なに観たい?
「それは、止められますよ。」
コロコロ笑いながら瑠璃が答えた。
「なんでだよ。」
「だって御園さん、よれよれのTシャツにサンダルなんだもん。」
今日はやつに呼び出されて、丸川書店の本社に来てる。
瑠璃は丸川の受付嬢だ。
さっき、エントランスで警備に止められた俺を笑ってるんだ。
「仮にも作家だぞ?」
「見えませんよ。」
こいつ笑顔がいいんだよなぁ。
「おうちの火事、大丈夫だったんですか?」
「ん? うん、まぁ。」
「心配してくれんの?」
「御園さんより、茶井さんをね。」
めちゃ笑顔。
でも俺よりやつをなのね。
「それで、茶井さんと一緒に住めるって羨ましい。」
「私んちも火事になんないかな。」
「おいおい、そんな不穏なこと考えるほどか?」
「うん、考えるほど。」
でっかい目しやがって。
「すいません、お待たせして。」
息せき切ってやつがエントランスに来た。
瑠璃は髪を直してすましてる。
「あ、いや。」
「じゃ、行きましょうか、先生。」
「お、おう…」
「で、なによ?」
「なにって?」
「呼び出しといてそれかよ!」
やつは珍しく眼鏡をかけてる。
「いや、これといって…つか部屋ちゃんと鍵しただろうな?」
なんだよそれ!用も無しに呼んだの?
もう帰ろうかな。
って、こいつの部屋だった。
俺たちはしばらく無言で歩いた。
「つか、こんな早上がりでいいのかよ?」
まだ2時を回ったばかりだ。
「お前と取材で外出許可取った。」
「取材って、なんの?」
「いや…特に考えてなかった…」
なんだよそれ!
「あーもう!この間の埋め合わせだよ!」
やつが照れくさそうに声を上げた。
「は?なんの?」
「…いや、迷惑かけたし。」
なんで顔赤くしてんだよこいつ。
ゲロ吐いたのがそんな恥ずかしいのか?
「飲みすぎなんだよ!ラム8杯も飲んだら俺でももたんわ!」
「悪かった。」
「だから埋め合わせに…映画でもどうかなって…」
だから俺を見て言えや!
なんだこいつ?
「なに観る?この前見たいって言ってたやつあっただろ?」
「あ? あ~「リトル・ミス・サンシャイン」か?」
「そう!それそれ!」
「あれレイトショーだぞ?」
「……」
「そりゃそうだろ?20年前の映画だぞ?」
「そ、そっか…ごめん。」
「まぁ、いいけどよ。」
「6時間ほどあるけど、どうする?」
「え?」
「せっかくなんだし、見て帰ろうや。」
「おごりだよな?」
「あ、ああ。」
ったく、そんな思いつめた顔すんなよ。
思った以上だった。
少女の夢を叶えるために、奔走する家族。
幾多のトラブルを乗り越えて、バラバラだった家族が一つになる。
コメディタッチだけど、心に何か残った気がした。
俺んちもあんなだったらな。
やつはと言えば、隣で周りを気にすることなく泣いてる。
まぁ、客はちらほらだから気にすることはない。
「お前、あんないい映画なんで知ってたんだ?」
「ん? ん~昔一度観たんだよ、ガキの頃に。」
「でもうろ覚えでさ、もう一度観たかったんだ。」
「そっか、でもすごい良かった!」
やつが目を輝かせる。
こいつも映画好きなのかな?
じゃ、今度は俺から誘ってみるか。
駅で終電を待ってる間、ベンチに座ってると。
やつの頭が俺の肩に触れた。
疲れたのか眠ってるみたいだ。
起こすのもなんだし電車来るまで貸しといてやるよ。
でも、俺もなんか。
「もう構内締めたいんですけどねぇ!」
「すいません…」
二人して駅員に起こされた。




