ひねくれバカは月曜日の修羅場に怯える(※ただし逃げないとは言っていない)
平穏な月曜日を迎えるはずだった神楽坂蓮。
しかし、休日のショッピングモールでの「あの目撃情報」がクラス中に広まり、朝から男子・女子総出のガチ聞き込み(詰問)を受ける羽目に。
教室から決死の逃走を図った先で待ち受けていたのは——!?
「……おい神楽坂。ちょっとツラ貸せや」
「ちょっと神楽坂くん! 土曜日に近衛さんと九条さんを両手に花で歩いてたって噂、本当なの!?」
月曜日の朝。鞄を肩から下げて教室の自分の席に着いた、まさにその瞬間だった。
俺のデスクの周囲は、怒涛の熱量と殺気を孕んだクラスメートたちによって一瞬で完全包囲されていた。
男子たちは血走った目で俺の胸ぐらを掴みかねない勢いだし、普段はろくに会話も交わさない女子グループまでもが「噂の真偽を確かめる」という大義名分のもと、ガチの聞き込み捜査官みたいな鋭い眼光で詰め寄ってくる。
(……待て待て待て! 情報伝播のスピードが光速を超えているんだが!?)
俺の脳内保身アラートが、過去最大音量でけたたましく鳴り響き始める。
「ま、待て! お前ら落ち着け! 誤解だ! あれは単なる事故というか、補習の参考書を買いに行ったついでにだな——」
「言い訳無用! 事故で近衛さんと九条さんが同時に現れるわけねぇだろ!」
男子の筆頭・サッカー部の田中が、机にドカンと音を立てて身を乗り出してくる。
「校内二大美少女の一角・氷のお嬢様の近衛さんと、1年男子のアイドル・九条さんだぞ!? その二人を同時に侍らせてモールを歩くとか、お前全校生徒を敵に回す気か!?」
「そうだよ! 九条さんが『先輩ぁ♡』って腕にしがみついてたって目撃情報もあるんだけど! 神楽坂くん、一体どうやってあんな可愛い下級生を手懐けたわけ!?」
女子のリーダー格も腕を組み、尋問のようにジリジリと距離を詰めてくる
。
「し、知らん! 俺は何も知らん! あれはただの『保身の副産物』だ! 俺は平穏に生きのびたいだけなんだ!」
「保身で美少女二人に囲まれてたまるかぁぁっ!」
圧倒的な圧迫感と殺気に耐えかねた俺は、直感した。
ここに留まれば、一分後にはクラス全員からのリンチによって社会的に抹殺される、と。
「あー用事あったかもー!!」
俺はデスクの上の鞄を盾のように構えると、一瞬の隙を突いて囲みの手薄な右側へダイブ。
怒号が飛び交う教室のリアドアを蹴破るような勢いで外へと飛び出した。
「あ! 逃げたぞ! 追えーーっ!!」
「神楽坂を逃がすな! 吐かせるまで追い詰めるぞ!!」
廊下に響き渡る大追跡の足音。
俺は後ろを振り返る余裕すらなく、廊下を全速力で駆け抜けた。階段を駆け下り、曲がり角を猛スピードで曲がり、校舎の奥深くへと逃げ込む。
目指すは、普段は誰も足を踏み入れない旧館の資材置き場兼、使われていない予備の補習室だ。
重い木製のドアへと飛び込み、背中でドアを勢いよく閉めると、すぐさま内側から鍵をガチャリと絞めた。
「ハァ……ハァ……! 死ぬ……! まジで生きた心地がしねぇ……」
膝に手をつき、荒い息を吐き出しながら胸を撫でおろす。
冷や汗が制服の襟元を濡らしていた。クラスメートたちのあの眼光は本物だった。少しでも捕まっていれば、今頃身ぐるみ剥がされて屋上から吊るされていたかもしれない。
「……随分と賑やかな登校風景ね、神楽坂くん」
「ひえっ!?」
静まり返った暗がりから突如として響いた冷ややかな声に、俺は情けない悲鳴を上げて跳び上がった。
薄暗い部屋の奥、埃の舞う窓際に置かれた古びた机。
そこに腰掛け、綺麗な長脚を組んでこちらを見下ろしていたのは——近衛零華だった。
「こ、近衛……!? なんでお前がこんな場所に……」
「静かにしなさい。……外、まだ騒がしいわよ」
零華がスッと人差し指を自分の唇に当て、静寂を促す。
彼女の言う通り、扉のすぐ外の廊下を「神楽坂どこ行った!?」「あっちの旧舎も探そうぜ!」とクラスメートたちが大挙して走り去っていく足音が聞こえてきた。
見つかるわけにはいかない俺は、咄嗟に息を殺し、ドアの死角となる零華のすぐ近くへと身を寄せた。
狭い資材置き場。古い紙や木材の匂いが漂う中で、零華の体からふわりと漂う柑橘系の甘い香りが、嫌でも鼻腔をくくぐり、俺の神経を刺激する。
「……ふぅ、助かった。あいつらガチの尋問並みに詰め寄ってきてさ……」
「そう。……で、何を聞かれて逃げてきたのかしら?」
廊下の足音が遠のいたのを確認すると、零華がスッと目を細めた。
その瞳には、いつもの氷のような冷たさと——それ以上に、どこか湿り気を帯びた熱が混ざり合っていた。
「いや、土曜日にモールで二人と会ったのがクラス中にバレててさ……」
「ふーん……。クラスの女子に囲まれて、随分と鼻の下を伸ばして楽しそうだったじゃない」
「楽しそうに見えたなら、今すぐ眼科に行った方がいいぞ! こっちは全校生徒から命を狙われてる気分だったんだからな!」
俺が必死に保身の弁明をすると、零華はゆっくりと机から降りた。
トコ、トコ、と小さな足音を立てながら、一歩、また一歩と俺の方へと歩み寄ってくる。
壁際に追い詰められる。距離、わずか数センチ。完全な密室でのゼロ距離。
「……神楽坂くん。私、土曜日からずっと考えていたのだけれど」
「な、何をだ……?」
「あなた、九条さんに『大事な後輩』って言っていたわよね。……私には『スパルタ指導係』だの『悪魔』だのと言って嫌がっているくせに」
零華の白い頬が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
けれど、その視線は逃げようとする俺を逃がさないと言わんばかりに、まっすぐに射抜いていた。
素直になれないむっつりなお嬢様が、必死に胸の中の嫉妬を押し隠しながら、甘いプレッシャーをかけてくる。
「私と二人でいる時より……あの子といる時の方が、楽しかったの……?」
「っ……! いや、あれはあの場のナンパ男を追い払うための保身の口実で——」
零華の吐息が触れそうなほどの至近距離。
あまりのプレッシャーと、目の前にある可愛すぎる表情に俺の脳内CPUがショートしかけた——その時だった。
ドガァァン!!
「あ! やっぱりここにいた! 先輩っ!!」
「「えっ!?」」
鍵がかかっていたはずの木製ドアが、なぜか非常用ピン(あるいはテニス部仕込みの力技)によって豪快に開き、眩しい廊下の光とともに九条ゆずが飛び込んできた。
「先輩! クラスの人たちに追われてるって聞いて助けに……って、近衛さん!? なんでそんなに先輩にくっついてるんですか!?」
ゆずの目が点になり、すぐさまメラメラとした対抗心で眉が吊り上がる。
「九条さん……あなた、どうしてここが分かったの? 今、神楽坂くんと大切な『補習の予習』をしていたところなんだけれど」
「大事な予習がなんでそんな壁ドンみたいな体制なんですか! 先輩、土曜日に私に『大事な後輩』って言っていだきましたよね!? 私、先輩を助けに来ました!」
「ちょっと、神楽坂くんの腕を引っ張らないでちょうだい! 彼は私の指導対象よ!」
「私だって先輩のマネージャー候補です! 渡しません!」
左右から腕を猛烈な力で引っ張られ、二人のヒロインからの凄まじい視線の火花が俺の頭上でバチバチと激突する。
「……神楽坂くん、説明しなさい。誰が一番『大事』なのかしら?」
「先輩! 私ですよね!? 『大事な後輩』って言ってくれましたもんね!?」
冷気と熱気の挟み撃ち。
至近距離で責め立てられる俺が、冷や汗を滝のように流していた——その直後だった。
「あーーーっ!! いたぞぉぉぉつ!!」
「神楽坂ぁぁっ! お前、こんなところで二人と何やってんだぁぁつ!!」
開け放たれたドアの向こうに、ゆずの後を追ってきたクラスメートの男子・女子たちが一気に雪崩れ込んできた。
旧館の狭い部屋が、一瞬にして超満員の暴動会場へと変貌する。
「近衛さんと九条さんに両腕を掴まれてるだと……!?」
「神楽坂! お前、マジで絶対に許さん!!」
「ちょっと神楽坂くん! はっきりしなさいよ! 近衛さんと九条さん、どっちが本命なの!?」
「そうだ! 今ここでハッキリ言え! どっちが一番大事なんだよ!!」
怒号と嫉妬の叫びが狭い室内を満たす。
左からは零華の氷点下の冷圧。
右からはゆずの灼熱の熱圧。
そして目の前からは、クラスメート全員からの殺気に
満ちた大合唱。
「さあ神楽坂くん……誰が一番大事なのか、みんなの前で答えなさい」
「先輩! 私って言ってくれたら、今すぐここから二人で脱出します!」
「言え! 言え! 言え! どっちなんだ神楽坂ぁぁっ!!」
逃げ場ゼロ。言い訳ゼロ。保身ロジック、完全沈没。
全方位から突きつけられた地獄の二択を前に、俺の高校生活と平穏な未来は、文字通り破滅のカウントダウンを刻み始めるのだった——!!
第10話をお読みいただきありがとうございました!
今回はクラスメート総出のガチ聞き込みからの逃走劇、そして避難先での近衛零華の密着嫉妬アプローチ&九条ゆずの乱入、さらには追いついたクラスメート全員からの地獄の「どっちが大事か」コールという怒涛のクライマックス回でした!
全方位から追い詰められた蓮の保身ロジックは、果たしてこの絶対万事休すの状況をどう突破するのか!?
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