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原稿が上がるまで  作者: 御園 秀吉
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4/7

なに観たい?


「それは、止められますよ。」


コロコロ笑いながら瑠璃が答えた。


「なんでだよ。」


「だって御園さん、よれよれのTシャツにサンダルなんだもん。」


今日はやつに呼び出されて、丸川書店の本社に来てる。

瑠璃は丸川の受付嬢だ。

さっき、エントランスで警備に止められた俺を笑ってるんだ。


「仮にも作家だぞ?」


「見えませんよ。」


こいつ笑顔がいいんだよなぁ。


「おうちの火事、大丈夫だったんですか?」


「ん? うん、まぁ。」

「心配してくれんの?」


「御園さんより、茶井さんをね。」


めちゃ笑顔。

でも俺よりやつをなのね。


「それで、茶井さんと一緒に住めるって羨ましい。」

「私んちも火事になんないかな。」


「おいおい、そんな不穏なこと考えるほどか?」


「うん、考えるほど。」


でっかい目しやがって。


「すいません、お待たせして。」


息せき切ってやつがエントランスに来た。

瑠璃は髪を直してすましてる。


「あ、いや。」


「じゃ、行きましょうか、先生。」


「お、おう…」




「で、なによ?」


「なにって?」


「呼び出しといてそれかよ!」


やつは珍しく眼鏡をかけてる。


「いや、これといって…つか部屋ちゃんと鍵しただろうな?」

なんだよそれ!用も無しに呼んだの?

もう帰ろうかな。

って、こいつの部屋だった。

俺たちはしばらく無言で歩いた。




「つか、こんな早上がりでいいのかよ?」


まだ2時を回ったばかりだ。


「お前と取材で外出許可取った。」


「取材って、なんの?」


「いや…特に考えてなかった…」

なんだよそれ!


「あーもう!この間の埋め合わせだよ!」

やつが照れくさそうに声を上げた。


「は?なんの?」


「…いや、迷惑かけたし。」

なんで顔赤くしてんだよこいつ。

ゲロ吐いたのがそんな恥ずかしいのか?


「飲みすぎなんだよ!ラム8杯も飲んだら俺でももたんわ!」


「悪かった。」

「だから埋め合わせに…映画でもどうかなって…」

だから俺を見て言えや!

なんだこいつ?


「なに観る?この前見たいって言ってたやつあっただろ?」


「あ? あ~「リトル・ミス・サンシャイン」か?」


「そう!それそれ!」


「あれレイトショーだぞ?」


「……」


「そりゃそうだろ?20年前の映画だぞ?」


「そ、そっか…ごめん。」


「まぁ、いいけどよ。」

「6時間ほどあるけど、どうする?」


「え?」


「せっかくなんだし、見て帰ろうや。」

「おごりだよな?」


「あ、ああ。」

ったく、そんな思いつめた顔すんなよ。




思った以上だった。

少女の夢を叶えるために、奔走する家族。

幾多のトラブルを乗り越えて、バラバラだった家族が一つになる。

コメディタッチだけど、心に何か残った気がした。

俺んちもあんなだったらな。


やつはと言えば、隣で周りを気にすることなく泣いてる。

まぁ、客はちらほらだから気にすることはない。




「お前、あんないい映画なんで知ってたんだ?」


「ん? ん~昔一度観たんだよ、ガキの頃に。」

「でもうろ覚えでさ、もう一度観たかったんだ。」


「そっか、でもすごい良かった!」

やつが目を輝かせる。

こいつも映画好きなのかな?

じゃ、今度は俺から誘ってみるか。




駅で終電を待ってる間、ベンチに座ってると。

やつの頭が俺の肩に触れた。

疲れたのか眠ってるみたいだ。

起こすのもなんだし電車来るまで貸しといてやるよ。



でも、俺もなんか。



「もう構内締めたいんですけどねぇ!」


「すいません…」


二人して駅員に起こされた。





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