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原稿が上がるまで  作者: 御園 秀吉
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3/7

なに飲みたい?


「い・や・だ!」


「だ・め・だ!」


「いやだぁ!!せっかく入った原稿料なのに!!」


「お前、払わなくちゃいけないところ山ほどあるだろ!!」


ちくしょー!!こいつなんで入金日まで把握してんだよ!!

まぁ担当だから、知ってて当然なんだけど。


「俺の心のオアシスとサンクチュアリがぁ!!」


「はいはい、タバコとスロットな。」


今日は朝から支払い行脚だ。

やつに首根っこ押さえられ。


「この原稿料で早く新しいヤサ、探したかったのに…」


「え?」


「だってよぉ、いつまでもお前の好意に甘えてんのもなぁ…」


「……まぁ当分はな…」


何の間?



そして、最後に待ち受けるのが。


「いらっしゃ~ あ!ほんとに来てくれたんだ!」


美咲の店だ。


「なんだよ、相変わらず暇そうだな。」


「おい!」

「こんばんは。」

相変わらずの女向けスマイルかましやがって、いけすかねぇ。


美咲と朱里、二人で回してるちっちゃな店だ。


「で?今日は持ってきてくれたの?」


「大丈夫です、僕が責任もって払わせますから。」


くそぉ!俺の金だぞ?


「おにいさん頼りになる!」


「あ、すいません。」

「自己紹介、まだでしたね。」

やつが名刺を美咲に渡した。


「え?スゴッ!」


「丸川書店?!チョー大手じゃん。」


朱里まで食いついてきた、だりぃ。


「いや~、もうご贔屓にしてくださいね~。」


美咲の営業スマイルがはじける。

ん?なんで俺、執筆風にしゃべってんの?


「え~っと、”ちゃい”さん?」


「”たい”です。」

へへへ!いっつも間違われてやんの!

こいつの”茶井”って苗字はなかなかないからな!


「ごめ~ん!”たい”さんね!」


美咲が笑う。


「で?なんにする?」


朱里が聞いてきた。


「お前、なに飲むんだよ?」


俺は頬杖つきながらやつに問いかける。


「あー、僕はなんでも大丈夫なんで。」


「なんでも店にあるものだったら。」


美咲がメニューをやつに渡した。


「じゃ、ラムをショットで。」

け!ラムってなんだよ!羊か!!


「秀ちゃんは?」


朱里が聞いてくる。


「勝(まさる)が入れたボトルあったろ? それでいい。」


「ん~、しろだっけ?」


俺は焼酎で十分。




「え~でもお給料良いんでしょ?」


美咲はやつに興味津々だ。


「いや、普通ですよ。」

け!普通の給料であのマンションは住めねぇだろ!

くそおもしろくねぇ!俺のテリトリーまで食い込んできやがって。


「ねぇ?」


「あー?」


「なんか機嫌悪い?」


「んなことねぇよ!」


「ん~でもいつもと違うし。」


くそ!朱里(こいつ)は勘がよくて嫌いだ!

いつもいつも俺の先を読みやがる。




ジャ~ン♪


はい、うまいうまい!

カラオケなんか聴きたくねぇんだって!


「たいさん、唄うまいねぇ!」


「あ、新之助でいいですよ。」


「ん~じゃぁ、”新ちゃん”で!」


なんだそれ!「クレヨン○んちゃん」か!


「全然しゃべんないじゃん。」


「あ?」


「ママとあの人が仲いいの嫌?」


「はぁ?!そ、そんなわけ!」


何言い出すんだ朱里(こいつ)。




なんで、こうなった?


「おい。」


「ひゃい!」


「聞いてんの?お前。」


「ひゃい。」


「つうかさぁ、俺が編集会議でどんだけ苦労してるか知ってんの?」


「い、いいえ…」


「お前のくそつまんねぇプロットをさぁ。」


「すいません。」


美咲と朱里もドン引きだ。


「聞いてんのかよ!ヒデキチ!!」


「ひゃい!」


それを聞いた朱里が。


「え?!秀ちゃんってヒデキチなの?!」


美咲に耳打ちしてやがる。

それに頷く美咲。


大阪生まれの親父が太閤さんにちなんで付けた「秀吉」。

でも、そんな大物になるわけないと「ヒデキチ」に。


「俺はさぁ、お前に惚れてるんだよ?」


「ひゃい!」


って、え?

やつが俺の手を握ってきた。




やつはカウンターに突っ伏して眠ってる。

朱里はおやじ連中の相手で忙しいみたいだ。

美咲が俺に、


「あんた、大丈夫なの?」


「あ? なにが?」


「だって、あんだけ他人に触られるの嫌がってたじゃん。」


あれ?そういえば。


「さ、さぁ…」


「ふぅ~ん。」


「で、でもこいつがこんなに酔ったの初めて見たわ。」


「よく二人で呑んでんの?」


洗い物を片付けながら美咲が言ってきた。


「いや?懇親会で数回かな。」


「あんたと呑めて楽しかったんじゃない?」


「…」


なに言い出すんだ美咲(こいつ)。




「お客さーん困るんですよねぇ!」


「すいません…」


「オェェェェェェ~」


タクシーの運転手にこっぴどく叱られた。






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