↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/11

氷の令嬢の防衛線と、後輩マネージャーの爆弾発言(※ただしお嬢様のCPUは即焼き切れる)

第3話では、親同士の独断による「住み込み」での脳内CPU焼き切れ、そして朝の1メートルソーシャルディスタンス登校を描きました。

第4話では、学園中に広まった二人に関する噂と、蓮の中学時代の後輩・九条ゆずの登場によって、蓮の保身と零華のむっつり脳がさらなるカオスへと突入します。

「おい神楽坂。お前、ついに学園中の男子を敵に回したらしいな」


昼休み。購買で買い込んだ焼きそばパンを口に押し込みながら、悪友の石下が心底呆れたような目で俺を見てきた。


「縁起でもないこと言うな。俺は今、高校生活2年目にして最も安全運転をしている。名門の学園の規則を守り、無駄なトラブルを避け、近衛零華には正確に1メートルの車間距離を確保している」


「いや、距離の問題じゃねえんだよ。校内の掲示板とSNSがヤバいことになってる。『あの氷の令嬢・近衛零華が、学年最下位の神楽坂と一緒に登校していた』ってな。お前、近衛さんのファンから睨まれても文句言えねえぞ」


俺はため息をつきながら、パックのイチゴミルクをすする。


確かに今朝の登校風景は異質だっただろう。最高峰の美貌と知性を誇る近衛零華と、ひねくれバカの俺見たこともない組み合わせの二人が正確に1メートルのディスタンスを保ちながら歩く図は、端から見れば「捕獲された珍獣と指導係」か「未確認生命体の護送」にしか見えなかったはずだ。


「安心しろ石下。万が一男子どもに詰め寄られたら、俺は迷わず『近衛さんに怒られるから無理やり歩かされていました!』と叫んで責任をなすりつける。面倒事に巻き込まれないのが一番だ」


「相変わらずクズの鑑だな!」

石下が感心したように拍手した、その時だった。


ガラッと、教室のドアが軽快な音を立てて開いた。


「あ、やっぱりここにいた。神楽坂先輩〜」

爽やかな声とともに現れたのは、ショートヘアの1年生女子生徒だった。制服の崩しはなく普通に着こなしているが、整った顔立ちと立ち姿の良さが目を引く。お金持ちや歴史ある家が多い学園でも名門とされる九条家の令嬢であり、俺の中学時代の部活(ソフトテニス部)の元マネージャー、

九条ゆずだ。高校でも男子テニス部のマネージャーをやっているらしい。


「おい神楽坂、なんか1年の可愛い後輩が来たぞ」


「見ればわかる。俺の面倒事回避センサーが『即座に死んだフリをしろ』と警報を鳴らしている」


俺が即座に机に伏せようとした瞬間、ゆずはすばしっこい足取りで俺の机へと近づいてきた。


「ちょっと先輩、後輩の顔を見て開口一番に死んだフリしようとするのやめてもらえます? 相変わらずですね」


「……九条か。なんだ、わざわざ2年の教室まで俺のバカさを拝みに来たのか?」


「違いますよ。朝の変な噂を聞きつけて確かめに来たんです。『神楽坂先輩が近衛先輩と登校してた』って。……まあ、先輩のあの壊滅的なテスト結果を見たら、誰かが家庭教師でもついてあげなきゃ退学まっしぐらですもんね」


ゆずはクスクスと笑うと、周りの生徒たちの視線を避けるように、すっと俺の机のすぐ横まで距離を詰めてきた。


「……で、先輩。相変わらず無駄なプライドが一切なくてラクなのは助かりますけど」

声のトーンが一変する。完全なドライモードだ。


「中学のソフテニ部でも『コートの土の塩分濃度調査が必要』とか適当な嘘ついて、真夏のコート掃除をサボって日陰でアイス食べてましたよね。相変わらず言い訳だけは天才的ですね」


「余計な過去作戦をバラすな」


するとゆずは、今度はほんの少し上目遣いになり、俺の制服の袖をちょんと指先で引っ張ってきた。あざとさ全開のモードチェンジだ。


「ねぇ、先輩……私にはカッコつけなくていいですよ? 先輩のダメなところ、私がいちばん知ってるんですから。……あの時みたいに、また私だけにサボり方教えてくれないんですか……?♡」


「やめろ袖を引っ張るな!」


俺は即座に腕を引っ込め、真顔で言い放った。


「距離が近いと近衛さんに『不真面目だ』って説教されるだろ! 頼むから1メートル離れろ!」


「相変わらず塩対応すぎますって……」


ゆずが苦笑いを浮かべた、その瞬間だった。


教室の入り口から、氷点下の冷気が吹き抜けた。


「……そこまでにしていただけかしら。九条さん」


静まり返る教室。

振り返ると、そこには凛とした立ち姿で佇む近衛零華がいた。黒髪をなびかせ、冷徹な瞳でゆずを見下ろしている。その威圧感はまさに『氷の令嬢』そのものだ。


「あ、近衛先輩。お疲れ様です」

ゆずは慌てる様子もなく、フランクで人当たりの良い後輩の顔に戻って頭を下げた。


「神楽坂くんと随分と親しげにお話しされていますのね。……彼はいま、私の厳格な指導下にあります。無駄な雑談で彼の限られた脳容量を圧迫するのは控えていただきたいのだけれど」


「あはは、すみません。でも私と神楽坂先輩、中学の部活からの付き合いなので、こういうノリが普通なんですよね。……それにしても近衛先輩、噂通りすごい威圧感ですね」


ゆずは悪びれもせず微笑むと、零華と俺を見比べた。


「でも、1メートル離れて指導するって本当だったんですね。近衛先輩ってほんと真面目というか、いつも気を張ってて大変そうですね〜。私だったらそんな面倒なルール作らないで、もっと普通に隣に座って教えますけど」


ピキッ、と零華の眉が跳ねた。

「な……なんですって?」


その一言は——近衛零華の脳内CPUに、未曾有の核爆発を引き起こすには十分すぎる一撃だった。


(……な、なんですの……? この子は……!?)


零華の表面上の冷徹な仮面の裏で、脳内回路が凄まじい勢いで焼き切れ始めていた。


(ち、中学からの付き合い……!? 普通に隣に座って教える……!? つまり、この子は神楽坂くんと1メートル未満のゼロ距離で……過去に何度も二人きりで接してきたということ……!? そんなの実質恋人じゃない)


(待ちなさい近衛零華! 私は彼の『完璧な指導者』として、1メートルの車間距離を維持することで理性を保っているのよ!? なのにこの子は、その防衛線をあざ笑うかのように踏み越えて……! もし神楽坂くんが『昔馴染みのゼロ距離』に慣れていて、私との1メートルに物足りなさを感じていたらどうするの!? 『近衛さん、もっと近くに来てよ』なんて、私の手を引いて……ベッドの上に押し倒して……!?)


(あ、あ、不純!! 昼休み中の教室で私はなんて恐ろしいシミュレーションをしてしまっているのーっ!!)


「く、近衛さん! 大丈夫か!?」

俺は思わず声をかけた。しかし、決意した1メートルの安全距離(ソーシャルディスタンス)は絶対に崩さない。俺は正確に1メートル離れた位置をキープしたまま、机の上にあった下敷きでパタパタと風を送った。


「ち、近づかないで神楽坂くん……! 今のあなたを見ると……脳内の『ベッドの上のあなた』が……っ!」

「ベッドの上!?? なんの話だ!?」


「九条さん。彼の指導は……すべて私に任されています。彼がいくら愚かで、中学時代にサボり倒していたゴミ虫だとしても……私の『高度な飼育』からは逃れられませんの!」


顔を真っ赤にしながらも、プライドだけで胸を張る零華。

それを見たゆずは、状況の面白さを察して一瞬だけ口元にニヤリと笑みを浮かべた。


そして、クラス中の注目が自分たちに集まっている絶妙なタイミングで——声を張った。


「……そっか。神楽坂先輩……」


ゆずは上目遣いでうっすらと目を潤ませ、切なそうに制服の袖をギュッと握りしめた。


「中学の時はあんなに『お前しか頼れない』って私に言ってたくせに……高校に入ったら私を捨てて、近衛さんを選ぶんだ……ふーん……」


ざわっ……!!


教室中の空気が凍りついた。


「おい……神楽坂……!」


「あの1年美少女マネージャーを捨てて、近衛さんに乗り換えたのか!?」


「『お前しか頼れない』って……最低のクズ野郎じゃねえか!!」


クラス中の男子から、凄まじいブーイングと嫉妬の視線が俺に突き刺さる。


そして——。


(す、捨てて……!? 『お前しか頼れない』……!? 不純……不純を通り越して昼ドラみたいな泥沼関係ーっ!!)


近衛の脳内CPUが限界突破を起こし、プシューと音を立てて煙を吹き上げた。顔を極限まで真っ赤にし、プルプルと震えながら倒れそうになっている。


「頼むから余計な虚偽事実を捏造するな!」


俺は周囲の誤解と暴走する零華に向かって必死で叫んだ。


「俺が探し物を頼んだ一回だけだ! 九条、お前も頼むから1メートル離れてから喋れ!!」


「ふふっ、じゃあ近衛先輩、神楽坂先輩の『飼育』がんばってくださいね〜」


ゆずはいたずらっぽく手を振ると、「じゃあ失礼しまーす」と軽快な足取りで教室を去っていった。


静まり返る教室。

正確に1メートルの距離を保ったまま下敷きを仰ぎ続ける俺と、顔を真っ赤にして脳内オーバーヒートで悶絶している『氷の令嬢』。


石下がそっと俺の肩に手を置いた。


「……神楽坂」

「なんだ」

「お前、なんか知らんけど『完璧お嬢様』と『あざとい後輩』の狭間で、大変なことになってないか?」

「勘弁してくれ。俺はただ、平和にサボりたいだけなんだ……」


俺は深いため息をつき、イチゴミルクのストローを噛みつぶした。


テストまでのカウントダウンと、面倒な学園生活の日常が、静かに加速し始めていた。

第4話をお読みいただきありがとうございました!

過剰な表現を排し、学園での等身大でテンポの良いドタバタコメディに調整いたしました。

中学からの腐れ縁後輩・九条ゆずの「ドライ7:あざと3」な攻撃と爆弾発言により、零華のプライドとむっつり脳が爆破する展開をお楽しみいただければ幸いです。

引き続きご意見やご感想、第5話へのご指示をお待ちしております読んでいただきありがとうございます!

「むっつりお嬢様かわいい」「座る位置遠すぎ!」と少しでもニヤリとしたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて応援をお願いします!

ブックマーク登録もあわせてポチッと押していただけると、毎日の執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。