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9/11

氷のお嬢様は自室で悶絶してるらしい(※ただし主人公へのリベンジは諦めてない)

地獄のトリプルデートをなんとか生き延びた神楽坂蓮。

駅前で解散した後、自宅へ戻った近衛零華は、自室で昼間のナンパ救出劇を思い出して悶々としていた。

氷のお嬢様の隠されたむっつり本心と、蓮に届いたさらなる追い打ちのメッセージとは——!?

「……ふぅ。じゃあ神楽坂くん、月曜日の補習は遅刻しないことね。買った参考書も、明日までに最初の5ページは進めておくように」


駅前の改札前。


買い物袋を手に下げた近衛零華は、いつもの完璧な氷の仮面を被り、冷ややかな視線で俺に言い放った。


「お、おう善処する」


「先輩っ! 今日はすっごく楽しかったです! 次は絶対に二人きりでデートしてくださいねっ! 私、諦めませんから!」


対する九条ゆずは、零華の視線などどこ吹き風といった様子で、俺の腕にしがみつく勢いでニコリと微笑む。


最後までバチバチと飛び交う電磁波に挟まれながら、俺たちはそこで解散となった。


(……助かった。命からがら生還したぞ……)

二人の姿が見えなくなった瞬間、俺は駅のホームで深々とため息をつき、這うような足取りで電車に乗り込んだのだった。


一方、その頃。


神楽坂蓮と別れて高級外車のお迎えに乗り込み、神楽坂上にある壮麗な邸宅へと帰宅した近衛零華は、静かな自室のドアを閉めた瞬間にピンと張っていた緊張の糸がプツリと切れた。


「…………っ」


カバンを床に置き、制服のまま吸い寄せられるように大型のキングサイズベッドへ倒れ込む。


そして、ベッドの上に置いてあった大きなウサギのクッションをぎゅっと胸に抱きしめ、顔をうずめた

。

「……バカ。神楽坂くんのバカ……」


口から漏れたのは、力のない呟きだった。

脳裏にリフレインするのは、ショッピングモールの広場で起きたあの出来事。


ゆずがナンパ男たちに絡まれ、困惑していたあの瞬間——だるそうにポケットに手を突っ込み、二人の間に割って入った神楽坂蓮の姿だ。


『そっちの、小悪魔、俺の部活の大事な後輩なんで。俺以外の奴にあざとく絡むと調子が狂うんです』


(……なによ、それ)


クッションをポカポカと拳で叩く。胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛かった。

彼はいつだって自分の保身ばかり考えているひねくれ者だ。


補習中だって、私に対して「近衛のスパルタ指導から逃れられるなら悪魔に魂を売る」だの「俺の平穏な生活が脅かされる」だの、屁理屈ばかり捏ねている。


……でも、私はそれが少し嬉しかったのだ。


誰に対しても冷徹な「指導係」として振る舞う自分に対して、彼だけは飾らない素の態度で、だるそうに、けれどどこか親しげに接してくれていたから。


あのひねくれた優しさは、私と彼の二人だけの特別な時間なのだと——どこかで自惚れていた。


(なのに)


「誰にでもあんな風に助けに入るなんてずるいわ」


あの子に対しても、あんな風にかっこつけて庇うのだ。


『大事な後輩』だなんて言っておいて、後から「保身だ」なんて言い訳をして。


(……分かってるわよ。彼が本当に保身で動いていただけだってことくらい)


自分がなぜこんなにもイライラして、胸が苦しいのか。


それが「九条ゆずに対する激しい嫉妬」であるという事実に、真面目すぎる零華の脳内CPUは追いついていなかった。

ただ、胸の奧にある熱い感情を持て余し、ベッドの上でゴロゴロと転がり回ることしかできない。


「……はぁ。私、勉強のしすぎで頭がおかしくなっているのかしら」


零華はハッと我に返ると、真っ赤になった顔を両手で覆った。

そして、気を取り直すようにサイドテーブルからスマートフォンを取り出す。


(……指導係として、今日の確認をしておかないと)

画面を開き、メッセージアプリを起動する。


指先が微かに震えるのを押し殺しながら、できるだけ冷たい、いつもの「近衛零華」らしい文面を作成して送信した。


『今日はお疲れ様。買った参考書、明日からちゃんとやるように』


送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ね上がった。


ベッドにうつ伏せになり、画面をジッと見つめる。


数秒後——ポン、と既読がつき、返信が届いた。


『神楽坂:了解。近衛も今日はお疲れ。いろいろ助かった、ありがとな』


「…………っ!?」


画面に表示された文字を目にした瞬間、零華の息が止まった。


『ありがとな』


たったそれだけの、いつもの素気ない感謝の言葉。

なのに、それを見た瞬間、胸の奥のモヤモヤが一瞬で吹き飛び、代わりに激しい熱量が顔中に広がっていった。


(『ありがとな』って…! 私に…私に言ってる……っ!)


零華はスマホを胸元にぎゅっと抱きしめ、バタバタと足をベッドに打ち付けながら再び悶絶した。

自分の素直になれない性格のせいで冷たく接してしまったのに、彼はちゃんとお礼を言ってくれた。


(神楽坂くんのバカそんな風に優しくされたら……私、勘違いしちゃうじゃないっ!)


顔を真っ赤に染めた氷のお嬢様は、枕に顔をうずめて小さな悲鳴を上げるのだった。


一方その頃。

築年数の経ったアパートの自室で、神楽坂蓮はベッドの上に大の字になって天井を見上げていた。


「はぁ生き残った奇跡的に五体満足で帰宅できたぞ」


今日一日の精神的・物理的疲労は計り知れない。


ダブルブッキングからの全速逃走、3分での捕捉、カフェでの詰問、そしてナンパ男との遭遇。


どれをとっても俺の保身人生において過去最大級の危機だった。


「……まぁ、近衛への返信も無難に済ませたしな」


スマホを操作し、零華からの「参考書をやれ」という連絡に対して『ありがとな』と送っておいた。


これでお眼鏡に適う優等生(風)の返答は完璧だ。零華の機嫌もこれで直るだろう。


俺が「これで今週末の保身は完了だ」と安堵の息をついた——まさにその瞬間だった。


画面上部に、新たな通知がぽんぽんとポップアップした。


『九条ゆず:先輩! 今日は本当にありがとうございました! 私を助けてくれた時の先輩、すっごく格好良かったです♡』


『九条ゆず:『大事な後輩』って言ってもらえて嬉しかったです! 今度は二人きりでリベンジデートしてくださいね! 約束です![犬が手を振るスタンプ]』


「………………」


画面を埋め尽くす大量のハートマークと、あまりにもストレートなメッセージ。


それを見た瞬間、俺の脳内保身CPは大音量で鳴らし始めた。


(……待て。待て待て待て!!)


冷や汗が背中をダラダラと伝い落ちる。


(『大事な後輩』って言ったのは、あの場のナンパ男を穏便に追い払うための『最も波風を立てない口実(保身)』だったんだが!? なんで完全に真に受けられてるんだ!?)


しかも「二人きりでリベンジデート」だと……?


もしこのやり取りが、あの観察眼の塊みたいな補習係・近衛零華の耳に入ったらどうなる?


『神楽坂くんあなた、私との約束を破ってまた彼女と出かけようとしているの?』


絶対零度の視線で詰問され、俺の高校生活と平穏な未来が物理的に凍結・粉砕される未来図が鮮明に脳裏に浮かんだ。


「……っ!」


俺はガクガクと震える手で、そっとスマホの画面を伏せた。


「……月曜日、学校に行くのが本気で怖くなってきたんだが……?」


助かったはずの命が、さらに巨大な修羅場へと繋がっていることに絶望しながら、ひねくれバカの長い一日は幕を閉じるのだった。

第9話をお読みいただきありがとうございました!

ここ最近インフルで書けず投稿が遅れてすみません

今回はトリプルデートの裏側で繰り広げられた近衛零華の自室での葛藤&悶絶シーンをお届けしました!

「誰にでも優しいひねくれバカ」に対する切ない嫉妬と、蓮からのたった一言に舞い上がってしまうむっつりなお嬢様のギャップを楽しんでいただけたら嬉しいです。

そしてラストは、蓮の保身(言い訳)が完全に裏目に出て、ゆずからの猛アプローチに戦々恐々とする展開でした!

「面白かった!」「零華のギャップが可愛かった!」「月曜日の修羅場が楽しみ!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【★評価】や【ブックマーク追加】をして応援していただけると大変執筆の励みになります!

次回、月曜日の学校でさらなる波乱が巻き起こる第10話もどうぞお楽しみに!

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