……十二歳?どう見ても七~八歳くらいにしか見えないんだけれど」

 私が知っている十二歳くらいの男の子と比べると彼の背丈はかなり小さい。

 だから、年齢を聞いて驚いてしまった。

「そっちも三十五歳のおばさん?」

 男の子は言い返すように、私に向かってそう言ってきた。

 ちょっとカチンときたので、私は大人げなく言い返していた。

「失礼ね。これでもピチピチの十八歳なんだからね」

 胸を張りながら、私はそう宣言したけれど、自分でピチピチとか言っていたことを考えると子供相手に何言っていたんだろうと思ってしまう。

 これがヴィオ君との初めての出会いだった。




 今思うと、子供相手に何をムキになっているんだかと思って笑いが込み上げてきてしまう。

 その後にはキラーベアーという凶悪凶暴な熊型の魔物が現れ、召喚獣であるうさぎのミーティアさんが戦うことになるんだけれど、ヴィオ君が魔法陣を描いて大きなうさぎさんから人型に変貌したことには驚いたわ。

 獣の姿をした召喚獣って、人の姿にもなれるんだと初めて知ったけれど、これは彼の召喚獣だけの特殊な特徴みたい。

 人型になったミーティアさんは、なぜかバニーガールの格好をしているし、熊型の凶暴な魔物であるキラーベアーをあっさりと倒してしまうし、さらにはギルド所属の冒険者やギルド職員が現れて、私がキラーベアーを退治したことになっちゃったしで、とんでもない日になったわ。

 しかも、私の冒険者証明書には、キラーベアーの討伐記録が書き込まれてしまう羽目になっちゃった。

 冒険者になった二日目に、これってどうなの?

 ヴィオ君は、その後ミーティアさんと一緒にどこかに行ってしまった。

 そんなヴィオ君とは数日後に再会することになる。


 私が初めて請け負った薬草の採取と納品依頼を達成させ、小鬼ゴブリンがどんな魔物なのか知りたくて街から少し離れた場所を探索していた時だった。

 大きな岩が点々と立ち並ぶ場所に何かが動く影を見たので、私はそれが小鬼ゴブリンではないかと思い、無警戒に近づいて行ってしまった。

 岩陰から現れたのは、それは大きな大きな狼型の魔物だった。

 真っ白い体毛で覆われた身体の所々には、水色の毛が入り混じっていて、とても綺麗な狼だった。

 でも、私の姿を見つけると、鋭く尖った牙を剥き出しにして、うなり声を上げてきた。

 私はその姿に驚き「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ」と思わず叫び声を上げていた。

 あまりの恐ろしさに腰が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまった。

「ブレスフェンリル?どうしてこんなところに?」

 このイブリシアの街周辺には、小鬼ゴブリン犬人コボルトなどの小型の魔物が生息しているって聞いていたのに、私の目の前にいるのはかなりの大型の魔物だった。

 ブレスフェンリルは、主に寒冷地などの寒い地方に生息している魔物だと図鑑で見たことがあった。

 比較的暖かな気候と思えるこの街の周辺に現れるような魔物ではない。

 でも、目の前には実在している。

 ブレスフェンリルは、今にも飛び掛からんとしていた。

「ミーティア」

 不意に私の背後から男の子の声が響いた。

 刹那。

 私の横を素通りし、何か白いものが駆け抜けていった。

「大きなうさぎ?」

 見覚えのあるフォルムのものが目に入った。

 真っ白い大きなうさぎは、ブレスフェンリルに向かって飛び掛かっていき、飛び蹴りが狼の右頬に直撃して吹き飛ばしていた。

「やったー」と喜びの歓声を上げる男の子の声がする方を私は振り向いた。

「えっ?」と、思わず見開いた瞳でまじまじと見てしまった。

「でっかい、うさぎさん……?ヴィオ君……?」

 私の呟きに「メルティナ?」と男の子は声を張り上げていた。

 数日前に出会ったヴィオ君と偶然にも再会することになった。

 驚きとともに、助かったという安堵に私は包まれていた。

 この前会った時に、大きなうさぎさんには助けてもらっている。

 だから、私は安心することができた。

 でも、この時のミーティアさんは、私とヴィオ君を身をていしてかばってくれたことが原因で戦線を離脱することになってしまった。

 ブレスフェンリルが吐き出した氷の粒の直撃を受けてしまったからだった。

 戦えなくなってしまったミーティアさんの身を案じたヴィオ君は、召喚獣たちが暮らすという聖獣界せいじゅうかいというところに彼女を送り返していた。

 聖獣界というところにいれば、怪我などをした召喚獣は回復するらしい。

 ヴィオ君は代わりにキツネの召喚獣を新たに呼び出していた。

 これまた大きな体格をしたキツネの召喚獣だった。

 銀色の体毛を持つ、キツネの召喚獣、フェリアーナ。

 一見すると体毛は金属のようにも見えた。

 陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 この召喚獣もヴィオ君が描き出した魔法陣によって、人型へと姿を変え、ブレスフェンリルを素手で殴り倒していた。

 この時も先日に出会った冒険者とギルド職員とも再び再開することになり、冒険者となってまだ一週間も経たないうちに私の冒険者証明書には、キラーベアー二頭の討伐とブレスフェンリル一頭の討伐記録が書き加えられることになってしまった。

 そのため、私は凄腕の新人冒険者とギルド側は認識してしまった。

 もう、生きた心地はしなかった。

 大型の凶悪な魔物の退治を依頼されたら、襤褸ぼろが出てしまう。

 冒険者になったばかりなのに、どうしてこんなことになってしまったのかと困惑するばかりだった。

 だから、私はどんなことがあってもヴィオ君とともに一緒に行動するしかなくなってしまった。

 ヴィオ君もこころよく……いえ、今思い返すと、仕方ないなぁ~って感じで一緒について行って良い事になったような気がするわ。

 この時の私は、たとえ断られたとしても、ヴィオ君について行くつもりだったわね。

 それからいろいろと彼と彼の召喚獣とともに旅をしたっけ。

 ロックゴーレムに襲われたこともあったし、メイジキマイラなんてレアものの魔物と遭遇したこともあったわね。

 全てヴィオ君の召喚獣が撃破してくれたけれど、そのたびに私の冒険者証明書には討伐記録が書き込まれていき、どんどんとんでもない実績を持つ新人冒険者になっていってしまった。

 そうそう、そう言えば……ダインダーレスっていう人が作ったという迷宮にも行ったことがあったわね。

 そこでミノタウロスっていう化け物とも遭遇したけれど、これも犬の召喚獣であるシヴァリーヌさんが退治してくれたわね。

 その時に、ミノタウロスが使用していた斧槍ハルバードを私は持ち帰っていたっけ。

 売ってお金にしようと考えていたけれど、結局売りに行ったけど斧槍ハルバードは私が使うことにしたのよね。

 ……そう。

 ああ、そうだわ……。

 あの時、どうして私は斧槍ハルバードを売らなかったのか、今わかったわ。

 あの時は斧槍ハルバードって、かっこいいかもしれないって思ったけれど、私ったら無意識にあの人のことを意識していたのかもしれない。

 城郭都市じょうかくとしアヴァランシェアで出会った女性。

 私が冒険者を目指すきっかけになった女性……ロゼリアンナさん。

 彼女は短い槍ショートスピアを扱っていた。

 でも、その短い槍ショートスピアは柄が伸びて、普通の槍と同じくらいの長さになっていた。

 確か……『零槍れいそうゲイボルグ』っていう名の槍。

 私は、彼女が扱っていた長柄武器に憧れたのかもしれない。

 だから、それに似た武器であった斧槍ハルバードを手放さず、自分で扱うことにしたんだわ。

 彼女のように強くなれるような気がしたから。

 少しでもロゼリアンナさんのような冒険者になりたかったから。




「メルティナ……メルティナ……」

 誰かの声が頭に響く。

 何だか身体がフワフワとして、揺れ動いているような気がする。

 刹那。

 私の意識は一気に鮮明になる。

「メルティナ」

 大きな声が耳元でして、私はびっくりして跳ね上がった。

「あっ?起きた?」

 私の顔を覗き込むように、ヴィオ君の顔が真正面にあった。

「近いわよ」

 お互いの鼻の頭が触れあいそうなくらいに、ヴィオ君の顔が間近にあった。

「具合でも悪いのメルティナ?寝ていたみたいだけれど……」

 ヴィオ君にそう言われ、私は辺りを見渡した。

 ここはランドレイクの街からほど近い街道沿いにある湖のほとり。

 そういえば、ヴィオ君はイルカの召喚獣のメイドリアンさんの背に乗って湖を疾走して遊んでいたわよね。

 私はそれをボォ~と眺めていて……いつの間にか、冒険者になったきっかけのことを思い出していたんだったわ。

 そのまま、いつの間にか寝ていたみたいね。

「暖かいから、つい眠くなっただけよ」

 私は両腕を天高くつき上げて背を伸ばしながら立ち上がった。

 膝を抱えて座ったまま寝ていたので、身体がちょっと痛かった。

 ヴィオ君は、すでにパンツ一丁姿をやめ、ドワーフ族のリベリアさんが作ってくれたスネークドラゴンの皮でできたいつもの服を着ていた。

 イルカの召喚獣であるメイドリアンさんも、イルカの姿から人型の姿になっていた。

「もう、遊び終わったの?」

「うん、飽きた。だから、出発しようと思うんだけれど……」

「ええ、次の街を目指して出発しましょう」

 私は歩き出そうとした。

「メルティナ。大切な斧槍ハルバードを忘れているよ」

 背から降ろして脇に置いておいた斧槍ハルバードのことをすっかり忘れていた。

 ヴィオ君が指摘してくれなかったら、置いて行ってしまうところだった。

「ありがとう、ヴィオ君」

 私は、槍先から斧刃までを鞘で覆ってある斧槍ハルバードを拾い上げると胸元に抱きしめた。

 忘れてはいけないわよね。

 斧槍ハルバードだけではない。

 先ほど思い出した冒険者になるきっかけや冒険者になりたいと思った強い思いを。

 そして、私には目標にしたい人がいたことを。

 どこまで近づけるかはわからない。

 けれど、その思いだけは持ち続けようと思う。

 この斧槍ハルバードとともに。

 私は、斧槍ハルバードの柄に取り付けたベルトを頭からかぶるように身に着け、背負った。

 少しだけズッシリとした重量感が身体に伝わって来た。

 これが私が抱いている思いの重みかもしれないと感じた。

「何か……メルティナの顔つきが変わったような気が……」

 ヴィオ君が私の顔を見上げながら、そんなことを呟いていた。

「日々、歳をとって老けただけではないでしょうか?」

 ポツリとメイドリアンさんが辛辣な言葉を吐いていた。

「失礼ですね。冒険者になるきっかけをさっき思い出したんですよ」

 私は口をへの字に曲げて言い放つ。

「えっ?何それ、何それ?聞きたい、聞きたい」

 ヴィオ君は興味を持ったみたいで、しつこく尋ねてくる。

「恥ずかしいから嫌よ」

 私は、ぴしゃりと言ってやった。

 そのあとも、ヴィオ君はしつこく聞いて来たけれど、私は話してあげなかった。

 だって、それは……私だけの思い出にしたかったから。


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