なに飲みたい?
「い・や・だ!」
「だ・め・だ!」
「いやだぁ!!せっかく入った原稿料なのに!!」
「お前、払わなくちゃいけないところ山ほどあるだろ!!」
ちくしょー!!こいつなんで入金日まで把握してんだよ!!
まぁ担当だから、知ってて当然なんだけど。
「俺の心のオアシスとサンクチュアリがぁ!!」
「はいはい、タバコとスロットな。」
今日は朝から支払い行脚だ。
やつに首根っこ押さえられ。
「この原稿料で早く新しいヤサ、探したかったのに…」
「え?」
「だってよぉ、いつまでもお前の好意に甘えてんのもなぁ…」
「……まぁ当分はな…」
何の間?
そして、最後に待ち受けるのが。
「いらっしゃ~ あ!ほんとに来てくれたんだ!」
美咲の店だ。
「なんだよ、相変わらず暇そうだな。」
「おい!」
「こんばんは。」
相変わらずの女向けスマイルかましやがって、いけすかねぇ。
美咲と朱里、二人で回してるちっちゃな店だ。
「で?今日は持ってきてくれたの?」
「大丈夫です、僕が責任もって払わせますから。」
くそぉ!俺の金だぞ?
「おにいさん頼りになる!」
「あ、すいません。」
「自己紹介、まだでしたね。」
やつが名刺を美咲に渡した。
「え?スゴッ!」
「丸川書店?!チョー大手じゃん。」
朱里まで食いついてきた、だりぃ。
「いや~、もうご贔屓にしてくださいね~。」
美咲の営業スマイルがはじける。
ん?なんで俺、執筆風にしゃべってんの?
「え~っと、”ちゃい”さん?」
「”たい”です。」
へへへ!いっつも間違われてやんの!
こいつの”茶井”って苗字はなかなかないからな!
「ごめ~ん!”たい”さんね!」
美咲が笑う。
「で?なんにする?」
朱里が聞いてきた。
「お前、なに飲むんだよ?」
俺は頬杖つきながらやつに問いかける。
「あー、僕はなんでも大丈夫なんで。」
「なんでも店にあるものだったら。」
美咲がメニューをやつに渡した。
「じゃ、ラムをショットで。」
け!ラムってなんだよ!羊か!!
「秀ちゃんは?」
朱里が聞いてくる。
「勝が入れたボトルあったろ? それでいい。」
「ん~、しろだっけ?」
俺は焼酎で十分。
「え~でもお給料良いんでしょ?」
美咲はやつに興味津々だ。
「いや、普通ですよ。」
け!普通の給料であのマンションは住めねぇだろ!
くそおもしろくねぇ!俺のテリトリーまで食い込んできやがって。
「ねぇ?」
「あー?」
「なんか機嫌悪い?」
「んなことねぇよ!」
「ん~でもいつもと違うし。」
くそ!朱里は勘がよくて嫌いだ!
いつもいつも俺の先を読みやがる。
ジャ~ン♪
はい、うまいうまい!
カラオケなんか聴きたくねぇんだって!
「たいさん、唄うまいねぇ!」
「あ、新之助でいいですよ。」
「ん~じゃぁ、”新ちゃん”で!」
なんだそれ!「クレヨン○んちゃん」か!
「全然しゃべんないじゃん。」
「あ?」
「ママとあの人が仲いいの嫌?」
「はぁ?!そ、そんなわけ!」
何言い出すんだ朱里。
なんで、こうなった?
「おい。」
「ひゃい!」
「聞いてんの?お前。」
「ひゃい。」
「つうかさぁ、俺が編集会議でどんだけ苦労してるか知ってんの?」
「い、いいえ…」
「お前のくそつまんねぇプロットをさぁ。」
「すいません。」
美咲と朱里もドン引きだ。
「聞いてんのかよ!ヒデキチ!!」
「ひゃい!」
それを聞いた朱里が。
「え?!秀ちゃんってヒデキチなの?!」
美咲に耳打ちしてやがる。
それに頷く美咲。
大阪生まれの親父が太閤さんにちなんで付けた「秀吉」。
でも、そんな大物になるわけないと「ヒデキチ」に。
「俺はさぁ、お前に惚れてるんだよ?」
「ひゃい!」
って、え?
やつが俺の手を握ってきた。
やつはカウンターに突っ伏して眠ってる。
朱里はおやじ連中の相手で忙しいみたいだ。
美咲が俺に、
「あんた、大丈夫なの?」
「あ? なにが?」
「だって、あんだけ他人に触られるの嫌がってたじゃん。」
あれ?そういえば。
「さ、さぁ…」
「ふぅ~ん。」
「で、でもこいつがこんなに酔ったの初めて見たわ。」
「よく二人で呑んでんの?」
洗い物を片付けながら美咲が言ってきた。
「いや?懇親会で数回かな。」
「あんたと呑めて楽しかったんじゃない?」
「…」
なに言い出すんだ美咲。
「お客さーん困るんですよねぇ!」
「すいません…」
「オェェェェェェ~」
タクシーの運転手にこっぴどく叱られた。




