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ep.5 噂話の波紋と、隠された赤面(※ただし彼女は真実が分からない)

前話での九条ゆずの爆弾発言により、学園中に「二股疑惑」という名の致命的なデマが流された神楽坂蓮。

保身のため、これ以上ない静けさを求めてたどり着いたのは——まさかの放課後の図書室であった。

そこで待ち受けていたのは、冷徹な近衛零華と、周囲の容赦ない恋バカヒソヒソ話。

そして、保身バカの「ただ恥ずかしかっただけの赤面」が、完璧お嬢様の脳内CPUを盛大に焼き切ることに——!?

昼休みのあの大惨事から数時間。


「……おい神楽坂、廊下歩くだけで視線が痛いんだが」


「気のせいだ石下。俺たちは今、学園の背景と同化している。存在感を消せ」


教室どころか学園全体に「あの神楽坂が1年美少女マネージャーを捨てて近衛零華に乗り換えた」という尾ひれつきの噂が爆速で広まっていた。


廊下を歩けば男子生徒から「女たらし」「クズ野郎」と死の視線が突き刺さり、女子生徒からは「近衛さんを巻き込むな」と冷ややかに囁かれる。


これ以上教室にいては保身が保てない。


そう判断した俺は、放課後になると同時に荷物をまとめ、最も静かで人が少ないであろう場所——図書室へと避難した。


「……ここなら、さすがに騒ぎ立てるバカはいないはずだ」


図書室の最奥、本棚に囲まれた日当たりの悪い四人掛けの席。


俺が席につくと、正確に1メートルの車間距離(ソーシャルディスタンス)を保った対角線の席に、カサリと優雅な音を立てて近衛零華が腰を下ろし、冷徹な瞳でこちらを睨みつけてきた。


「神楽坂くん。昼休みの不始末、ちゃんと反省してくれていますよね?」


「反省も何も、俺は完全な被害者だ。九条の奴が勝手に話を盛っただけだろ」


「……まあ、あなたのことですから、どうせサボりの言い訳に彼女を利用しようとしたのでしょうけれど」

フン、と鼻を鳴らして教科書を開く零華。


静かな図書室。ページをめくる音だけが響く空間で、俺たちは黙々とテスト対策の補習を開始した。


……はずだったのだが。


(ねぇ、あの二人……やっぱり噂通り付き合ってるんじゃ……?)


(え、でも見て、席離れすぎじゃない? 1メートルくらい開いてるよ)


(付き合いたての照れ隠しでしょ〜。ほら、神楽坂くん、近衛さんの前だと大人しいし)


(近衛さんも、なんだかんだ放課後に二人きりで勉強教えてあげてるし……本気なんじゃないの?)


本棚の隙間から、遠くの席にいる女子生徒たちのヒソヒソ話が容赦なく鼓膜を揺らす。


一方、対角線上に座る零華もまた、その噂話をしっかりと耳に挟んでいた。


(……相変わらず周囲は勝手なことばかり言っているわね)


零華は内心で小さく息をつき、手元のノートにペンを走らせる。


(まあ、いいわ。周りがどう騒ごうと関係ない。この『ひねくれバカ』と私が、そんな関係になるはずがないもの。私にとっても、彼にとっても……何かが起こるような相手ではないのですから)


そう自分に言い聞かせ、精神を落ち着かせようとした——その時だった。


(……でも神楽坂って、意外と一途なのかな)


(え、なんで?)


(だって、あの可愛い1年マネージャーの猛アタックを断って、近衛さんの『1メートルルール』を愚直に守ってるんだよ? 本当は近衛さんのこと、相当好きなんじゃない……?)


遠くからのそんな囁きが聞こえた瞬間。


ガタッ、と音が鳴った。


——俺は手元にあった下敷きと教科書をサッと持ち上げると、耳まで真っ赤になった顔を隠すように、突伏しながらぐっと顔を覆い隠した。


「……っ」


一言も発しない。ただ、顔を真っ赤に染め上げたまま、じっと息を潜めて下敷きの下に縮こまる。


——それを真向かいから見ていた近衛零華は、息を呑んだ。


「…………え?」


ペンの動きが、完全に止まる。


目の前で、普段は冷めた目をして「保身」「サボり」しか考えていないあの神楽坂蓮が。


周りの「神楽坂は近衛さんのことが相当好きなんじゃない」という噂話を聞いた直後に。


これまでにないほど耳まで真っ赤にして、必死で教科書や下敷きで顔を隠している。


(え……? あ……赤面……!?)


零華の瞳が、限界まで見開かれた。


(な、なんで……!? なんでそんなに顔を赤くして……隠しているの……!?)


脳内回路が、猛烈な勢いと凄まじい勘違いで再起動を始める。


(ま、まさか神楽坂くんは本当に私のことを!? 周りの『好きなんじゃないか』という言葉に動揺して私を女性として、いえ、私が彼を男として……ううん、彼が私を女性として意識して照れているとでも言うの——っ!!?)


ドクン、と胸が大きく跳ね上がった。


今までのクールな仮面はどこへやら、零華の顔は一瞬で限界突破の茹でダコのように真っ赤に染まり上がっていく。


心臓の鼓動がうるさいくらいに響き、参考書を持つ手がプルプルと震え出した。


(う、嘘でしょう……!? 『何も起こるわけがない』と思っていたのに、 彼がそんなこんなストレートにピュアな反応を見せるなんて……っ!!)


どうしよう、と頭の中で警報が鳴り響く。

彼のあの恥ずかしそうな姿を見たら、自分まで本当にそういう関係なのだと意識せずにはいられない。


「……おい近衛。どうかしたか? 顔すごい赤いぞ」

教科書のかげから少しだけ目を覗かせた俺が、不審そうに尋ねる。


「っ……! な、なんでもない!」

零華は声を裏返らせながら必死に抑え込み、持っていた分厚い参考書で自分の顔をバンッと勢いよく隠した。


そして、ガタガタと震えながら明後日の方向へと顔を背ける。


(見られない……! 今の彼の、そんな直球に照れている姿なんて恥ずかしくて直視できないわ……っ!!)


そんな零華の激しい動揺をよそに、俺は下敷きの下で冷や汗を流しながら、必死に頭を働かせていた。


(くそっ……! 周りの連中、あんなデカい声で「好きなんじゃないか」とか言い立てやがって……! おかげで冷やかしの視線が痛すぎるだろ…!!)


(マジで恥ずかしい……早くこの話題が周囲から消えてくれ!)


静かな図書室の奥で。

お互いに本や下敷きで顔を隠し合い、明後日の方向を向いたまま固まる二人の姿。


——なお、神楽坂蓮の赤面の理由は「照れ」ではなく「周囲の視線と好奇の目に晒されていることへの純粋な羞恥心(保身)」によるものである。


それを知る由もない零華は、真っ赤な顔で一人盛大に暴走し続けるのであった。

第5話をお読みいただきありがとうございます!

周囲の視線と好奇の目に耐えかねて、ただ純粋に「恥ずかしくて顔を隠しただけ」の神楽坂くん。

しかし、それを真向かいから見ていた零華様にとっては、人生最大級の特大カン違いイベントとなってしまいました。

神楽坂が起こした好き疑惑この誤解はいつ解けるのか、それともさらに泥沼(?)へ進んでしまうのか。

次回、テスト当日&放課後の展開もお楽しみに! 感想や応援もぜひよろしくお願いします!

「むっつりお嬢様かわいい」「座る位置遠すぎ!」と少しでもニヤリとしたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて応援をお願いします!

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